このページは、根抵当権について説明しています。

根抵当権の、成立要件、対抗要件、実行方法(物上代位を含む)に加えて、抵当権の及ぶ範囲などについて触れています。

⑴ 根抵当権の成立要件・対抗要件

⑴ 成立要件

当事者の合意(根抵当権設定契約)。ただし、共同根抵当は登記も必要(民法398条の16、17)。

なお、確定しない限り、附従性及び随伴性はない(398条の7)。よって、確定していない場合、債権が一度消滅しても根抵当権は消滅せずその後に発生した債権を担保する。また被担保債権の債権譲渡があった場合、根抵当権は当該債権を担保しない。

⑵ 対抗要件

設定登記(民法177条)。

2 根抵当権の実行方法

抵当権と同様。抵当権について説明をした以下のリンク先をご参照下さい。

なお、根抵当権者による競売・担保不動産収益執行・物上代位のための差押えを申し立てた時点で、根抵当権は確定します(民法398条の20第1項1号本文)。ただし、取下げなどによって、競売や担保不動産収益執行が開始、物上代位の差押えがなかったときは、確定しません(同号但書)。

3 元本確定事由及び元本確定の効果

⑴ はじめに

元本確定により、元本債権が確定し、当該元本債権とその利息、損害金のみを極度額を限度として担保されることになります。元本確定後においても極度額の範囲内までは確定時の元本債権から生じる利息や損害金は担保されます(民法398条の21)。逆に、確定後に発生する元本債権やその利息、損害金は担保されません。

⑵ 元本確定事由

元本確定事由は以下のものがあります。

場合分け元本確定時期
元本確定期日を定めている場合当該期日(民法398条の19第3項
根抵当権設定者の請求・設定から3年を経過したとき(担保確定期日の定めがある場合を除く)(民法398条の19第1項、3項
・根抵当権者又は債務者の合併時、会社分割時(民法398条の9第3項、398条の10第3項
根抵当権者の請求いつでも(担保確定期日の定めがある場合を除く)(民法398条の19第2項、3項
法定の確定事由(398条の20・根抵当権者が抵当不動産について競売等を申し立てたとき
・根抵当権者が抵当不動産に対して滞納処分による差押えをしたとき
・根抵当権者が抵当不動産に対する競売手続開始又は滞納処分による差押えがあったことを知った時から2週間を経過したとき
・債務者又は根抵当権設定者が破産手続開始決定を受けたとき(注:民事再生や会社更生の開始決定は確定事由とはされていません)

⑶ 元本確定の効果

元本確定によって、根抵当権の被担保債権が特定し、被担保債権に対する付従性、随伴性が生じます。具体的には、被担保債権の譲渡に伴い、根抵当権は譲受人へ移転し(随伴性といいます。)、被担保債権が全額弁済されることにより根抵当権は消滅します(付従性といいます)。

4 被担保債権の範囲・特定

抵当権と根抵当権の最大の相違点は、被担保債の範囲です。以下整理します。

⑴ 被担保債権の範囲(条文)

被担保債権の範囲は以下のように定められています(民法392条の2,3

原則 極度額の範囲内であれば、期間関係なく利息、遅延損害金の優先弁済を受けることが可能です(2年に限定されません。民法398条の2第1項
例外債務者の支払停止、破産手続開始、民事再生手続開始、更生手続開始又は特別清算開始の申立後に、根抵当権者が債務者以外から取得した債務者振出又は裏書の手形・小切手債権は、根抵当権者が善意でない限り、被担保債権とはなりません( 398条の3第2項)。

なお、元本確定後においても極度額の範囲内までは元本債権から生じる利息を担保します(民法398条の21)。

⑵ 被担保債権の特定(民法398条の2第2項、3項)

被担保債権の特定については、以下の定められています

2 債務者との特定の継続的取引契約によって生ずる債権その他、債務者との一定の種類の取引によって生じる債権(参考裁判例:最判H5.1.19、最判H19.7.5、高松高決H11.3.18
3特定の原因に基づいて債務者との間に継続して生ずる債権、手形上若しくは小切手上の請求権又は電子記録債権

【参考裁判例】

最判H5.1.19 「信用金庫取引による債権」とする根抵当権の被担保債権には、信用金庫の根抵当債務者に対する保証債権も含まれるとした判例。

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被担保債権の範囲を『信用金庫取引による債権』として設定された根抵当権の被担保債権には、信用金庫の根抵当債務者に対する保証債権も含まれるものと解するのが相当である。けだし、信用金庫取引とは、一般に、法定された信用金庫の業務に関する取引を意味するもので、根抵当権設定契約において合意された『信用金庫取引』の意味をこれと異なる趣旨に解すべき理由はなく、信用金庫と根抵当債務者との間の取引により生じた債権は、当該取引が信用金庫の業務に関連してされたものと認められる限り、すべて当該根抵当権によって担保されるというべきところ、信用金庫が債権者として根抵当債務者と保証契約を締結することは、信用金庫法53条3項に規定する『当該業務に付随する…その他の業務』に当たるものと解され、他に、信用金庫の保証債権を根抵当権の被担保債権から除外しなければならない格別の理由も認められないからである。」

最判H19.7.5 甲が信用保証協会Yに自己の債務の保証を委託し、Yのために自己の不動産に「保証委託取引による一切の債権」を被担保債権とし場合、たまたま甲が連帯保証していた乙のYに対する債務は被担保債権の範囲に含まれないとした判例。

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甲は信用保証協会Yに自己の債務の保証を委託し、自己の不動産に信用保証協会のために「債権の範囲 保証委託取引による一切の債権」として根抵当権を設定しましたが、当該債務は全額弁済しました。一方、甲は、信用保証協会Yに保証を委託していた乙の信用保証協会に対する債務につき連帯保証をしました。その後、甲の不動産を取得したXがYに対し、甲がYのために設定した根抵当権設定登記の抹消登記手続を求めたところ、Yは、乙のYに対する債務につき甲が連帯保証した債務も根抵当権の被担保債権に含まれると主張して争いました。
本判決は、「民法398条の2第2項は、根抵当権の担保すべき債権の範囲は債務者との特定の継続的取引契約によって生ずるものその他債務者との一定の種類の取引によって生ずるものに限定して定めなければならない旨規定しており、前記事実関係によれば、本件根抵当権は、同項に基づき、担保すべき債権の範囲を根抵当債務者である甲との『保証委託取引』によって生ずるものに限定するものであることが明らかである。そして、信用保証協会と根抵当債務者との保証委託取引とは、信用保証協会が根抵当債務者の依頼を受けて同人を主債務者とする債務について保証人となる(保証契約を締結する)こと、それに伴って信用保証協会が根抵当債務者に対して委託を受けた保証人として求償権を取得すること等を主たる内容とする取引を指すものと理解され、根抵当債務者でない者が信用保証協会に対して負担する債務についての根抵当債務者の保証債務は、上記取引とは関係のないものといわなければならない。同項の規定する『一定の種類の取引』は、被担保債権の具体的範囲を画すべき基準として第三者に対する関係においても明確なものであることを要するものであり、『保証委託取引』という表示が、法定された信用保証協会の業務に関するすべての取引を意味するものと解することもできない。以上によれば、被担保債権の範囲を保証委託取引により生ずる債権として設定された根抵当権の被担保債権に、信用保証協会の根抵当債務者に対する保証債権は含まれないと解すべきである。」とした。

高松高決H11.3.18 甲のYに対する債務を物上保証(被担保債権の範囲は「消費貸借取引、手形割引取引等」とされた)したXが、物上保証する際に知らなかったYの甲に対する債権が被担保債権にならないとした裁判例

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甲がYから融資を受けるに当たり、Xが物上保証をし、X所有不動産の根抵当権が設定(被担保債権の範囲は「消費貸借取引、手形割引取引等」とされた)されましたが、甲もYもXに、甲がYに対し別口の債務を負っていたことの説明をしなかったため、Xは、根抵当権は新規融資のみを担保するものと考えました。その後、甲は倒産し、Yが当該根抵当権に基づき競売を申し立てたため、Xは、新規融資元金及び利息損害金を弁済供託し、被担保債権の消滅により根抵当権が消滅したとして、根抵当権の実行禁止仮処分命令を申し立て、認容されました。そこで、Yが新規融資分とは別口の貸金債権も根抵当権により担保されるとして保全異議を申し立てたところ、第1審がXの主張を認め本件仮処分命令を認可したため、Yが抗告しました。
本決定は「根抵当権の被担保債権の範囲は、根抵当権設定契約における当事者の合意によって定まるものであり、当事者の意思を離れて決定されるものではないことは、約定担保物権である根抵当権の性質上当然であるところ、根抵当権設定契約において、根抵当権の被担保債権の範囲を一定の種類の取引によって生じる債権と定め、かつ、右契約当時、客観的には右範囲に属する債権が存在していたとしても、そもそも根抵当権設定者において既存債権の存在を知らないまま債権者と根抵当権設定契約を締結したときは、既存債権を被担保債権とする旨の合意が成り立つ余地はないというべきである。」として抗告を棄却した。

5 根抵当権者又は債務者の変動があった場合の被担保債権

⑴     根抵当権者又は債務者に相続があった場合(民法398条の8)

事象被担保債権の範囲
根抵当権者の相続(1項相続開始の時に存する債権のほか、相続開始時に存する債権相続人と根抵当権設定者との合意により定めた相続人が相続開始後に取得する債権
債務者の相続(2項相続開始の時に存する債務のほか、相続開始時に存する債務根抵当権者と根抵当権設定者との合意により定めた相続人が相続開始後に負担する債務

(注)相続開始後6ヶ月以内に、合意内容の登記をしないと、担保すべき元本は相続開始の時に確定したものとみなされます(4項

⑵   根抵当権者又は債務者に合併があった場合(民法398条の9)

事象被担保債権の範囲
根抵当権者の合併(1項合併の時に存する債権のほか、合併時に存する債権合併後の法人が取得する債権
債務者の合併(2項合併の時に存する債務のほか、合併時に存する債務合併後の法人が負担する債務

  

⑶     根抵当権者又は債務者に会社分割があった場合(民法398条の10)

事象被担保債権の範囲
根抵当権者の会社分割(1項分割時に存する債権のほか、分割会社及び承継会社(又は新設会社)が取得する債権
債務者の会社分割(2項分割時に存する債務のほか、債務分割会社及び承継会社(又は新設会社)が負担する債務