破産管財人による債務承認が時効中断の効力を有するとした判例(最決R5.2.1)

本件(最決R5.2.1)は、Xが所有する不動産に対してY(信用金庫)が根抵当権を設定し金銭を貸し付けていたところ、Xは破産し、破産手続が終結しました(破産管財人は対象不動産を放棄)。その後、Yがこの根抵当権を実行するため競売を申し立てたところ、Xが「被担保債権は時効により消滅しているから、根抵当権も消滅した」と主張し、競売手続の停止および根抵当権実行の禁止を求めて仮処分命令を申し立てをしたのが本件です。

本決定は、Xの申立てを認めませんでした。争点となったのは、破産手続中において破産管財人が別除権者Xに対して行った債務の承認が、消滅時効の中断として有効かどうかという点です。
前提として、以下の事情がありました。
・破産管財人は不動産の任意売却を検討し、Yと交渉を行いました。
・しかし、売却見込みが立たなかったため、破産財団から不動産を放棄する旨をYに通知をしました。
・通知に際し、破産管財人は「本件各被担保債権が存在する」との認識を示していました。

本決定は、「時効の中断の効力を生ずべき債務の承認とは、時効の利益を受けるべき当事者がその相手方の権利の存在の認識を表示することをいうのであって…破産管財人は、その職務を遂行するに当たり、破産財団に属する財産に対する管理処分権限を有するところ(破産法78条1項)、その権限は破産財団に属する財産を引当てとする債務にも及び得るものである(同法44条参照)。破産管財人が、別除権の目的である不動産の受戻し(同法78条2項14号)について上記別除権を有する者との間で交渉したり、上記不動産につき権利の放棄(同項12号)をする前後に上記の者に対してその旨を通知したりすることは、いずれも破産管財人がその職務の遂行として行うものであり、これらに際し、破産管財人が上記の者に対して上記別除権に係る担保権の被担保債権についての債務の承認をすることは、上記職務の遂行上想定されるものであり、上記権限に基づく職務の遂行の範囲に属する行為ということができる。
  そうすると、破産管財人が、別除権の目的である不動産の受戻しについて上記別除権を有する者との間で交渉し、又は、上記不動産につき権利の放棄をする前後に上記の者に対してその旨を通知するに際し、上記の者に対して破産者を債務者とする上記別除権に係る担保権の被担保債権についての債務の承認をしたときは、その承認は上記被担保債権の消滅時効を中断する効力を有すると解するのが相当である。」
と説示し、破産管財人の承認は、時効の中断の効力を有すると判断しました。

本決定から明らかになる実務上のポイントは以下のとおりです。

  • 破産管財人による債務の承認も、時効中断の効力を持ちうる。
  • 承認の主体が債務者本人でなくとも、「管理する権限」があれば承認の効力は認められる。
  • 別除権の交渉や財産放棄に関連するやりとりの中で債権の存在を認識する旨を表示することは、債務の承認となり得る。

こういうところが法律の面白いところであり、難しいところです。

破産管財人をめぐる法律関係については、こちらのサイトをご参照ください。

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