業務委託報酬も「給与」として保護される場合がある(大阪地決R6.7.5)
本件(大阪地決R6.7.5)は、牛乳配達業務を請け負う申立人Xが、業務委託契約に基づく報酬を差し押さえられたことに対し、「生活に必要な収入である」として差押命令の一部取消しを求めた事案です。問題となったのは、業務委託契約に基づく報酬が、民事執行法153条1項により差押禁止の対象となる「給与債権」に準じて保護されるか否かです。
事案の概要は以下のとおりです。
- Xは第三債務者との間で継続的な業務委託契約を締結し、牛乳・乳製品の宅配を行っていた。
- Y株式会社は、金銭債権の回収のため、業務委託報酬6か月分全額について債権差押命令を得た。
- これに対しXは、「報酬が生活の糧であり、差押えにより生活困窮に陥る」として、差押えの取消しまたは範囲の縮小を申し立てました。
大阪地裁は以下のように判断しました。
- Xの宅配業務は日数が月25日程度で、月収は手取り20万円以下である。
- 他に収入や資産が確認されないことから、当該報酬は生活のための実質的な収入源である。
- よって、本件報酬債権は民事執行法152条1項2号の「給与に係る債権」と実質的に同視可能であり、給与債権と同様の保護を与えるべきである。
その結果、裁判所は差押命令の一部を取り消し、支払期が一定時期以降に到来する債権は原則として月額の1/4部分のみ差押え可としました。
なお、Xが主張したさらなる減縮は却下されています。理由として、申立人の家計には嗜好品代やローン返済なども含まれており、「自助努力で対応できる範囲」として生活困窮の程度が限定的であるとされました。
この判例から導かれる実務上のポイントは次のとおりです。
- 業務委託契約に基づく報酬であっても、継続性・生活依存性が認められる場合には「給与」と同視され、差押禁止債権と認定されうる。
- 差押範囲を縮小するには、報酬が生活費に直結していることの具体的な主張立証が重要。
- 家計状況が審査の対象となるため、ローン・嗜好品等の支出内容も判断材料となる。
近年、個人事業主やフリーランスの増加により、業務委託報酬の差押えが実務で問題となることが増えてきているように思います。本件は、そうした報酬に対する差押制限の可否について柔軟に判断した事例であり、非常に示唆に富んでいます。
こういうところが法律の面白いところであり、難しいところです。
差押禁止債権は、こちらのサイトにまとめてあります。