このページは破産申立について、具体的には申立権者、管轄、申立代理人の責任、保全祖分の内容などについて説明しています

破産申立は、債務者自身(=自己破産)はもちろん、債権者や、債務者会社の取締役などもできます。このページは、申立をめぐる法律関係について説明をしています。

破産手続前の保全処分についても触れています。なお条文はすべて破産法です。

1 申立権者

⑴ 一般的な個人、法人

破産手続開始の申立権者は以下のように定められています(破産法18条、19条)。

債務者債務者自身が申立ることを、一般的に自己破産と呼びます。
債権者債権者は、有する債権の存在及び破産手続開始の原因となる事実を疎明しなければなりません。

仙台高決R2.11.17 債権者による破産手続開始申立てが破産法の目的に反する不当な目的でなされたものに該当するとされた事例
法人の取締役等以下の各法人は、以下の役職の者が各法人の破産を申し立てることが可能です(他の法人にも準用されます)。取締役等が申立てることを、一般的に準自己破産と呼びます。
一般社団法人又は一般財団法人  理事、清算人
・株式会社又は相互会社      取締役、清算人
合名会社、合資会社又は合同会社 業務執行社員、清算人

⑵ その他

相続財産の破産、信託財産の破産というものもあります。

  分類   申 立 権 者
相続財産相続債権者、受遺者、相続人、相続財産の管理人、相続財産の管理に必要な行為をする権利を有する遺言執行者(破産法224条
信託財産信託債権を有する者、受益者、受託者、信託財産管理者、信託財産法人管理人、裁判所の管理命令に基づく管理人(破産法244条の4

2 土地管轄(破産法4条~7条)

⑴ 個人破産の場合

原則住所地
主な例外・債務者の財産の所在地
・法人と法人の代表者を申立てる場合は、法人と同じ裁判所に管轄が認められる。
・連帯債務者相互間、主債務者と保証人相互間には、他方に係属する裁判所に申立が可能
・夫婦についても、他方に係属する裁判所に申立が可能。
・大規模事件(破産法5条8項、9項

⑵ 法人破産の場合

原則破産会社の主たる営業所
主な例外・親子会社等
・連帯債務者相互間、主債務者と保証人相互間には、他方に係属する裁判所に申立が可能
・法人と法人の代表者を申立てる場合は、法人代表者と同じ裁判所に管轄が認められる
・大規模事件

⑶ 関連する裁判例

東京高決S45.9.9(破産):管轄権のない裁判所に破産申立てがされ、債務者の住所がその申立てがあった後移送決定までの間に変動があったときは、債務者の新住所を管轄する裁判所に移送すべきとしました
「破産法第105条の第一次的土地管轄は、破産事件をめぐる利害関係人の公平と、破産手続の迅速適正な処理をはかる見地から定められているのであるから、管轄違による移送をなすべき場合に、破産申立当時単に債務者の住所が存在したというのみで、移送の裁判をする時点においてはすでに債務者と全く関連性を失つている土地を管轄する裁判所へ事件を移送すべきであるとすると、かえつて前記の管轄の定めの法意に背理することとなる。」

3 【専門家向け】自己破産の場合の申立代理人の責任等

近時、申立代理人(弁護士)の責任が問題となる裁判例が散見されますので、ご紹介します。

⑴ 申立代理人の報酬が問題となったケース

以下のように、申立代理人の報酬が過大であったとして、事後的に否認の対象となるとした裁判例も散見されます(下記以外に、申立代理人報酬の一部を否認したものとして神戸地裁尼崎支判H26.10.24などもあります。)。

神戸地伊丹支決H19.11.28:申立代理人の報酬を一部否認した裁判例

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破産管財人Xが申立代理人Yに対して、報酬の一部の返還を求めて提訴をした事案です。本判決は「弁護士による債務者の責任財産の保全活動としての任意整理ないし過払金返還請求や自己破産の申立てに対する着手金ないし報酬金の支払行為も、その金額が役務の提供と合理的均衡を失する場合、合理的均衡を失する部分の支払行為は、破産債権者の利益を害する行為として否認の対象となりうるというべきである。・・・相手方が破産者から受任した事件について着手金及び報酬金等の相当額を、事件の難易、弁護士が費やした労力及び時間、その成果等の諸般の事情を総合考慮し、さらに、廃止前の報酬規程や弁護士会の報酬規定(これらの規程等は廃止前においても法的拘束力を有していたものではないが、現在においてもなお十分に弁護士報酬の客観的基準の一つとなりうるものであると解される。)も参照した上で算出し、それを基準として、否認権行使の対象となるかどうかを判断する。」としてXの請求の一部を認めました。

東京地判H22.10.14:申立代理人の報酬を一部否認した裁判例

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破産管財人Xが申立代理人Yに対して、報酬の一部の返還を求めて提訴をした事案です。本判決は「申立代理人弁護士が、相当高額な弁護士報酬を得る目的で、安易な換価回収行為を優先して行い、資産、負債等に関する十分な調査をせずに迅速な破産申立てを怠るようなことは、破産制度の意義を損なうものというべきである。」「・・・万円(消費税込み)を超える部分は、役務の提供と合理的均衡を失するものであり、債権者を害するものとして、破産法160条1項1号の否認の対象となり、Yは、・・・Xに対して、不当利得に基づき、返還すべき義務を負う。」としてXの請求の一部を認めました。

東京地判H23.10.24:申立て前の過払金返還請求等の報酬の一部が否認された裁判例

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破産者甲の破産管財人Xが、申立代理人Yに対し、甲がYに対して過払金返還請求訴訟事件及び自己破産申立事件の報酬として支払った金員について、否認の対象となると主張して、不当利得返還請求権に基づき、支払を求めて提訴した事案です。本判決は、Xの請求の一部を認めました。

⑵ 申立代理人の破産者の財産を保全する義務が問題となったケース

近時、申立代理人に破産者の財産を保全する義務があるとする裁判例が散見されます。特に、法人の破産事件については、問題となることが多いようです。

東京地裁H21.2.13:破産申立てを2年間放置していたことが、申立代理人の不法行為にあたるとした裁判例

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破産会社甲の破産管財人Xが申立代理人Yに対して、Yは破産財団を構成すべき財産の管理を著しく怠り破産財団に損害をもたらしたとして、不法行為に基づく損害賠償を求めました。本判決は「破産申立てを受任し、その旨を債権者に通知した弁護士は、可及的速やかに破産申立てを行うことが求められ、また、破産管財人に引き継がれるまで債務者の財産が散逸することのないよう措置することが求められる。これらは、法令上明文の規定に基づく要請ではないが、上述の破産制度の趣旨から当然に求められる法的義務というべきであり、道義的な期待にとどまるものではないというべきである。そして、破産申立てを受任した弁護士が故意又は過失によりこれらの義務に違反して破産財団を構成すべき財産を減少・消失させたときには、破産管財人に対する不法行為を構成するものとして、破産管財人に対し、その減少・消失した財産の相当額につき損害賠償の責めを負うべきものと解する。しかるところ、Y、甲の破産申立てを受任し、その旨を債権者に通知しながら二年間もその申立てをせず、受任時に存在した金員及び受任時から破産手続開始決定時までの間に入金された金員の大半が残存しないという事態を招来したのであるから、上記の義務に著しく違反し、X人に対し本件差額相当額の損害を与えたものというべきであり、その間における訴外会社の支出が破産開始決定後に破産管財人としても支出すべき金員であるなどこれを破産財団に対して正当化しうる事実ないし事情があると認められない限り、その賠償義務を免れないというべきである」としてXの請求を一部認めました。

東京地裁H25.2.6:申立代理人が破産者の財産散逸防止義務を負うとした裁判例

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破産会社甲の破産管財人Xが申立代理人Yに対して、Yの過失により、甲の産散逸防止義務に違反して、破産財団を構成すべき甲の財産を散逸させたとして、不法行為に基づく損害賠償を求めました。本判決は「債務者との間で同人の破産申立てに関する委任契約を締結した弁護士は、破産制度の趣旨に照らし、債務者の財産が破産管財人に引き継がれるまでの間、その財産が散逸することのないよう、必要な措置を採るべき法的義務(財産散逸防止義務)を負う。・・・Yは・・・説明を行っておらず、かつ、甲の財産を適切に管理するための方策もとっていない。したがって、Yには財産散逸防止義務違反が認められる。」としてXの請求を一部認めました。

東京地判H26.4.17 自己破産の申立てを受任した弁護士の、破産者の財産散逸防止義務違反に基づく破産管財人に対する損害賠償責任が認められた事例

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破産者甲は、自己破産の申立てを弁護士Yに委任する1か月前に事業譲渡を行っていたが、事業譲渡代金が費消されてしまった。そこで甲の破産管財人XがYに対し、自己破産の申立てを受任した弁護士は、速やかに申立てを行い、また、債務者の財産の散逸を防止するための措置を講ずる義務があるのに、Yがこれを怠ったため、破産財団を構成すべき財産が減少したと主張して、Yに対し、不法行為に基づく損害賠償を求めたの本件です。本判決は以下のように説示してXの請求を概ね認めました。
自己破産の申立てを受任し、その旨を債権者に通知した弁護士は、破産制度の趣旨に照らし、速やかに破産手続開始の申立てを行い、また、債務者の財産の散逸を防止するための措置を講ずる法的義務を負い、これらの義務に違反して破産財団を構成すべき財産を減少・消失させたときは、不法行為を構成するものとして、破産管財人に対し、損害賠償責任を負うものと解される。・・・Yは、甲の財産の散逸を防止するための措置を講ずる義務に違反したものであり、過失があるというべきである。」

東京地判H26.8.22 自己破産申立を受任した弁護士の、財産散逸防止義務に違反に基づく、破産財団に対する不法行為責任が肯定された事案

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破産会社甲の破産管財人であるXが、破産申立弁護士Yらに対し、甲の取締役又は従業員であった者らに対し退職金などを支払ったことが、否認対象行為である支払にあたるとして、不法行為責任などを求めたのが本件です。本判決は以下のように説示して、Xの請求を概ね認めました。
「債務者との間で同人の破産申立てに関する委任契約を締結した弁護士は、破産制度の趣旨に照らし、破産財団となるべき破産会社の財産が破産管財人に引き継がれるまでの間、その財産が散逸することのないよう、必要な措置をとるべき義務を負い、ことに預り金口座等に破産会社の現金を受け入れ、破産会社の財産を管理する状況となった弁護士は、財産が散逸しないようにする義務を負うというべきである。それゆえ、かような弁護士は、破産手続開始決定後に財団債権となるべき債権など、それを弁済することによって他の債権者を害しないと認められる債権を除いては、これにつき弁済をしないよう十分に注意する義務がある。・・・上記の各支払が、破産手続開始の申立ての前日になされ、申立ての当日には破産手続開始決定及び破産管財人の選任がなされていることからすれば、上記各支払の時点で、その翌日には申立てをすることが予定されており、かつ、この時点で、破産管財人への会社財産の引継ぎの準備が相当程度進んでいたことが強く推認される。かかる状況に鑑みれば、支払の適否が問題となる債務については、原則として弁済をすべきではなく、破産手続の中における判断に委ねるべきであるから、この時点で、他の債権者を害するような債務弁済を行った場合、原則として、Yらには注意義務違反があったというべきであり、それにもかかわらず、Yらがその責任を免れるのは、他の債権者を害しないとの確信を有するに至ったことについてやむを得ないといえる事情がある場合などに限られると解される。」

神戸地裁尼崎支判H26.10.24 申立代理人弁護士の財産散逸防止義務について、故意又は過失があったとまでは認めらないとして、認められなかった事例

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破産者甲の破産管財人Xが、甲とAが破産申立前、その共有にかかる不動産を売却し、設定されていた抵当権の被担保債権を弁済した余剰金のうち破産者の共有持分に相当する金員が甲に帰属するのに、甲はAが余剰金を取得するのを承認しました。Xは、Aに対し、否認権を行使し余剰金の一部の支払を求めるとともに、及びAから破産申立て等を受任した弁護士Yらに対し、破産申立代理人として財産散逸防止義務を負っているにもかかわらず、甲及びに対し、余剰金は甲に帰属する資産であり、破産管財人に引継ぐべき資産であることを教示せず、が取得するのを容認したとして、財産散逸防止義務違反の不法行為に基づく損害賠償をしたのが本件です。本判決は、Aに対する否認権については認めたものの、Yに対する損害賠償請求については以下のように説示して、否定をしました。
「債務者との間で同人の破産申立てに関する委任契約を締結した弁護士は、破産制度の趣旨に照らし、債務者の財産が破産管財人に引き継がれるまでの間、その財産が散逸することのないよう、必要な措置を採るべき的義務(財産散逸防止義務)を負うことは当事者間に争いがない。・・・債務者が危機状態に陥った後は、破産制度の趣旨に照らし、破産管財人に換価処分を委ねるのが原則であり、破産申立前の換価処分は、それを行わなければ資産価値が急速に劣化する等の事情のある場合に限られ、特に本件のように的見解に相違があり得ることが予想される場合には、より一層速やかに破産申立てを行い、破産管財人の判断に委ねるのが相当であることはいうまでもないが、前記のとおり、YらがAに対し本件余剰金の取得を容認したのは的見解の相違に基づくものであり、本件のように共有不動産全体に共有者を連帯債務者とする被担保債権とする抵当権が設定され、当該抵当権が実行された場合の処理につき明確に判断した最高裁の判例はなく、この点を意識的に論じた文献も必ずしも十分でないこと、破産申立前に破産申立代理人に対し換価処分が求められることは稀とはいえず、本件でも、破産者の援助者であるAからその旨の希望があったこと・・・などを考慮すると、Yらが、甲及びAに対し、本件各不動産の処分を容認し、Aが本件余剰金を取得するのを承認したことに故意又は過失があるとまでは認められないから、Yらは、財産散逸防止義務違反の不法行為に基づく損害賠償責任を負わない。

青森地裁H27.1.23 会社の再生手続のために支出する行為を止めなかった行為が、代表者個人の破産申立代理人としての財産散逸防止義務違反にはならないとした裁判例

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甲は、支払不能になった後、自らが代表取締役を務める株式会社Aの再生手続についてのA労働組合等との間におけるいわゆる労使交渉を早期に妥結するため、甲の私財から1750万円を無償で譲渡し、その後、Aの再生手続開始の申立ての代理人でもあったYを申立代理人として破産手続開始の申立てをし、破産手続開始の決定がされた。そこで、甲の破産管財人Xが、Yに対し、甲の財産が破産管財人に引き継がれるまでの間その散逸を防止するための措置を講ずるべき法的義務を負っていたのにこれを怠り、甲が無償譲渡の意向を有することを認識していたにもかかわらず、無償譲渡をやめさせるための措置を講じず破産財団を減少させたなどと主張して、Yに対し、不法行為に基づく損害賠償1750万円等の支払を求めたのが本件です。本判決は、以下のように説示して、Xの請求を認めませんでした。
「いわゆる自己破産の申立てを受任した弁護士は、債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し、もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図ること等を目的とする破産制度の趣旨に照らし、債務者の財産が破産管財人に引き継がれるまでの間、その散逸を防止するための措置を講ずる法的義務(財産散逸防止義務)を負い、この義務に違反して破産財団を構成すべき財産を減少・消失させた場合には、不法行為を構成するものとして、破産管財人に対し、損害賠償責任を負うことがあるものと解される。もっとも、破産財団が最終的には破産者の債権者に対する配当原資となるべきものであることに照らせば、自己破産の申立てを受任した弁護士の財産散逸防止義務は、究極的には債権者のための注意義務であるものということができるのであって、当該弁護士の行為が財産散逸防止義務に違反するものであるか否かの判断に当たっては、当該行為が上記債権者に不利益を及ぼすものであるか否かを個別具体的な事案に即して検討する必要があるものというべきである。・・・Aに係る本件再生手続の進行状況、Aにおける甲の地位及び役割、甲を債務者とする本件破産債権がいずれもAに対する債権を主たる債権とする本件保証債務履行請求権であることなどからすれば、Aに係る本件再生事件と甲に係る本件破産手続とは、相互に密接不可分な関係を有するものであり、Aに係る本件再生手続の帰すうが地域経済に与える影響の大きさなども勘案すると、甲に係る本件破産手続は、その社会的な実態からすれば、いわばAに係る本件再生手続(Aの倒産処理に係る手続)を中核とする一連の倒産事件の一部と評し得るものである。このような事案の社会的な実態、殊に本件破産債権がいずれもAに対する債権を主たる債権とする本件保証債務履行請求権であることからすれば、本件破産債権者の利益は、上記のような一連の倒産事件を通じて得るべき利益、すなわち本件総利益を通じて実現されるものということができる。そして、本件において、Yが本件防止措置を講じなかったことにより甲に係る本件破産手続において直接不利益を受ける財団債権者や優先的破産債権者がいたような事情は何ら主張、立証されていないことも考慮すれば、甲から本件破産手続開始申立てを受任した弁護士であるYにおいて本件防止措置を講じなかったことがその財産散逸防止義務に違反するか否かは、Yの当該行為(不作為)が本件破産債権者に不利益を及ぼすか否か、すなわち、当該行為によって本件総利益にどのような影響が及ぶことになるかという観点から判断すべきものというべきである。・・・Yの判断が、専門家としての合理的な裁量に照らして不合理なものということはできず、Yにおいて本件防止措置を講じなかったことをもって、財産散逸防止義務に違反するものということはできない。

千葉地裁松戸支判H28.3.25 破産申立代理人である弁護士が、自己破産の申立ての受任後3年間に、破産者から代表取締役に報酬を支払い、弁護士報酬を取得したことなどが、破産手続開始申立代理人の財産散逸防止義務に違反するとした裁判例

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破産者甲社から自己破産申立ての依頼を受けてこれを受任した弁護士法人Yが甲の代理人として自己破産申立てや財産の回収等を行ったのに対し、甲の破産管財人Xが、弁護士報酬の一部や甲の代表者に対し役員報酬等を支払うなどしたことがそれぞれ破産申立代理人として負うべき財産散逸防止義務に違反しているなどとして損害賠償請求をしたのが本件です。本判決は以下のように説示して、Xの請求を認めました。
債務者から同人の破産申立てを受任した弁護士(弁護士法人を含む。)は、破産制度の趣旨に照らし、破産管財人に引き継がれるまで債務者の財産が散逸することのないよう、必要な措置を取るべき法的義務(財産散逸防止義務)を負い、この義務に違反して破産財団を構成すべき財産を減少・消失させたときは、不法行為を構成するものとして、破産管財人に対し、損害賠償責任を負うものと解される。・・・Yは、・・・本件委任契約をし、被告Y2はその社員であるから、その時点において、財産散逸防止義務を負い、破産会社の財産が散逸しないよう管理し、また、破産手続開始決定後に財団債権となるべき債権など、その支払が他の債権者を害することのない債権を除いて、債権の支払を行わないように注意すべき義務がある。しかしながら、・・・被告Y2は、破産会社口座をその管理下に置かず、・・・自由にその口座から預金を引き出すことを可能にした上、その引出金を同人の日当や上記精算金等に充てることを容認し、・・・財産散逸防止義務に違反したというべきである。・・・Yが甲の財産である預り金から受領した本件委任契約の弁護士報酬450万円のうち200万円を超える部分は、被告Y2の役務の提供と合理的均衡を失するものであり、破産債権者の利益を害する行為として否認の対象となり、被告Y2がその部分を被告法人に入金したことは破産財団を構成すべき財産を減少させたものといえる。

東京地判H27.10.15 破産手続申立の受任通知後、申立てが行われず辞任した弁護士につき、債務者所有不動産の売却を阻止できなかったことについての不法行為責任が否定された事例

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債権者Xが、債務者甲が委任した弁護士Yらから破産手続開始申立てについての受任通知を受けたため甲に対する権利行使を控えていたところ、甲代表者Aにより甲所有の不動産が売却され、破産手続開始申立ても行われなかったことにより損害を被ったのは、Yらの換価行為防止義務違反及び売却代金管理義務違反並びに破産手続開始申立遂行義務違反によるものであるなどと主張して、不法行為に基づく損害賠償請求などをしたのが本件です。本判決は以下のように説示して、Xの請求を認めませんでした。
「債務者破産の申立てを受任した弁護士がその旨を債権者に通知するなどした場合、破産制度の趣旨目的に照らし、破産財団を構成すべき財産が不当に減少、散逸することを防止するために必要な方策を講じるとともに、可及的速やかに破産申立てを行うべき法的義務を負うものと解される。そして、当該弁護士が上記義務に違反したことにより債務者財産の減少等が生じた場合、通常は、破産手続開始決定後に破産管財人が当該弁護士に対する損害賠償請求等をすることにより破産財団の減少部分の填補が図られることになる。もっとも、当該弁護士が受任通知の送付により債権者の権利行使を制約しておきながら合理的な理由もなく破産申立てを行わず、その間に債務者の責任財産を不当に減少させて債権の実現を困難ならしめたような場合については、債権者が当該弁護士に対して直接損害賠償請求をすることを否定すべき理由はなく、そのような場合、当該弁護士は個別の債権者との関係においても上記義務を負うことがあるものと解される。・・・Aが本件物件を売却する意図を有していることがうかがわれる状況にはなかったこと、Yらは受任当初からAに対して預貯金通帳等を持参するよう複数回にわたり指示をしていたにもかかわらずこれが実現しておらず、Aに対してその提出を強制する方策もなかったことなどからすれば、Yらが、5月27日以前の時点で、Aに預貯金通帳等を提出させることにより本件所有権移転の事実を把握し、売却代金を管理すべき義務を負っていたとは認められない。・・・破産手続費用及び弁護士費用の支払のめどが立っていなかったことに加え、AがYらの指示に反して本件所有権移転を行ったことが発覚したことにより、AとYらとの信頼関係は完全に破壊されたものと考えられるから、Yらが破産手続開始申立てを行うことなく辞任したのはやむを得ない対応であって、これがXに対する義務違反に当たるとも認められない。

東京地判R4.2.25 申立代理人の財産散逸防止義務違反は認められないとされた事例

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「債務者から破産手続開始の申立ての委任を受けた代理人は、法令及び法律事務に精通する専門家(弁護士法2条)として、委任契約に基づき、飽くまで債務者の代理人として当該申立てに係る法律事務を遂行するにとどまるのであるから、当該債務者が債権者の公平性を損なうような行為に及んで破産財団を構成すべき財産が散逸したとしても、その一事のみをもって、当然に、第一次的な責任を負う当該債務者と共に、当該債務者との間の委任契約上の善管注意義務としての財産散逸防止義務違反の責任を負うと解するのは相当とはいえない。もっとも、当該債務者から破産手続開始の申立ての委任を受けた代理人は、上記のような目的を有する破産制度を利用することを法律専門家として受任している以上、自ら破産財団を構成すべき財産を散逸させてその結果として当該債務者が破産制度を円滑に利用することのできない結果を招いたものと評価することができるような場合には、委任契約上の善管注意義務である財産散逸防止義務に反するものとして、債務者に対し債務不履行責任を負うとする余地もあるというべきである(なお、この点は、財産散逸防止義務につき不法行為構成を採った場合も変わるところはない。)。しかるところ、破産手続開始の申立ての委任を受けた代理人は、破産管財人と異なり、債務者の財務状況、資産や負債の金額、種類及び内容、債権者数などに関する調査等の権限が破産法上認められておらず(破産法83条参照)、申立代理人による上記事項に関する調査は債務者の任意の協力を前提とせざるを得ないこと等も併せ考慮すれば、〈1〉上記代理人が、債務者に対して破産制度上課せられた義務に関して誤った指導及び助言をしたとき、〈2〉債務者から委託を受けて保管していた財産を法的根拠に基づくことなく散逸させたときのほか、〈3〉債務者が偏頗弁済や詐害行為等、明らかに破産法の規定に反するような財産の処分行為をしようとしていることを認識し又は容易に認識し得たにもかかわらず、漫然とこれを放置したようなときが、上記の場合に当たるものというべきである。そして、上記〈1〉ないし〈3〉に当たるといえるか否かについては、事案の内容及び性質、破産手続の具体的状況及びその段階、債務者の説明状況及び協力態度、当該債務者による財産散逸行為に関する申立代理人の認識可能性を踏まえ、これらの要素を客観的・総合的に勘案して個別的かつ具体的に判断すべきものと解するのが相当である。・・・被告が本件委任契約に基づく善管注意義務違反としての財産散逸防止義務に違反したとは認められず・・・債務不履行に基づく損害賠償請求も、理由がないことになる。」

⑶ 申立代理人のその他の義務が問題となったケース

金沢地判H30.9.13 破産会社の申立代理人弁護士について、受任通知書を送付した債権者との関係において、信義則上、当該債権者を債権者一覧表に記載しなかったことが、不法行為を構成するとした裁判例

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破産者甲に対して売掛金債権(破産債権)を有していたXが、甲の破産手続において配当を受けられなかったことについて、甲の破産手続開始申立代理人を務めたYらに対し、Xが破産手続に参加していれば得られたはずの配当金相当額などを請求したのが本件です。本判決は以下のように説示して、Xらの請求を認めました。
「Yらは、Xを含む甲の債権者に対し・・・本件受任通知書を送付しているところ、同受任通知書には、破産会社が同月10日に支払不能に陥り、今後破産手続開始申立てを行う予定であることが記載されているというのであるから、同受任通知書の送付を受けた債権者としては、これにより破産者に対するその債権の行使が法的に制限されるものではないとしても、その記載内容からして、事実上その回収が極めて困難であることが容易に想定できる上、本件受任通知書を受領している以上、それ以後の破産者の支払不能及び支払停止についての悪意を争うことは困難であり、仮に債権を回収しても、後の破産手続においてこれが否認される可能性があること(破産法162条1項1号イ、165条参照)からすれば、破産者に対する債権の個別行使を自制することも無理からぬところであって、また、本件申立代理人ら自身、そうした効果をも期待して本件受任通知書を送付しているものと考えられる。・・・本件受任通知書の送付は、Xを含む破産会社の債権者に対し、自らが、これに引き続く破産手続において、破産債権者としてその手続に関与する機会を与えられ、破産債権者として公平に処遇されることについての信頼を生じさせるとともに、その債権の個別行使を自制させる効果を有するものということができる。・・・破産法20条2項が債権者一覧表の提出を求める趣旨は、破産裁判所における破産手続開始原因の有無や破産手続の進行についての判断に資するためのみならず、破産手続開始決定がされた場合に、破産債権者に対する通知(同法32条3項)を適切かつ迅速に行い、破産債権者に、破産手続に参加する機会を確保し、ひいては債権者の公平な満足を担保する点にもあると解されること、・・・本件破産事件における破産会社の代理人弁護士であり、その旨表示して本件受任通知書を送付した被告Yらにおいては、破産会社に対し委任契約上の善管注意義務を負うのみならず、少なくとも、Xを含む本件受任通知書を送付した個別の債権者との関係においても、信義則上(破産法13条、民訴法2条)、本件申立てに当たり(ただし、破産法20条2項ただし書の場合にあっては、同申立て後遅滞なく)、当該債権者が破産会社に債権を有しないことが明らかである場合など、これを債権者一覧表に記載しないことについての正当な理由がある場合を除き、当該債権者を債権者として記載した債権者一覧表を破産裁判所に提出する義務を負っていたものというべきである・・・Yらは、本件開始決定後であっても、本件受任通知書を送付した債権者の中に、前記のような正当な理由なく本件破産手続上破産債権者として処遇されていない者がいる場合には、信義則上、当該債権者の存在が判明したことを破産裁判所に上申し、同債権者を追加した債権者一覧表を同裁判所に提出するなどすべき注意義務を負っていたものというべきである。

東京高判H24.8.30 申立代理人の破産者との委任契約に基づく善管注意義務違反が否定された事例

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破産者甲の破産管財人Xが、甲、その関連会社A社とB社及び、それらの代表取締役及び取締役である夫婦の債務整理を受任していた弁護士Yに対し、甲の金銭管理の受託者としての善管注意義務を負っていたのに、これを怠って現金を流出させ破産会社に損害を被らせたなどと主張して、損害賠償請求権などをしたのが本件です。本判決は以下のように説示して、Xの請求を棄却しました。
「Aは、甲が倒産状態となった平成19年5月2日以降は、Aが自己の計算においてK店を営業していたものであり、Yが本件債務者らの債務整理を依頼された同月7日の時点では、Aが自己の計算においてK店を営業していたものであり、本件口座には同店の売上金から経費を控除した金員が入金されていたものであって、甲の資金とは区別されて管理されていたのであるから、本件口座に預託された金員はAに帰属するものと認めるのが相当である。・・・本件口座に入金された金員は、いずれも甲に帰属するものではなく、Aに帰属するものであって、同金員による支払については、原則として甲に対する善管注意義務違反が問題となるものということはできない。」

宇都宮地判R3.5.13 申立代理人が債権者であることを知っていたにもかかわらず債権者一覧表に記載していなかったことにつき、過失相殺はされたものの損害賠償請求が認められた事例。なお破産管財人に対する請求は棄却。

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破産会社甲の申立代理人Y1は、甲の債権者である乙銀行の2つの貸金債権を申立書の債権者一覧表に記載しました。破産手続申立後まもなく、X(保証協会)は乙銀行の債権の一つを代位弁済し、これにより求償金債権を取得したため、Xの担当職員はその旨をY1に伝えたところ、Y1は、破産手続申立済であること、甲の代表者の死亡により開始決定が遅れていること、Xによる代位弁済の事実を破産裁判所に報告する旨を発言しました。その後、申立てから2か月余り経過した後に破産手続の開始決定がなされましたが、Y1は、Xが本件弁済により債権者になったことを破産裁判所に報告することを失念したため、Xは開始決定通知を受けることなく債権届出を行いませんでした(なお、乙銀行は、Xが代位弁済しなかった債権についてのみ債権届出を行いました)。そこでXが、Y1に対し、Xが代位弁済により破産債権者になった事実を破産裁判所に報告すべき義務を怠ったことにより、Xが本件破産手続に参加していれば得られたはずの配当金相当額の損害がXに生じたとして不法行為に基づき、損害賠償請求をしたのが本件です。なお、Xは破産管財人Y2にも請求をしていますが、棄却されています。本判決は以下のように説示して、過失相殺のうえ、Xの請求を一部認めました。
「債務者は、その破産手続開始の申立てに当たっては、破産規則14条1項所定の事項を記載した債権者一覧表を提出しなければならないところ(破産法20条2項)、この債権者一覧表の提出義務については、破産手続開始の決定の後に裁判所が行うこととなる、知れている破産債権者への破産法32条1項所定の事項の通知(同条3項1号、以下「開始決定通知」という。)を適正かつ迅速に行うことを可能とするために規定されたものと解される。そのような趣旨からすると、債務者は、破産手続開始の申立てをした後であっても、少なくとも破産手続開始の決定がなされるまでの間においては、上記提出義務を免れるものではないというべきであり、代位弁済による債権者の変動等の理由で提出済みの債権者一覧表の一部に誤りが生じたことを知った場合には、知れている破産債権者への開始決定通知が適正かつ迅速に行われる前提を確保するために、訂正した債権者一覧表を提出する等の方法により、正確な債権者の氏名及び債権の内容等を裁判所に対して報告する義務を負うというべきである。
 これを本件についてみるに、Y1は、甲の代理人として本件申立てを行ったものであるところ、本件開始決定前の・・・にしたXの担当職員との電話により、同月24日に本件弁済によりXの本件求償金債権が生じたことを知ったにもかかわらず、Xが本件弁済により甲の債権者となった事実を本件破産裁判所に報告しなかったのであるから、上記義務に違反したものと認められる。さらに、Y1は、・・・のXの担当職員との電話で、同人に対し、本件弁済の事実を本件破産裁判所に報告する旨発言して、これにより甲の破産開始決定がなされた場合にはXが知れている破産債権者として本件破産裁判所から開始決定通知を受けることになるとの一定の信頼をXの担当職員に生じさせたことから、上記発言に沿った本件破産裁判所への報告をすべき信義則上の義務を原告に対して負うに至っていたといえ、・・・そのような義務にも違反したものと評価することができる。・・・Y1の不法行為による損害の発生に関するXの過失について検討するに、・・・Xが本件求償金債権について破産債権の届出を行わず、本件破産手続において配当を得られなかったことについては、Xにも相当な落ち度があるといわざるを得ない。
 そうすると、Y1については、・・・債権者一覧表の提出義務という一般的な破産法上の義務に違反しているだけでなく、Xの担当職員に対し本件弁済の事実を本件破産裁判所に報告する旨発言したことを根拠として認められる信義則上の義務にも違反しており、その過失の程度がかなり重いものであることを考慮しても、・・・Y1の注意義務違反行為によりXに生じた損害については、Xに5割の過失を認めて、過失相殺を行うのが相当である。」

4 【専門家向け】破産手続開始前の保全処分(参考)

事例としては少ないですが、手続開始前の保全処分には以下のようなものが準備されています。発令された場合、債権者は対象となる処分ができなくなります。

保全処分等の種類(条文は破産法内容・留意点等(条文は破産法
債務者財産に関する保全処分(28条弁済禁止の保全処分、占有移転禁止の保全処分など
債務者財産に関する保全管理命令91条~96条破産開始決定により免許が取り消される業種で、事業譲渡を検討する場合、開始決定までの混乱を収めるために、保全管理命令を申し立てることがあります。
中止命令(24条・強制執行、仮差押え、仮処分等を中止する場合に利用されます。
・担保権の実行等や滞納処分等の中止はできません。
なお、破産手続開始決定により、強制執行等は失効しますので、(42条2項)通常は早期に開始決定を出すことで足ります。
包括的禁止命令(25条強制執行等が多数あり(将来多発することが予想される場合を含む)、一定の強制執行等を包括的に中止する必要がある場合(担保権の実行に対する発令は不可能)に利用されます。
なお、破産手続開始決定により、強制執行等は当然に失効しますので(42条2項)、通常は早期に開始決定を出すことで足ります。
否認権の保全処分(171条否認権の実効性を確保するための保全処分
役員の財産に対する保全処分(177条2項破産会社の役員に対する責任追及を実行あらしめるための役員の財産に対する保全処分