このページは破産手続における否認について説明する総論のページです

否認該当行為があった場合に、破産管財人がとりえる手段や、否認された場合の効果などについてまとめています。

否認該当行為については類型毎に別サイトにまとめています。リンク先を最後に入れていますので、そちらからご確認ください。

1 否認該当事由に対して管財人が取りえる手段(まとめ)

否認該当事由に対して管財人が取りえる手段等を時系列で整理すると、概ね以下のとおりです。

なお、管財人は否認権を開始決定から2年以内に行使する必要があります(破産法176条)。牽連破産の場合は、再生手続開始決定や更生手続開始決定の日から2年です(民事再生法252条2項、会社更生法254条2項)。

⑴ 保全措置

破産手続申立後開始前に否認権の保全処分(破産法171条)がされている場合、管財人は続行が可能です(破産法172条)。

管財人は独自に、民事保全法に基づく保全処分が可能です。

⑵ 否認請求(破産法174条

簡便な、否認該当事由に対する管財人の請求手段です。破産裁判所に係属します。

請求⇒審尋期日(破産法174条3項)⇒決定で手続は進みます。

認容決定の場合
  ・判断に不服がある相手方は異議の訴えが可能(破産法175条)。
  ・異議の訴えがないと確定します(破産法175条1項)。
棄却決定の場合
  ・管財人は否認訴訟が可能です。

⑶ 否認訴訟(破産法173条

管財人は、通常訴訟による否認権の行使を前提とした訴えを提起することが可能です。なお、管財人は、否認請求をせず、いきなり否認訴訟をすることも可能(破産法173条)。

証人尋問の必要性が高い場合や、相手方が争っていて査定で認容決定が出ても異議の訴えとなる可能性が高い場合には、管財人は最初から訴訟を提起することを検討することになります。

2 否認の効果

⑴ 効果のまとめ

原状復帰が原則です(破産法167条)。

対象物がない場合は、目的物に代わる価格に法定利息を付した金額の復帰とされています(最判S41.4.14)。

最判S41.4.14(破産) 否認権行使の効果についての判例

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甲社に対して売買代金債権を有するYは、甲社の支払停止を受けて、甲社の破産手続開始申立て(債権者申立て)をするとともに、甲社に残っていたYが甲社に引き渡した商品及び他社商品を搬出して引き取ったうえで、甲Y間で売掛債権の一部の代物弁済とする合意をしました。その後、甲社につき破産手続開始決定がなされ、破産管財人に選任されたXは、当該代物弁済につき否認権を行使し、Yに対し、当該物の価格償還を求める訴えを提起したところ、第1審、控訴審ともXの請求を一部棄却したためXが上告しました。
他社商品について(否認権行使の効果についての判示)
本判決は、他社商品については否認に該当することを前提に、その否認権の効果につき、「破産法上の否認権行使に因る原状回復義務は、破産財団をして否認された行為がなかつた原状に回復せしめ、よつて破産財団が右行為によつて受けた損害を填補することを目的とするものであるから、否認された行為が商人間の取引によりなされた代物弁済であり、かつ右否認により破産財団に返還さるべき物品がすでに原状回復義務者の手中に存しない場合には、返還義務者は右代物弁済の目的物に代わる価格と、破産者又は破産財団が代物弁済によりこれが利用の機会を失い或いは返還義務者をしてこれを無償で使用せしめざるを得なかつたため当然被つたと認めらるべき法定利息とを返還すべきものと解すべく、特に反証のない限り、右代物弁済の目的物に代わる価格は商行為に利用されうべかりしものと認められるから、その利率は年6分とするを相当とする。」としました。
Y社が甲に引き渡した商品について
「Yが動産売買の先取特権を有する原判示物件を、被担保債権額(売買代金額)と同額に評価して甲社がYに代物弁済に供した行為が、破産債権者を害する行為にあたらない旨の原判決の判断は、売買当時に比し代物弁済当時において該物件の価格が増加していたことは認められない旨の原判決の確定した事実関係の下においては、正当である。破産債権者を害する行為とは、破産債権者の共同担保を減損させる行為であるところ、もともと前示物件は破産債権者の共同担保ではなかつたものであり、右代物弁済によりYの債務は消滅に帰したからである。」として、Yが引き取ったY社が甲に引き渡した商品にYの動産売買先取特権が及ぶことを前提として、甲がYに代物弁済した行為は他の破産債権者を害するものでないとして、Xの請求を認めませんでした。

詐害行為否認は現物返還に代わる価格賠償請求も可能です(破産法168条4項)。なお、価格賠償における価格算定基準時は否認権行使時です(最判S42.6.22)。

最判S42.6.22(破産):価格賠償の時価基準時は否認権行使時と判示した判例

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否認権行使の結果、原物を破産財団に返還することを求めることができず、その価額の償還を求めうるにすぎない場合においては、本来、否認の効果として原物が破産財団に復帰すれば換価しうべかりし価額を算定すべきものと解するのを相当とするから、否認権行使時の時価をもって算定すべきである

詐害行為否認の相手方の反対給付は原則として財団債権となります(破産法168条1項~3項)。

相手方の債権は復活します(破産法169条)⇒債権調査期日後であれば特別調査期日(破産法119条)の設定が必要となります。この手間を省くために、管財人から差額支払等による和解を打診されることもあります。

⑵ 否認の効果に関する裁判例

東京地判H23.9.12(破産) 価格賠償請求と被担保債権の担保権実行の関係について判示した裁判例

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甲社は、乙社を債務者兼所有者とした担保権の実行としての不動産競売手続の開始を申し立て、平成20年9月22日、担保不動産競売手続開始決定を受けました。当該競売事件の被担保債権を含む債権について、20年11月1日売買を原因とする甲から丙、平成20年12月8日売買を原因とする丙からYへの債権譲渡登記がされました。甲社は、平成21年2月23日、再生手続開始の申立てをしたが、平成21年3月24日、再生手続廃止決定し、平成21年4月21日、破産手続開始決定を受けてXが破産管財人に選任されました。XはYに対して債権譲渡を否認して価格賠償を求める否認訴訟を提起し、それが控訴審に係属している状況にありました(第1審はX勝訴)。かかる状態で、前記不動産競売手続において、Yが執行異議の申立てをしたため、かかる執行異議が不法行為にあたるとして、執行異議の申立てに起因する執行停止決定により配当金の交付が受けられなかった期間について得られたはずの利益相当額の損害賠償等を求めて、XがYに訴えを提起したのが本件です。
本判決は「Xは、否認の請求において、破産法168条4項に基づき、破産法167条1項の規定により破産財団に復すべき財産の返還に代えて、当該財産の価額の償還を請求している。しかし、否認権の行使を受けた悪意の転得者であるYが、破産管財人の償還請求に応じないまま、破産管財人が価額償還請求をしたことのみを理由として、否認権の行使により破産財団に復した権利が自己の権利になったとしてその権利を行うことは、破産法168条4項が全く予定しないところであると解するのが相当である。なぜなら同項の価額償還請求は、否認権の行使により破産財団を原状に復することによって生ずる複雑な権利関係を価額償還という簡便な方法で処理することにより、破産財団の迅速な形成を図る手段を破産管財人に認めた制度にすぎず、悪意の転得者の権利を保障する制度ではないからである。この点は、債務の消滅に関する行為の否認について、相手方が価額を償還したときに相手方の債権が原状に復するものと定める破産法169条の趣旨からも類推することができる。したがって、Yが破産管財人の価額償還請求に応じていない以上、被担保債権及び抵当権を行うことができる者は、否認権を行使した破産管財人であって、本件競売事件において抵当権者として取り扱われるべき者は、XであってYではない」とし、また過失についても、「Yが執行異議の申立てをしたことについては、悪意の転得者であるYの立場において、破産法の否認権の趣旨から最終的には異議が認められないであろうこと、それにもかかわらず執行停止決定によって配当手続が停止されれば債権者の利益を不当に害することになることが、いずれも十分に予見できたにもかかわらず、あえて理由のない異議を申し立てたものであって、違法性があり、また、過失も認められるというべきである。」として、Xの請求を認めました。

最判H17.11.8(会社更生) 否認の目的物が可分であったとしても、否認の効果は全体に及ぶとした判例

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ゴルフ場を経営する甲社は、親会社乙社のA(その後、債権譲渡によりYに移転)に対する債務を担保するため、乙から保証料を得ることなく、ゴルフ場の土地建物に、共同担保として根抵当権を設定しました。この際、甲社は保証債務を除けば資産超過の状況にあったが、保証債務を含めると債務超過となました。その後、甲につき会社更生手続開始決定がなされ、管財人に選任されたXは、開始決定時に継続していた詐害行為取消訴訟を受継する方法により、Yに対し、否認権を行使し、当該土地建物に設定されていた根抵当権登記の否認登記手続を請求したところ、否認権行使の適否に加え、否認の効果が債務超過部分に限られるのか、目的物全体に及ぶのかが争点となりました。第1審は、Xの請求を認めたが、その範囲は債務超過部分に限られるとしたが、控訴審は、当該土地建物全体につき否認の効果が及ぶとしたことからYが上告しましたが、本判決は以下のように説示して上告を棄却しました。
「1号否認権は、更生手続が開始されたことを前提に、裁判所により選任され、更生会社の総財産についての管理権を有する管財人が、旧会社更生法78条1項1号に該当する行為により逸出した更生会社の一般財産を原状に回復させ、更生債権者等に対する弁済原資を確保するとともに、更生会社の事業の維持更生を図る目的の下に、その職責上行使するものであって、一般の債権者が民法424条に基づき個別的に自らの債権の確保を図るために詐害行為取消権を行使する場合の取消債権者の債権額のような限界は存在しないこと、(2) 更生債権及び更生担保権については、届出、調査の期日における調査、確定の訴え等の旧会社更生法所定の手続によって確定すべきものとされている(旧会社更生法125条、126条、135条、147条等)し、届出期間内に届出をしなかった更生債権者及び更生担保権者であっても、更生手続に参加することが一切できなくなるわけではなく、期間後の届出が許される場合もある(同法127条、138条等)上、更生会社に属する一切の財産の価額等については、財産評定等の旧会社更生法所定の手続によって確定すべきものとされている(同法177条等)ので、管財人が1号否認権を行使する時点では、更生債権、更生担保権、更生会社に属する財産の価額等がすべて確定しているわけではないことに照らすと、管財人が1号否認権を行使する場合には、旧会社更生法78条1項1号に該当する行為の目的物が複数で可分であったとしても、目的物すべてに否認の効果が及ぶと解するのが相当である。

3 補足

否認権行使は、取引が有効であることを前提としますが、そもそも取引が無効であるケースもあり、そのような場合には、否認権の行使ではなく、管財人は取引が無効であることを前提に、不当利得返還請求等を行うことになります。
例えば、破産者が、譲渡禁止特約付債権を譲渡していた場合、譲受人が譲渡禁止特約について故意・過失があれば無効(民法466条、最判S48.7.19)となるので、否認の問題ではなく管財人は無効を主張して取り戻すべきことになると考えられます。さらに、事案によっては、管財人は、有効な取引を前提とした否認権の行使と、無効な取引を前提とした不当利得返還請求を選択的に主張してくることもありえます。実際に、破産者が債権者との間で締結した代物弁済契約が通謀虚偽表示で無効であるあるとしても無償行為否認(破産法160条3項)が可能とする裁判例もありますので、実務上は柔軟に対応されているようです。

4 否認該当行為に関する説明のリンク先

否認該当行為については、類型毎に以下のリンク先にまとめていますので、ご参照ください。