このページは、譲渡担保権について説明しています。
譲渡担保権の、成立要件、対抗要件、実行方法(清算義務/受戻権)に加えて、他の担保権との優劣関係について触れています。
1 譲渡担保の成立要件
⑴ 譲渡担保は、当事者の合意のみで成立します。
当事者の合意(譲渡担保設定契約)のみで成立します。ただし、対象物の特定は必要です(東京地裁H16.8.30)。また被担保債権の範囲も定める必要があります。
東京地裁H16.8.30(破産) 株券の特定がないとして、株式を対象とした譲渡担保権が取得できないとされた事例
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Y社は、甲(破産者)を含む取引先からなる持株会があったが、持株会を通じて取得したY社株式は全て持株会名義とされ振替機関で保管されていました。Yは、Yの取引先に対する売掛債権の担保として、取引先が持株会において有していたY社株式に対し譲渡担保を設定していました。甲の破産手続開始決定により、破産管財人に選任されたXが持株会を退会して株券の返還を請求したところ、Yが譲渡担保権を主張して返還を拒んだため、XがYに対して、譲渡担保権を有しないことの確認を求めて提訴しました。
本判決は、「商法205条1項は、『株式を譲渡するには株券を交付することを要す』と規定しており、株式の譲渡担保においても株券の交付は必要である。保管振替法23条は、『預託株券は、参加者または顧客ごとに分別しないで保管する』として振替機構は混蔵保管することを明らかにしている。そうすると、Yが本件株式について譲渡担保権を取得するためには、商法205条1項により本件株券の交付を受けることが必要となる。本件株券の交付は、Yが主張するように指図による占有移転でも可能であるが、指図をするためには占有移転の対象となる株券が特定している必要がある。ところが、本件株券は、持株会名義の他のY株式と一緒に振替機構で混蔵保管されており、訴外会社が所有する本件株券のみが他と分別されて保管されているわけではない。従って、本件株券が他の持株会名義の株券と区別できるだけの特定がなされているわけではないから、本件株券のみを他と区別して指図による占有移転をすることは不可能であるというほかない。よって、Yは、指図による占有移転によって本件株券の交付を受けることはできず、商法205条1項の要件を欠き、本件株式について譲渡担保権を取得できない。」として、Yは会社法128条1項本文(当時商法205条1項)により譲渡担保を取得できないとして、Xの請求を認めました。
⑵ 譲渡担保は、売買契約などの形を取ることがあるため譲渡契約か否かが問題となることがあります。
譲渡担保は、売買契約などの形をとるため、譲渡担保契約として認められるか否かで争われることがよくあります。個別具体的な当事者のやりとりや契約書の内容から判断されることになります。以下のような裁判例があります。
最判H14.9.12 不動産の仮登記担保か否かが争われた事案につき、譲渡担保契約であるとした判例
最判H18.2.7 不動産について買戻特約付売買契約の形式がとられていたものについて、譲渡担保契約であるとした判例
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「真正な買戻特約付売買契約においては,売主は,買戻しの期間内に買主が支払った代金及び契約の費用を返還することができなければ,目的不動産を取り戻すことができなくなり,目的不動産の価額(目的不動産を適正に評価した金額)が買主が支払った代金及び契約の費用を上回る場合も,買主は,譲渡担保契約であれば認められる清算金の支払義務(最高裁昭和42年(オ)第1279号同46年3月25日第一小法廷判決・民集25巻2号208頁参照)を負わない(民法579条前段,580条,583条1項)。このような効果は,当該契約が債権担保の目的を有する場合には認めることができず,買戻特約付売買契約の形式が採られていても,目的不動産を何らかの債権の担保とする目的で締結された契約は,譲渡担保契約と解するのが相当である。
そして,真正な買戻特約付売買契約であれば,売主から買主への目的不動産の占有の移転を伴うのが通常であり,民法も,これを前提に,売主が売買契約を解除した場合,当事者が別段の意思を表示しなかったときは,不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなしている(579条後段)。そうすると,買戻特約付売買契約の形式が採られていても,目的不動産の占有の移転を伴わない契約は,特段の事情のない限り,債権担保の目的で締結されたものと推認され,その性質は譲渡担保契約と解するのが相当である。」
最判H18.7.20 再売買を予定した動産売買契約の形式がとられていたものについて、譲渡担保契約であるとした判例
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「本件契約においては,前記のとおり,YらX人への原魚の売却と同時に,XからYへの原魚の預託が行われるため,契約時に目的物に対する直接の占有は移転せず,Yが原魚の飼育管理を継続して行うこととされている上,当初の原魚の売買代金は,XのYに対する既存の債権に充当すること,その後の売戻しと称する再売買においては,原価に年4.75%の金利を乗じた金額を加算するなどして売買代金が定められること,Yの信用不安を基礎付ける破産の申立て等の事由が生じた場合には,X人が目的物を処分し得ること等が定められているのであって,本件契約は,その目的物を,XのYに対する既存の債権及び原魚の預託期間中に発生する飼料代金の請求債権の担保とする目的で締結されたものであることが明らかである。そうすると,本件契約は,再売買が予定されている売買契約の形式を採るものであり,契約時に目的物の所有権が移転する旨の明示の合意・・・がされているものであるが,上記債権を担保するという目的を達成するのに必要な範囲内において目的物の所有権を移転する旨が合意されたにすぎないというべきであり,本件契約の性質は,譲渡担保契約と解するのが相当である。したがって,本件契約が真正な売買契約であることを前提に,所有権に基づく引渡請求(取戻権の行使)を認めることはできない。」
東京高決R2.2.14(再生) 集合債権譲渡契約の形式ががとられていたものについて、譲渡担保契約であるとしたうえで担保権消滅許可(民事再生法148条)の対象となるした裁判例
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医療法人社団甲を再生債務者とする再生手続開始申立事において、再生債務者管財人Yは、再生債務者の診療報酬債権についてXのために譲渡担保権が設定されているとして、担保権消滅許可の申立(民事再生法148条)をし、許可決定が出たのに対し抗告したのが本件です。本決定は以下のように説示して、抗告を棄却しました。
「本件債権譲渡契約書では、譲渡対象債権と担保債権は明確に区別され、譲渡対象債権については、これをXに対して真正に譲渡することを意図しているとされていたもので・・・、その文言をみる限り、本件債権譲渡契約による債権譲渡は真正な譲渡であるとの評価が導かれ得ると考えられる。
しかしながら、本件債権譲渡契約においては、譲渡の目的債権は基本的に将来発生すべき債権であって、契約締結時には、未発生ないし支払期日が到来していない3箇月分の診療報酬債権を当初譲渡対象債権とし、本件債権譲渡契約書においてその譲渡代金とされる10億円余りが契約締結の当初段階で再生債務者に交付された・・・。そして、以後、Xは、譲渡対象債権のうち最初に支払期日が到来するものについて弁済を受け、これを原資に最後に支払期日が到来するものの翌月分の診療報酬債権の譲渡代金を支払うという形で、3箇月分の未発生ないし支払期日未到来の診療報酬債権について代金の支払がされている状態が維持されることとなる・・・。これを経済的にみれば、再生債務者が診療報酬債権を保有して回収する場合と比較すると、再生債務者は、Xから譲渡代金の支払を受けることにより、自ら診療報酬債権を回収するより1箇月から3箇月早く資金を手にすることができることになるから、Xは、ほぼ常時3箇月分の買取債権金額の合計相当額(買取債権残高)について再生債務者に金融を与えていることとなる。・・・本件債権譲渡契約が果たすこのような機能を経済的視点から観察すれば、再生債務者が当初段階で10億円余りの融資を受け、2年間については利息のみを支払い、融資元本は減少しないが、その後は弁済に伴い元本額が徐々に減少すると捉えることと径庭がない。さらに、本件債権譲渡契約においては、契約締結から2年を経た後には、再生債務者の側からも解約を申し入れることができ、その場合には再生債務者が抗告人に買取債権残高(原則として3箇月分の買取債権金額の合計額になる。)に相当する金額を支払うものとされており・・・、これは、契約期間の途中で再生債務者の申入れにより契約が終了する場合には、融資残高を返済するものと捉えることとも整合する。・・・さらに、Xにおいては、その会計処理上は譲渡対象債権を資産として計上していた・・・にもかかわらず、基本事件において提出した債権届出では、再生債務者に対して買取債権残高相当の債権を有し、その債権について譲渡担保の担保権を有するとしていたものであって・・・、Xにおいても、本件債権譲渡契約によって譲渡担保権を有することになると認識していたことがうかがわれる。また、再生債務者においても、他の会計処理の方法があったかを措くとしても、当初譲渡対象債権の代金とされる10億円余りを長期借入金として処理しており・・・、少なくとも再生債務者の側としては、当初譲渡対象債権の代金として受領した金額は借入金に類するものと認識していたことが一応うかがわれる。
以上の諸事情に照らし、本件債権譲渡契約の全体を合理的に解釈すれば、譲渡対象債権の譲渡は、再生債務者が抗告人に対して与えた当初譲渡対象債権の代金やその後の買取債権残高に相当する額の融資の担保を目的とするものであって、本件債権譲渡契約が解約や解除により終了する場合に発生することとなる買取債権残高に相当する額の返還債務等に係る債権を被担保債権とする譲渡担保の実質を有すると評価することができる。」
2 譲渡担保の対抗要件
譲渡担保の対抗要件を成立すると以下のとおりとなります。
対象物 | 対抗要件 | 補 足 |
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動産 | 引渡し(占有改定)(民法178条) 又は動産・債権譲渡特例法による登記 | 占有移転で対抗要件は具備します(最判S62.11.10)。 なお、占有改定の合意い加えて、可能な範囲で明認方法により、譲渡担保対象物であることを明らかにすることも重要です(即時取得を防ぐ効果があります)。 最判S62.11.10 集合動産譲渡担保者につき、占有改定によって債権者が譲渡担保につき対抗要件を具備することを前提に、動産売買先取特権者と集合動産譲渡担保者では、対抗力を具備している限り集合動産譲渡担保権が優先するとした判例裁判例の詳細を見る 甲に対して動産売買にかかる売掛代金債権を有していたYが、動産売買先取特権に基づき甲が倉庫に保管していた当該動産につき競売申立をしたところ、Xが当該動産に対して集合譲渡担保を設定しているとして第三者異議の訴えを提起しました。第1審、控訴審ともXの請求を認容したため、Yが上告しました。 本判決は「構成部分の変動する集合動産であつても、その種類、所在場所及び量的範囲を指定するなどの方法によつて目的物の範囲が特定される場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的とすることができるものと解すべきであることは、当裁判所の判例とするところである(昭和53年(オ)第925号同54年2月15日第一小法廷判決・民集33巻1号51頁参照)。そして、債権者と債務者との間に、右のような集合物を目的とする譲渡担保権設定契約が締結され、債務者がその構成部分である動産の占有を取得したときは債権者が占有改定の方法によつてその占有権を取得する旨の合意に基づき、債務者が右集合物の構成部分として現に存在する動産の占有を取得した場合には、債権者は、当該集合物を目的とする譲渡担保権につき対抗要件を具備するに至つたものということができ、この対抗要件具備の効力は、その後構成部分が変動したとしても、集合物としての同一性が損なわれない限り、新たにその構成部分となつた動産を包含する集合物について及ぶものと解すべきである。したがつて、動産売買の先取特権の存在する動産が右譲渡担保権の目的である集合物の構成部分となつた場合においては、債権者は、右動産についても引渡を受けたものとして譲渡担保権を主張することができ、当該先取特権者が右先取特権に基づいて動産競売の申立をしたときは、特段の事情のない限り、民法三三三条所定の第三取得者に該当するものとして、訴えをもつて、右動産競売の不許を求めることができるものというべきである。」とし上告棄却した。 即時取得が可能です(福岡高判H9.12.25) 福岡高判H9.12.25 譲渡担保を即時取得することが可能であることを前提に、担保権設定者に過失があるとして即時取得を否定した裁判例裁判例の詳細を見る 水産物の卸売、加工等を行っていたXは、保管料が安くなることなどから、取引先であった甲の名義で冷凍工場でタコを保管していました。甲は、自己のYに対する債務を担保するため、自己の名義で保管していたことを利用して、当該タコに対して集合動産譲渡担保を設定し、寄託名義をYにするとともに、占有改定の方法により引き渡しました。そこで、XがYに対して当該タコの引渡しを求めて提訴したところ、Yは集合動産譲渡担保の即時取得が成立するとして争いました。 本判決は、集合動産譲渡担保に即時取得が成立することを前提として、「集合物譲渡担保は、在庫商品、原材料、生産用の機械器具、什器備品類等を担保の目的とし、その営業による収益を期待して設定される担保権であり、また前記認定のとおり、甲はYから多額の借入れを受けながらこれを支払わず、度々その弁済期が延期され、長期にわたりこれを延納していたものであるので、決してその経済状況は好ましくなく、逼迫していたことが窺われるものであるから、このような場合、Yが極めて大量で高価格の本件蛸を担保として取得するに当たっては、その担保の実効を期するために、債権者のYにおいて、目的物の所有権等につき、債務者の帳簿(在庫台帳等)を参照すること等により、相応の調査をすべき注意義務があるものというべきである。ところが、前記認定事実によれば、・・・右のような甲の通常の蛸の取扱量からすれば、不自然に大量であると考えられること・・・ 右のような大きなサイズの蛸が甲の在庫として大量にあることは、その業務内容に照らして不自然であって、当然その所有につき疑問を抱かせる事情であること・・・Yには、甲が本件蛸の所有者であると信じるについて、少なくとも過失があったといわなければならない。そうすると、Yが、本件蛸の所有権を即時取得したことを認めることはできない。」として、即時取得を認めなかった。 自動車(道路運送車両法5条)、建設機械(建設機械抵当法7条1項)、航空機(航空法3条の3)、船舶(商法687条)などは、登録が対抗要件となります。 |
不動産 | 所有権移転登記(民法177条) | 登記原因は、「売買」とすることが多いようですが、「譲渡担保」とすることも認められています。 |
債権 | 通知承諾(民法467条) 又は動産・債権譲渡特例法による登記 | 予約型債権譲渡担保における対抗要件は、予約完結について対抗要件を備える必要がある(最判H13.11.27)。 最判H13.11.27 予約型債権譲渡担保における対抗要件は、予約完結について対抗要件を備える必要があるとした判例裁判例の詳細を見る 債務者甲は、Zに対する債務の担保として、Yが経営するゴルフクラブの会員権に譲渡担保を設定することとし、譲渡予約をし、譲渡予約につき確定日付ある証書によりYに通知しました。その後、債務者甲が期限の利益を喪失したため、ZからYに予約完結の意思表示がされましたが、確定日付のある証書によるものではありませんでした。一方、国税当局X(国)は甲に対する滞納処分として、ゴルフクラブ会員権に対して差押えをし、その後、預託金の据置期間が経過して、Yに対する預託金返還請求権が行使できる状況となりました。そこで、XがYに対して預託金の支払いを求めて提訴したところ、Zがゴルフ会員権を譲渡担保により取得したとしたと主張して補助参加しましたた。第1審、控訴審ともXの請求を認容したため、Y及びZが上告しました。 本判決は「民法467条の規定する指名債権譲渡についての債務者以外の第三者に対する対抗要件の制度は、債務者が債権譲渡により債権の帰属に変更が生じた事実を認識することを通じ、これが債務者によって第三者に表示され得るものであることを根幹として成立しているところ(最高裁昭和47年(オ)第596号同49年3月7日第一小法廷判決・民集28巻2号174頁参照)、指名債権譲渡の予約につき確定日付のある証書により債務者に対する通知又はその承諾がされても、債務者は、これによって予約完結権の行使により当該債権の帰属が将来変更される可能性を了知するに止まり、当該債権の帰属に変更が生じた事実を認識するものではないから、上記予約の完結による債権譲渡の効力は、当該予約についてされた上記の通知又は承諾をもって、第三者に対抗することはできないと解すべきである。」として上告を棄却しました。 |
預託会員制ゴルフ会員権 | 通知承諾(民法467条) | クラブの入会承諾でなく確定日付ある証書による通知又は承諾が必要(最判H8.7.12)。 なお、ゴルフ会員権証書を交付しただけでは、対抗要件は具備しません。 最判H8.7.12 ゴルフ会員権に対する譲渡担保の対抗要件は、クラブの入会承諾でなく確定日付ある証書による通知又は承諾であるとした判例裁判例の詳細を見る 甲は乙ゴルフクラブの会員権を丙(会員権売買業者)に譲渡し、譲渡に必要な名義書換請求書等の書類(譲受人欄ブランク)を渡したところ、丙はさらに丁(会員権業者)に当該会員権を譲渡し、これらの書類を渡しました。丁は、Yに当該会員権を譲渡し、乙ゴルフクラブに甲からYへ名義書換えするように請求をしたところ、乙ゴルフクラブはYに対して入会承諾を通知しました。ところが、丁は、名義書換請求書を偽造し、当該ゴルフ会員権を自己のXに対する債務の譲渡担保を設定して、Xは、偽造された会員権譲渡通知書の譲受人欄に署名等をしたうえで、内容証明郵便で乙ゴルフクラブに送付しました。かかる状況において、XがYに対して、自己が会員権を有することの確認を求めて提訴した。第1審、控訴審ともXの請求を認容したことから、Yが上告をしました。 本判決は「本件会員権は預託金会員制ゴルフクラブの会員権であり、その法律関係は会員と本件ゴルフクラブを経営する乙ゴルフクラブとの債権的契約関係であるが、会員権の譲渡については、譲渡を受けた者は、乙ゴルフクラブの承認を得た上、会員権について名義書換えの手続をしなければならないものとされている。右の趣旨は、会員となろうとする者を事前に審査し、会員としてふさわしくない者の入会を認めないことにより、ゴルフクラブの品位を保つことを目的とするものというべきであるから、乙ゴルフクラブとの関係では、会員権の譲渡を受けた者は、その承認を得て名義書換えがされるまでは会員権に基づく権利を行使することができないが、譲渡の当事者間においては、名義書換えがされたときに本件ゴルフクラブの会員たる地位を取得するものとして、会員権は、有効に移転するものというべきである。そして、この場合において、右譲渡を乙ゴルフクラブ以外の第三者に対抗するには、指名債権の譲渡の場合に準じて、譲渡人が確定日付のある証書によりこれを乙ゴルフクラブに通知し、又は乙ゴルフクラブが確定日付のある証書によりこれを承諾することを要し、かつ、そのことをもって足りるものと解するのが相当である。もっとも、従来、会員権の譲渡に際して確定日付のある証書による通知承諾の手続が必ずしも履行されていなかったという実情を勘案すれば、現在までに会員権を譲り受け、既に名義書換えを完了してゴルフクラブにおいて会員として処遇されている者については、その後に当該会員権を二重に譲り受けた者や差押債権者等が、当該会員が右のような対抗要件具備の手続を経ていないことを理由としてその権利取得を否定することが、信義則上許されない場合があり得るというべきである。」としてXの請求を認めて、上告を棄却しました。 |
3 譲渡担保の実行方法
⑴ 実行方法(まとめ)
譲渡担保権者は、弁済期の経過により、帰属清算方式と処分清算方式のいずかの方法により担保権の実行ができます(最判S62.2.12、最判H6.2.22)。いずれの方法により実行できるかは当事者の合意によります(=契約書に記載されます)。
種類 | 内容 | 具体的な実行方法 |
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帰属清算方式 | 担保権者が譲渡担保の負担のない所有権を取得する方法。 | 清算金の支払又は提供、ないしは清算金が発生しない旨の通知 |
処分清算方式 | 担保権者に処分権限が与えられ、処分代金を被担保債権に充当する方法 | 担保対象物の売却等 |
二重に譲渡担保が設定された場合には、後順位の担保権者は先順位の譲渡担保権が消滅するまで実行することはできません(最判H18.7.20)。
最判H18.7.20(再生) 二重に譲渡担保が設定された場合には、後順位の担保権者は先順位の譲渡担保権が消滅するまで実行することができないこと及び、譲渡担保権設定者は通常の営業の範囲内で譲渡担保の目的物を処分する権限が与えられていることを説示した判例
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Y(民事再生会社)は、ブリ、ハマチ等の養殖、加工をしていましたが、甲らに対する債務の担保として養殖魚全部につき集合物譲渡担保を設定し、占有改訂の方法により引き渡しをしました。さらにYは、Xに対する債務を担保するためにブリに譲渡担保を設定し、Xに占有改訂による方法で引き渡しました。また、Yは、Xにハマチを売却しました。その後、Yに民事再生手続開始決定がなされたため、XはYに対し、ブリ及びハマチの所有権の確認等を求めて提訴した。第1審はXの請求を棄却しましたが、控訴審がXの請求を認容したため、Yが上告しました。
本判決は、①ブリにつき「このように重複して譲渡担保を設定すること自体は許されるとしても、劣後する譲渡担保に独自の私的実行の権限を認めた場合、配当の手続が整備されている民事執行法上の執行手続が行われる場合と異なり、先行する譲渡担保権者には優先権を行使する機会が与えられず、その譲渡担保は有名無実のものとなりかねない。このような結果を招来する後順位譲渡担保権者による私的実行を認めることはできないというべきである。」としてブリに関するXの請求を棄却しさらに、②ハマチにつき「対抗要件を備えた集合動産譲渡担保の設定者がその目的物である動産につき通常の営業の範囲を超える売却処分をした場合、当該処分は上記権限に基づかないものである以上、譲渡担保契約に定められた保管場所から搬出されるなどして当該譲渡担保の目的である集合物から離脱したと認められる場合でない限り、当該処分の相手方は目的物の所有権を承継取得することはできない」として、Xの請求を棄却しました。
なお、担保対象物が譲渡制限株式の場合、譲渡につき会社(取締役会又は株主総会、定款に定められます。)の承認が得られていない場合には、担保実行時に承認請求をする必要があります(会社法136条)。
また、譲渡担保権者には清算義務があります(最判S46.3.25)。この点は、4参照。
⑵ ゴルフ会員権の実行方法
ゴルフ会員権の実行方法は①預託金返還請求と、②自己のみならず、将来自己が譲渡する第三者への名義書換請求の大きく二つに分かれます。いずれも裁判例があります。
預託金返還請求
預託金返還請求をすることは可能とされています。
その前提となる担保権設定者の退会通知をすることも可能と解されます(東京地判H14.11.20)。ただし、権利濫用となることもあります(最判H12.2.29)。
東京地判H14.11.20:ゴルフ会員権の譲渡担保権者は、担保権の実行として預託金返還請求権を求めることが可能であり、その前提となる担保権設定者の退会の通知もすることが可能であるとした裁判例
最判H12.2.29:破産管財人の解除により相手方当事者が著しい損失を被る場合には、破産管財人による解除権の行使が認められないとした判例
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Yが経営するゴルフ場のゴルフ会員権を保有する会員甲につき破産手続開始決定がなされ、管財人に選任さたXがYに対し、ゴルフ会員契約を破産法53条1項に基づき解除し、預託金全額の返還を請求したところ、第1審、控訴審ともXの請求を認めたため、Yが上告したところ、以下のように破棄自判し、Xの請求を棄却しました。
「・・・破産法59条1項が破産宣告当時双務契約の当事者双方に未履行の債務がある場合に破産管財人が契約を解除することができるとしているのは、契約当事者双方の公平を図りつつ、破産手続の迅速な終結を図るためであると解される。そうすると、破産宣告当時双務契約の当事者双方に未履行の債務が存在していても、契約を解除することによって相手方に著しく不公平な状況が生じるような場合には、破産管財人は同項に基づく解除権を行使することができないというべきである。この場合において、相手方に著しく不公平な状況が生じるかどうかは、解除によって契約当事者双方が原状回復等としてすべきことになる給付内容が均衡しているかどうか、破産法六〇条等の規定により相手方の不利益がどの程度回復されるか、破産者の側の未履行債務が双務契約において本質的・中核的なものかそれとも付随的なものにすぎないかなどの諸般の事情を総合的に考慮して決すべきである。
・・・預託金会員制ゴルフクラブの会員が破産した場合、これを理由にその破産管財人が破産者の会員契約を解除できるとすると、ゴルフ場経営会社は、他の会員との関係からゴルフ場施設を常に利用し得る状態にしておかなければならない状況には何ら変化がないにもかかわらず、本来一定期間を経過した後に返還することで足りたはずであり、しかも、当初からゴルフ場施設の整備に充てられることが予定されていた預託金全額の即時返還を強いられる結果となる・・・その一方で、破産財団の側ではゴルフ場施設利用権を失うだけであり、殊更解除に伴う財産的な出捐を要しないのであって、甚だ両者の均衡を失しているといわざるを得ない。・・・市場における当該ゴルフ会員権の価値が預託金の額より低額である場合に、破産法59条1項による解除権を行使することによって、価値の低いゴルフ会員権を失う対価として預託金全額の即時返還を請求し得るとするならば、著しく不当な事態を肯定することになるといわざるを得ない。 ・・・これらにかんがみると、破産管財人Xが本件会員契約を解除するときは、これによりYに著しく不公平な状況が生じるということができるから、Xは、破産法59条1項により本件会員契約を解除することができないというべきである。 」
自己のみならず、将来自己が譲渡する第三者への名義書換請求
担保権者への名義書換については認められると解されますが、将来担保権者が譲渡する第三者への名義書換請求が可能かどうかについては、争いがあり、裁判例も分かれています(東京地判H7.12.13、東京地判H7.2.22)。
東京地判H7.12.13:ゴルフ会員権の譲渡担保権につき、担保権者から将来会員権を取得する第三者への名義書換請求を認めた裁判例(再譲渡担保の事例)
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Yは、甲の乙に対する債務の担保として、自己が有するゴルフ会員権に譲渡担保を設定しました。なお、その際に、乙が再担保に供することを承諾していました。その後、乙はXに対する債務の担保として、当該会員権に再譲渡担保を設定していたところ、乙が期限の利益を喪失したことから、Xが当該会員権の譲渡通知をゴルフ経営会社に通知した。そこで、XがYに対し、ゴルフ会員権の名義を、XまたはXから会員権を取得した第三者に変更するように求めて提訴しました。
本判決は、「本件会員権のようないわゆる預託金会員組織ゴルフ会員権を目的とする譲渡担保設定契約において、設定者が譲渡担保権者に対して、譲渡担保権者及び将来、譲渡担保権者から右ゴルフ会員権を取得した第三者のために、ゴルフ会員権の名義書換手続に協力する旨を承諾していた場合には、譲渡担保権者は設定者に対して、譲渡担保権者あるいはこれからゴルフ会員権を取得した不特定の第三者への名義書換手続に協力するよう求める請求権を取得するものと解され、譲渡担保権者が右ゴルフ会員権を再譲渡担保に供した場合には、ゴルフ会員権とともにこれと一体として右名義書換手続協力請求権も再譲渡担保の目的となると解するのが相当である。したがって、再譲渡担保権者は、譲渡担保権の実行によりゴルフ会員権を自ら取得する場合には、右名義書換手続協力請求権をも取得し、これに基づいて、設定者に対し、自己又は自己から将来、ゴルフ会員権を取得した第三者に対する名義書換手続を求めることができるというべきである。」として、Xの請求を認容しました。
東京地判H7.2.22:
ゴルフ会員権の譲渡担保権につき、担保権者に対する名義書換請求は認めるが、担保権者から将来会員権を取得する第三者への名義書換請求は認められないとした裁判例裁判例の詳細を見る
ゴルフ会員権の譲渡担保権者Xが、担保権設定者Yに対して、自己又は自己から将来会員権を取得する第三者への名義書換請求を求めて提訴したところ、Xに対する名義書換請求は認めたものの、第三者名義に変更する旨の名義変更承認手続については、「Xは、本件訴状送達によって訴外会社に対する貸金債務の弁済に代えて、本件会員権を取得する旨の通知をしたことに伴って本件の根担保関係も消滅し、Yは、本件会員権に基づいて本件債務を弁済してその回復を図る機能を確定的に失い、Xは、これを第三者に対して処分する権限を取得するに至ったものと認められ、これに伴って、Yは、原則として、譲渡担保権者の換価処分により将来本件会員権を取得した第三者のために名義書換を得るための手続に協力する義務を負担するに至るというべきであるところ、本件においては、Xが、Yのゴルフ会員権担保差入証、本件会員権、印鑑登録証明書、委任状(甲第三ないし第七号証)の交付を受けているという本件契約関係に鑑みると、Yは、Xが、本件会員権を第三者へ売却する等して譲渡した場合には、これに伴う名義書換の承認を得るための手続に協力することを予め承諾し、それに必要な書類の交付をして、その権限をXに付与したものと認められるが、本件において、Xは、未だ第三者に対して本件会員権を譲渡しておらず、Yの第三者のためにするべき名義書換に関する義務は、現在する具体的な法的義務として明確に措定されていないのであって、右請求の基礎となる権利関係を確定することができないので、本件においては、将来の請求を現在の請求において求める利益はないといわざるを得ない。この点、本件会員権については担保として取得したもので第三者に売却し譲渡することが前提となっており、将来Xが第三者に対して譲渡した場合、いったんXに名義変更をした上で第三者のために名義変更することは、名義書換のための書換手数料等の費用の支出を余儀なくされる等担保に供した利益が損われるのみならず、円滑に譲渡することができない畏れがあるので、かかる危惧を避けるために予め名義書換を求める利益があるものと解されないではないが、これが、将来の意思表示を求める法的な利益と解することはできないし、本件においては、右将来の請求を予め請求するべき具体的な事由や必要性も存しないので、この点に関するXの請求は採用できない。」として請求を認めませんでした。
⑶ 物上代位
判例により、譲渡担保権による物上代位は認められています(最決H11.5.17)。
ただし、営業用資産や売掛金など、債務者が営業を継続することを前提に設定されている集合動産譲渡担保については、通常の営業を継続している間、特段の事情がある場合を除いて、物上代位は行使できないと解されています(最決H22.12.2)。
裁判例としては以下のものがあります。
裁判例 | 説示内容 |
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最決H11.5.17(破産) | 信用状取引に基づき輸入する商品に対して設定した譲渡担保につき、譲渡担保に基づく物上代位を認めた決定
裁判例の詳細を見る 銀行Xは、甲社(破産者)との間の信用状取引に関連して、同取引に関して発生する与信(輸入代金決済資金等)の担保として、当該信用状に基づき輸入する商品等に対して譲渡担保権を設定しました。甲社につき破産手続開始決定がなされYが破産管財人に選任されました。一方Xが譲渡担保権の物上代位に基づき甲社の乙社に対する売買代金債権(譲渡担保の対象となっていた商品等を甲が乙に売却したことにより発生した債権)に対する差押えを申し立てたところ、第1審、控訴審ともXの申立てを認めたため、Yが許可抗告を申し立てました。 本決定は、「右の事実関係の下においては、信用状発行銀行であるXは、輸入商品に対する譲渡担保権に基づく物上代位権の行使として、転売された輸入商品の売買代金債権を差し押さえることができ、このことは債務者である甲が破産宣告を受けた後に右差押えがされる場合であっても異なるところはないと解するのが相当である。」として、抗告を棄却しました。 |
東京地判H14.8.26(再生) | 売掛金債権に対する譲渡担保につき、当該売掛金支払のために振り出された手形に対する代償的取戻権(民事再生法52条2項。なお破産法64条もほぼ同様に定める。)は成立しないが、不当利得が成立するとされた事例
裁判例の詳細を見る Yは、銀行Xからの借入れに対する担保として、Yの甲に対する売掛金債権に譲渡担保を設定し債権譲渡登記も経由したところ、Yに民事再生手続決定がなされたました。甲は、Yの民事再生手続開始直後に支払のための約束手形をYに対して降り出したため、XはYに対して当該手形金を支払うように求め、XYは、協議のうえ、手形の取立金はXのY名義の口座に入金したうえで裁判所の判断を仰ぐ旨の合意をしました。そこで、XがYに対して、主位的には約束手形にも譲渡担保権が及んでいるとして代償的取戻権(民事再生法52条2項。なお破産法64条もほぼ同様に定める)に基づき預金債権の譲渡を、予備的には不当利得返還求めて提訴しました。 本判決は、「特定の債権の支払のために手形が振り出された場合には、原因債権と手形債権とが併存し、支払期日に手形金が支払われると原因債権が弁済により消滅し、その逆に、原因債権が弁済されて消滅すると原因関係の消滅により手形を保持する権原が失われるという関係になるが、手形債権と原因債権とは上記のような点で牽連するものの、それぞれが別個独立して譲渡、処分にかかる債権であるから、原因債権について譲渡担保権を設定したからといって、手形債権にまで譲渡担保権が設定されたことになるものではなく、また、前記のとおり、甲からYに対する本件手形の振出は、Xが債権譲渡通知をする前にされているから、甲がYに本件手形を振り出したことに法的な問題はなく、Yは本件手形上の権利を適法に取得していることになる。」としてXの主位的請求は棄却したが、予備的請求について「本件手形はYが甲から本件売掛金債権の支払のために振出を受けたものであるから、Yが本件売掛金債権について期限の利益を失った後には、Yは本件売掛金債権の譲渡担保権者であるXとの関係において本件手形の実質的な取立権原を失い、本件手形金はXに帰属すべきものとなったというべきであるから、Xとの関係で見れば、本件手形の取り立てによるYの利得は法律上の原因を欠いているといわざるを得ない。」として不当利得返還請求が成立し、かかる請求が民事再生手続開始後(預金成立時)であり民事再生法119条6号の共益債権にあたるとして、Xの請求を認めました。 |
最決H22.12.2 | 担保対象物が滅失した場合の共済金請求権(損害保険金の請求権)に対する物上代位は認められるとしたうえで、譲渡担保権設定者が通常の営業を継続している場合には、特段の事情がない限り、物上代位権を行使することは許されないと留保を付した判例
裁判例の詳細を見る 魚の養殖業者であるYは、金融機関Xに対する債務の担保として、養殖魚及び施設につき譲渡担保を設定していたところ、当該養殖魚が赤潮により死滅したため、養殖業を廃業することとしました。Xは譲渡担保権の実行として、残っていた養殖魚などを売却して被担保債権の一部に充当したうえで、養殖魚の死滅に対する漁業共済金請求権を譲渡担保の物上代位として差押えを申立てたところ、債権差押え命令の発令を受けました。そこで、Yが執行抗告をしたが棄却されたため、許可抗告をしました。 本決定は、「構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保権は、譲渡担保権者において譲渡担保の目的である集合動産を構成するに至った動産(以下「目的動産」という。)の価値を担保として把握するものであるから、その効力は、目的動産が滅失した場合にその損害をてん補するために譲渡担保権設定者に対して支払われる損害保険金に係る請求権に及ぶと解するのが相当である。もっとも、構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保契約は、譲渡担保権設定者が目的動産を販売して営業を継続することを前提とするものであるから、譲渡担保権設定者が通常の営業を継続している場合には、目的動産の滅失により上記請求権が発生したとしても、これに対して直ちに物上代位権を行使することができる旨が合意されているなどの特段の事情がない限り、譲渡担保権者が当該請求権に対して物上代位権を行使することは許されないというべきである。上記事実関係によれば、Xが本件共済金請求権の差押えを申し立てた時点においては、Yは目的動産である本件養殖施設及び本件養殖施設内の養殖魚を用いた営業を廃止し、これらに対する譲渡担保権が実行されていたというのであって、Yにおいて本件譲渡担保権の目的動産を用いた営業を継続する余地はなかったというべきであるから、Xが、本件共済金請求権に対して物上代位権を行使することができることは明らかである。」として、Yの抗告を棄却した。 |
4 担保権者の清算義務
判例により、担保権者は、帰属清算方式又は処分清算方式により担保権を実行した場合、担保対象物が被担保債権を超える金額を清算する義務を負うとされています(最判S46.3.25)。
清算義務については、以下のような裁判例があります。
裁判例 | 要旨・説示内容 |
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最判S46.3.25 | 譲渡担保について担保権者に清算義務を認めた判例
裁判例の詳細を見る 「貸金債権担保のため債務者所有の不動産につき譲渡担保形式の契約を締結し、債務者が弁済期に債務を弁済すれば不動産は債務者に返還するが、弁済をしないときは右不動産を債務の弁済の代わりに確定的に自己の所有に帰せしめるとの合意のもとに、自己のため所有権移転登記を経由した債権者は、債務者が弁済期に債務の弁済をしない場合においては、目的不動産を換価処分し、またはこれを適正に評価することによつて具体化する右物件の価額から、自己の債権額を差し引き、なお残額があるときは、これに相当する金銭を清算金として債務者に支払うことを要するのである。そして、この担保目的実現の手段として、債務者に対し右不動産の引渡ないし明渡を求める訴を提起した場合に、債務者が右清算金の支払と引換えにその履行をなすべき旨を主張したときは、特段の事情のある場合を除き、債権者の右請求は、債務者への清算金の支払と引換えにのみ認容されるべきものと解するのが相当である(最高裁判所昭和43年(オ)第371号、同45年9月24日第一小法廷判決)。」 |
東京地判H10.9.24 | 譲渡担保権者自らが担保対象物に火災保険を掛けている場合、保険金につき譲渡担保権者は清算義務を負わないとした裁判例
裁判例の詳細を見る 譲渡担保権者Y自らが譲渡担保対象物に火災保険をかけていたことにより譲渡担保権者Yが保険金を受け取ったことに対して、譲渡担保権設定者Xが清算金を請求して提訴したところ、本判決は「担保権者が保険契約者兼被保険者となって保険契約を締結した上で自ら保険料を支払い、その結果、保険事故の発生により担保権者が火災保険金を取得した場合には、文理上も前掲各条の規定する物上代位に該当しないことはもとより、担保権者は所有者に対する関係で目的物の保存につき何らの義務を負担するものではなく、他方、所有者は、自ら火災保険契約を締結して目的物の焼失による危険に備える機会があったにもかかわらずそれをしなかったということができるのであって、担保権者が自らの判断と負担により保険契約を締結していたことにより所有者が自ら保険契約を締結していたのと同様の利益を受けることを主張できるとすることは、例えば実質的には保険料を所有者が負担していたなど、担保権者と所有者との間で当該保険契約に基づく保険金をもって目的物に代えることを暗黙のうちに前提としていたというような事情が存する場合であれば格別、そうでない限り、当事者間の衡平にもとるというべきである。」として請求を認めませんでした。 |
最判H8.11.22 | 譲渡担保権設定者からの担保権実行(清算金請求)をすることはできないとした裁判例
裁判例の詳細を見る XはYに対する債務につき、不動産に譲渡担保を設定していたが、履行遅滞後、Yから清算金の支払ないしは提供又は清算金がない旨の通知を受ける前に、X(正確にはXに相続財産管理人が選任されています)からYに対して清算金の支払を求めて提訴しました。第1審、控訴審ともXの請求を認容したためYが上告したところ、本判決は、以下のように説示して、原審を破棄して、Xの請求を棄却しましたた。 「譲渡担保権設定者は、譲渡担保権者が清算金の支払又は提供をせず、清算金がない旨の通知もしない間に譲渡担保の目的物の受戻権を放棄しても、譲渡担保権者に対して清算金の支払を請求することはできないものと解すべきである。けだし、譲渡担保権設定者の清算金支払請求権は、譲渡担保権者が譲渡担保権の実行として目的物を自己に帰属させ又は換価処分する場合において、その価額から被担保債権額を控除した残額の支払を請求する権利であり、他方、譲渡担保権設定者の受戻権は、譲渡担保権者において譲渡担保権の実行を完結するまでの間に、弁済等によって被担保債務を消滅させることにより譲渡担保の目的物の所有権等を回復する権利であって、両者はその発生原因を異にする別個の権利であるから、譲渡担保権設定者において受戻権を放棄したとしても、その効果は受戻権が放棄されたという状況を現出するにとどまり、右受戻権の放棄により譲渡担保権設定者が清算金支払請求権を取得することとなると解することはできないからである。また、このように解さないと、譲渡担保権設定者が、受戻権を放棄することにより、本来譲渡担保権者が有している譲渡担保権の実行の時期を自ら決定する自由を制約し得ることとなり、相当でないことは明らかである。」 |
最判H15.3.27 | 担保権者の担保物の引渡し請求と、担保権設定者の清算金支払いは同時履行の関係に立つため、履行の提供をしなければ、相手を履行遅滞とすることはできないとした判例
裁判例の詳細を見る 債務者Xは債権者Yに対して自己が占有する土地建物を譲渡担保に提供していましたが、Xが期限の利益を喪失したためYは甲に当該土地建物を売却しました。Xは、建物の占有を継続しつつ、Yに対して、清算金及び売却時からの遅延損害金の支払などを求めて提訴しましたた(Xは甲に対しても提訴していますが省略します)。 本判決は、「譲渡担保権の実行に伴って譲渡担保権設定者が取得する清算金請求権と譲渡担保権者の譲渡担保契約に基づく当該譲渡担保の目的不動産についての引渡しないし明渡しの請求権とは同時履行の関係に立ち、譲渡担保権者は、譲渡担保権設定者から上記引渡しないし明渡しの債務の履行の提供を受けるまでは、自己の清算金支払債務の全額について履行遅滞による責任を負わないと解するのが相当である・・・。したがって、Xが本件建物の明渡債務につき履行の提供をしたことの主張立証がない本件においては、甲が本件清算金の支払債務につき履行遅滞の責任を負って本件清算金に対する遅延損害金が発生することはない。・・・XのYに対する請求は、本件清算金の支払を求める限度で理由があり、これに対する遅延損害金の請求は棄却すべきものである。」として、遅延損害金は発生しないとしたうえで、清算金との引き換えに建物明渡しを命ずる、引換給付判決をしました。 |
最判H9.4.11 | 譲渡担保権設定者は、譲渡担保権者に対する清算金支払請求権を被担保債権とする留置権を主張することができるとした判例
裁判例の詳細を見る 甲はYに対する債権を担保するため、Y所有の建物に譲渡担保を設定したところ、Yが債務の返済を遅滞したため、甲は譲渡担保権の実行として、当該建物を乙に売り渡し、その後乙から丙、丙からXに売買されました。XがYに対して、所有権に基づき建物明渡しを求めたところ、Yは、甲から清算金の支払を受けるまで、建物につき留置権を行使してその明渡しを拒絶することができるとして争いました。 本判決は「不動産を目的とする譲渡担保権が設定されている場合において、譲渡担保権者が譲渡担保権の実行として目的不動産を第三者に譲渡したときは、譲渡担保権設定者は、右第三者又は同人から更に右不動産の譲渡を受けた者からの明渡請求に対し、譲渡担保権者に対する清算金支払請求権を被担保債権とする留置権を主張することができるものと解するのが相当である」としてYの抗弁を認めました。 |
5 受戻権
⑴ 受戻権とは
受戻権とは、「譲渡担保権者が譲渡担保権の実行を完結するまでの間に、弁済等によって被担保債権を消滅させることにより譲渡担保の目的物の所有権等を回復する権利」をいいます(最判H8.11.22)。譲渡担保権設定者は、譲渡担保権者が担保権実行までの間、被担保債務額を弁済することにより、目的物を受け戻すことが可能とされています(最判S62.2.12)。
最判H8.11.22
裁判例の詳細を見る
XはYに対する債務につき、不動産に譲渡担保を設定していたが、履行遅滞後、Yから清算金の支払ないしは提供又は清算金がない旨の通知を受ける前に、X(正確にはXに相続財産管理人が選任されています)からYに対して清算金の支払を求めて提訴しました。第1審、控訴審ともXの請求を認容したためYが上告したところ、本判決は、以下のように説示して、原審を破棄して、Xの請求を棄却しましたた。
「譲渡担保権設定者は、譲渡担保権者が清算金の支払又は提供をせず、清算金がない旨の通知もしない間に譲渡担保の目的物の受戻権を放棄しても、譲渡担保権者に対して清算金の支払を請求することはできないものと解すべきである。けだし、譲渡担保権設定者の清算金支払請求権は、譲渡担保権者が譲渡担保権の実行として目的物を自己に帰属させ又は換価処分する場合において、その価額から被担保債権額を控除した残額の支払を請求する権利であり、他方、譲渡担保権設定者の受戻権は、譲渡担保権者において譲渡担保権の実行を完結するまでの間に、弁済等によって被担保債務を消滅させることにより譲渡担保の目的物の所有権等を回復する権利であって、両者はその発生原因を異にする別個の権利であるから、譲渡担保権設定者において受戻権を放棄したとしても、その効果は受戻権が放棄されたという状況を現出するにとどまり、右受戻権の放棄により譲渡担保権設定者が清算金支払請求権を取得することとなると解することはできないからである。また、このように解さないと、譲渡担保権設定者が、受戻権を放棄することにより、本来譲渡担保権者が有している譲渡担保権の実行の時期を自ら決定する自由を制約し得ることとなり、相当でないことは明らかである。」
⑵ 受戻権の行使期限の基本(最判S62.2.12)
最判S62.2.12は受戻権の行使期限について、以下のように説示しました。
場合分け | 受戻権の行使期限 |
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帰属清算型で、目的不動産の適正評価額が債務の額を上回る場合 | ・清算金の支払又はその提供をするまでの間 ・債権者が目的不動産を第三者に売却等をするときまで |
帰属清算型で、目的不動産の適正評価額が債務の額を上回らない場合 | ・目的不動産の適正評価額が債務の額を上回らない旨の通知をするまで ・債権者が目的不動産を第三者に売却等をするときまで |
処分清算型の場合 | 処分の時まで |
最判S62.2.12 帰属清算型の譲渡担保の受戻権消滅時期(清算金の有無及びその額の確定時期)につき説示した判例
裁判例の詳細を見る
「債務者がその所有不動産に譲渡担保権を設定した場合において、債務者が債務の履行を遅滞したときは、債権者は、目的不動産を処分する権能を取得し、この権能に基づき、目的不動産を適正に評価された価額で確定的に自己の所有に帰せしめるか又は第三者に売却等をすることによつて、これを換価処分し、その評価額又は売却代金等をもつて自己の債権(換価に要した相当費用額を含む。)の弁済に充てることができ、その結果剰余が生じるときは、これを清算金として債務者に支払うことを要するものと解すべきであるが(最高裁昭和42年(オ)第1279号同46年3月25日第一小法廷判決・民集25巻2号208頁参照)、他方、弁済期の経過後であつても、債権者が担保権の実行を完了するまでの間、すなわち、(イ)債権者が目的不動産を適正に評価してその所有権を自己に帰属させる帰属清算型の譲渡担保においては、債権者が債務者に対し、目的不動産の適正評価額が債務の額を上回る場合にあつては清算金の支払又はその提供をするまでの間、目的不動産の適正評価額が債務の額を上回らない場合にあつてはその旨の通知をするまでの間、(ロ)目的不動産を相当の価格で第三者に売却等をする処分清算型の譲渡担保においては、その処分の時までの間は、債務者は、債務の全額を弁済して譲渡担保権を消滅させ、目的不動産の所有権を回復すること(以下、この権能を「受戻権」という。)ができるものと解するのが相当である・・・。けだし、譲渡担保契約の目的は、債権者が目的不動産の所有権を取得すること自体にあるのではなく、当該不動産の有する金銭的価値に着目し、その価値の実現によつて自己の債権の排他的満足を得ることにあり、目的不動産の所有権取得はかかる金銭的価値の実現の手段にすぎないと考えられるからである。
右のように、帰属清算型の譲渡担保においては、債務者が債務の履行を遅滞し、債権者が債務者に対し目的不動産を確定的に自己の所有に帰せしめる旨の意思表示をしても、債権者が債務者に対して清算金の支払若しくはその提供又は目的不動産の適正評価額が債務の額を上回らない旨の通知をしない限り、債務者は受戻権を有し、債務の全額を弁済して譲渡担保権を消滅させることができるのであるから、債権者が単に右の意思表示をしただけでは、未だ債務消滅の効果を生ぜず、したがつて清算金の有無及びその額が確定しないため、債権者の清算義務は具体的に確定しないものというべきである。もつとも、債権者が清算金の支払若しくはその提供又は目的不動産の適正評価額が債務の額を上回らない旨の通知をせず、かつ、債務者も債務の弁済をしないうちに、債権者が目的不動産を第三者に売却等をしたときは、債務者はその時点で受戻権ひいては目的不動産の所有権を終局的に失い、同時に被担保債権消滅の効果が発生するとともに、右時点を基準時として清算金の有無及びその額が確定されるものと解するのが相当である。」
⑶ 受戻権の行使期限の補足
最判S62.2.12に加えて、受戻権の行使期限に関して以下の裁判例があります。
裁判例 | 受戻権の行使時期等に関する説示内容 |
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最判H6.2.22 | 譲渡担保権設定者は、受戻権を、譲渡担保権者が背信的悪意者に譲渡した場合であっても行使することはできないと説示した判例。
裁判例の詳細を見る 債務者Yは、債権者甲に対する債務の担保として、不動産に譲渡担保を設定し、登記も経由しました。Yが期限の利益を喪失したのち、甲は事情を知るX(Xは当該不動産に居住してたところ、Yから明渡訴訟を受け明渡したのち、Yが占有していました)に当該不動産を譲渡し登記も移転し、一方で、Yは被担保債権につき弁済供託をしました。そこで、XがYに対して、建物明渡を求めて提訴したのに対し、第1審はXの請求を認めましたが、控訴審はXが背信的悪意者であることを理由としてXの請求を棄却したためXが上告しました。 本判決は「不動産を目的とする譲渡担保契約において、債務者が弁済期に債務の弁済をしない場合には、債権者は、右譲渡担保契約がいわゆる帰属清算型であると処分清算型であるとを問わず、目的物を処分する権能を取得するから、債権者がこの権能に基づいて目的物を第三者に譲渡したときは、原則として、譲受人は目的物の所有権を確定的に取得し、債務者は、清算金がある場合に債権者に対してその支払を求めることができるにとどまり、残債務を弁済して目的物を受け戻すことはできなくなるものと解するのが相当である(最高裁昭和46年(オ)第503号同49年10月23日大法廷判決・民集28巻7号1473頁、最高裁昭和60年(オ)568号同62年2月12日第一小法廷判決・民集41巻1号67頁参照)。この理は、譲渡を受けた第三者がいわゆる背信的悪意者に当たる場合であっても異なるところはない。けだし、そのように解さないと、権利関係の確定しない状態が続くばかりでなく、譲受人が背信的悪意者に当たるかどうかを確知し得る立場にあるとは限らない債権者に、不測の損害を被らせるおそれを生ずるからである。」として、破棄差戻ししました。 |
東京高判H9.7.31 | 譲渡担保権者の担保対象物の譲渡には、売却だけでなく、抵当権設定など所有者でなければできない法律行為も含まれ、その行為により受戻権が消滅するとともに清算義務が発生すると解されると説示した裁判例。
裁判例の詳細を見る 債権者Xは、債務者Yに対する債権を担保するためY所有の不動産に対して譲渡担保を設定していたが、Yの期限の利益喪失後、Xは甲の乙に対する債権に対する根抵当権を設定し登記しました。XはY(正確にはYの被相続人)に対し不動産の明渡等を求めて提訴したが、YはXに対し抵当権設定時にXには清算金支払義務が発生しているとして、清算金支払との同時履行を主張しました。 第1審は、Yの同時履行の主張を認めたためXが控訴したところ、本判決は、「いわゆる帰属清算型の譲渡担保においては、債権者が清算金の支払い若しくはその提供又は目的不動産の適正評価額が債務の額を上回らない旨の通知をせず、かつ、債務者も債務の弁済をしないうちに、債権者が、目的不動産を第三者等に売却等をしたときは、債務者は、その時点で受戻権ひいては目的不動産の所有権を終局的に失い、同時に被担保債権消滅の効果が発生するとともに、右時点を基準として清算金の有無及びその額が確定されるものと解すべきところ(最高裁判所第一小法廷昭和62年2月12日判決・民集41巻1号67頁)、右にいう目的不動産の「売却等」とは、債権者が当該目的物の所有権を確定的に取得したことを前提とする処分行為を意味するものというべきであるから、第三者に対する売却処分のほか、売却には至らなくとも、社会通念上、当該目的物の所有者でなければすることのできない法律行為を含むものと解するのが相当である。」として、控訴を棄却した。 |
最判H18.10.20 | 被担保債権の弁済期経過後、担保権者の債権者から担保物件につき差押登記をされた場合、担保権設定者は受戻権を行使することはできないが、被担保債権の弁済期前であれば、設定者は受戻権を行使できると説示した判例。
裁判例の詳細を見る 債務者Xは、甲に対する債務を担保するため自己の有する不動産につき譲渡担保を設定していたところ、被担保債権の弁済期の経過後、甲の債権者であるYが強制競売を申し立て、同競売に基づく差押登記がなされました。その後、Xは甲に被担保債権全額を弁済したうえで、Yに対し、第三者異議の訴えを提起したところ、第1審はXの請求を認容しましたが、控訴審は請求を棄却したため、Xが上告しました。 本判決は「不動産を目的とする譲渡担保において、被担保債権の弁済期後に譲渡担保権者の債権者が目的不動産を差し押さえ、その旨の登記がされたときは、設定者は、差押登記後に債務の全額を弁済しても、第三者異議の訴えにより強制執行の不許を求めることはできないと解するのが相当である。なぜなら、設定者が債務の履行を遅滞したときは、譲渡担保権者は目的不動産を処分する権能を取得するから(最高裁昭和55年(オ)第153号同57年1月22日第二小法廷判決・民集36巻1号92頁参照)、被担保債権の弁済期後は、設定者としては、目的不動産が換価処分されることを受忍すべき立場にあるというべきところ、譲渡担保権者の債権者による目的不動産の強制競売による換価も、譲渡担保権者による換価処分と同様に受忍すべきものということができるのであって、目的不動産を差し押さえた譲渡担保権者の債権者との関係では、差押え後の受戻権行使による目的不動産の所有権の回復を主張することができなくてもやむを得ないというべきだからである。 上記と異なり、被担保債権の弁済期前に譲渡担保権者の債権者が目的不動産を差し押さえた場合は、少なくとも、設定者が弁済期までに債務の全額を弁済して目的不動産を受け戻したときは、設定者は、第三者異議の訴えにより強制執行の不許を求めることができると解するのが相当である。なぜなら、弁済期前においては、譲渡担保権者は、債権担保の目的を達するのに必要な範囲内で目的不動産の所有権を有するにすぎず、目的不動産を処分する権能を有しないから、このような差押えによって設定者による受戻権の行使が制限されると解すべき理由はないからである。」としてXの請求を棄却しました。 |
最判H6.9.8 | 譲渡担保権の受戻しと、被担保債権の弁済は、同時履行でなく被担保債権の弁済が先履行となるため、被担保債権の弁済が終了するまで受戻権を行使することはできないと説示した判例。
裁判例の詳細を見る Xは、債務者甲の債権者Yに対する担保として乙社の株式を譲渡担保としてYに交付しました(なお、XY間の契約が買戻条件付譲渡か、譲渡担保かについても争われ、控訴審は譲渡担保と認定しています)。その後、甲が期限の利益を喪失したため、XはYに対し、債務の支払と引き換えに株式を引き渡すように求めて提訴しました。第1審は、XY間の契約を買戻条件付譲渡契約としてXの請求を棄却しましたが、控訴審はXY間の契約を譲渡担保契約としたうえで、Xの請求を棄却しました。そこで、Xが上告しました。 本判決は、「債務の弁済と譲渡担保の目的物の返還とは、前者が後者に対し先履行の関係にあり、同時履行の関係に立つものではないと解すべきであるから(最高裁昭和56年(オ)第890号同57年1月19日第三小法廷判決・裁判集民事135号33頁、最高裁昭和55年(オ)第488号同61年4月11日第二小法廷判決・裁判集民事147号515頁参照)」として、上告を棄却しました。 |
6 他の担保権との競合
譲渡担保は、他の担保権と競合することが多く、裁判例も集積されています。
⑴ 所有権留保との競合
所有権留保と競合については所有権留保が優先します(最判S58.3.18、最判H30.12.7)。
最判S58.3.18:結論 所有権留保との競合では所有権留保が優先する。
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Yは、自己の店舗の賃借権、敷金返還請求権、電話加入権、営業権及び店舗内動産を、所有権留保をつけて甲に売却しました。ところが、甲は、Yに代金を完済していなかつたにもかかわらずXに対し動産を譲渡担保に供する旨を約して、Xから資金を借り受けました。その後甲は、代金の分割払を怠るようになり、Xは、Yに対し甲に残債務があればXが支払うので知らせてほしいと申し入れ回答を得たので、更にXが甲に債務額を確認するまで賃借権等及び動産の処分を猶予するよう要請したところ、Yはこれに応じるかのような態度を示しましたが、Yは、Xになんら通知することなく乙に対し、賃借権等及び本件動産を売渡し現実の引渡しを了しました。そこで、XがYに対して損害賠償を請求して提訴しました。
本判決は「YとX間の法律関係をみると、Yは買主である甲が代金の分割払を怠つたため本件売買契約の目的である賃借権等及び本件動産を何時でも他に処分することができる権利を有していたのに対し、XはYが右の処分をする前に残代金を提供しなければYに対し本件動産についての譲渡担保権を主張できない立場にあつたことが明らかであるが、更に原審の認定するところによると、XがYに右の処分を暫く猶予するよう要請したのに対し、Yはこれに応じるかのような態度を示したものの、猶予する旨を約束するまでには至らなかつたというのであるから、YとX間の前記の法律関係にはなんらの変更も生じなかつたものといわなければならない。したがつて、Yがその処分をしても、XがYの右の態度に信頼した結果支出した費用につきこれを損害として賠償すべきであるか否かの問題が生じることはあつても、もともとYに対して主張できない譲渡担保権についてその侵害があつたものということはできないから、XはYに対し譲渡担保権の喪失を損害としてその賠償を請求することはできないものといわなければならない。」として、Xの請求を棄却しました。
最判H30.12.7:結論 所有権留保との競合では所有権留保が優先する。
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Yと甲は、Yが甲に対して代金支払いまでYに所有権を留保したうえで金属スクラップ等を継続的に売却する旨の契約を締結しました。なお、Yは、甲に対して、売却した金属スクラップ等の転売を包括的に承諾していました。一方で金融機関Xと甲は、甲の在庫を対象物とする譲渡担保契約を締結し、占有改定の方法によってYに引渡し、かつ動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律3条1項に規定する登記とした、甲に貸出をした。その後、甲がYに対する代金を一部未払いの状態で、事業を廃止する旨の通知をしたことから、Yは、留保している所有権に基づき、動産引渡断行の仮処分命令決定を得て、金属スクラップ等を引き揚げ、その頃これを第三者に売却しました。そこで、Xが、Yに対し、金属スクラップ等の引揚げ及び売却がXに対する不法行為に当たるなどとして、損害賠償請求等をしたのが本件になります。
本判決は「本件動産の所有権は、本件条項の定めどおり、その売買代金が完済されるまでYから甲に移転しないものと解するのが相当である。したがって、本件動産につき、Yは、Xに対して本件譲渡担保権を主張することができない。」と判示しました。なお、「Xは、甲に対して金属スクラップ等の転売を包括的に承諾していたが、これは、Yが甲に本件売買契約の売買代金を支払うための資金を確保させる趣旨であると解され、このことをもって上記金属スクラップ等の所有権が甲に移転したとみることはできない。」と説示しました。