このページは、破産手続開始決定の要件や効果について説明しています。
自己破産であれば、手続費用の予納がされないど例外的な場合でない限り、破産手続開始決定が出ないことはありませんが、債権者申立などの場合には開始決定の要件の有無が争われます。
破産手続開始決定により、破産者の財産の管理処分権は管財人に専属します。一方で破産者本人には管財業務に協力しなくてはならないなどの義務が発生します。
最後に、従来の取締役の地位や義務についても触れています。
なお、条文はすべて破産法です。
1 開始決定の要件
開始決定の要件は以下のとおりです。
⑴ 破産手続開始事由があること(破産法15条、16条)
破産手続開始事由は以下の二つです。債務超過は法人のみの開始事由です。
なお、自己破産(=債務者自身が破産申立をすること)の場合は、破産手続開始原因の存在を疎明する必要もありませんので(破産法18条2項)、問題なく開始決定が出ます。
・支払不能(破産法15条1項)。なお、支払停止は支払不能を推定します(同条2項)。
(支払不能とは「債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態」をいいます。破産法2条11項)
債務者が支払を停止したときは支払不能にあるものと推定されます(破産法15条2項)。
「支払停止」とは支払不全を外部に表示する債務者の行為です(最判S60.2.14など)。
支払停止が債務者の行為であるのに対し、支払不能は客観的な状態を指します。
・債務超過(債務超過とは「債務者が、その債務につき、その財産をもって完済することができない状態」をいいます)(破産法16条)
⑵ 棄却事由が存しないこと(破産法30条1項)
棄却事由は以下の二つです。以下の事由があれば開始決定はされません。
・破産手続費用の予納がないとき
・不当な目的で破産手続開始の申立てがされたとき、その他申立てが誠実にされたものでないとき
仙台高決H30.12.11 債権者が、「債務者の継続発展を支援すること」、「債務者に対し、一切の請求を放棄し、一切の訴訟提起をしないこと」といった内容を含む誓約書を提出していたことが、破産法30条1項2号の破産障害事由に該当しないとした裁判例
裁判例を確認する
債権者Yが、Xについて破産手続開始の申立てをし、裁判所が破産手続開始決定をしたところ、Y及びその代表者甲が「Xの継続発展を支援すること」、「Xに対し、一切の請求を放棄し、一切の訴訟提起をしないこと」といった内容を含む誓約書を提出していたことが破産法30条1項2号の破産障害事由があるなどしてXが争ったのが本件です。本決定は以下のように説示して、Xの請求を認めませんでした。
「本件誓約書には、本件請求放棄条項によってY及び甲が放棄した債権の内容が何ら特定されていない上、いつの時点で存在する債権を放棄するのかも何ら示されていないことから、本件誓約書の作成日付である平成30年4月11日現在において、Y及び甲がXに対して有する一切の債権が放棄されたものと解するほかない・・・・。また、本件不起訴合意条項は、「金銭を含む一切の訴訟(を)提起しない」というその記載文言に照らせば、上記の時点において存在する原因事実に基づくXに対する民事訴訟を提起しないことが合意されたものと解するのが相当である。これに対し、破産の手続は、開始申立債権者の利益のみならず、総債権者の利益実現を目的とし、加えて、破産者の資産を保全・増殖して、それをすべての債権者に平等に分配するという機能を有するから・・・、本件不起訴合意条項の文言に明示されていないにもかかわらず、本件不起訴合意条項によって破産手続開始の申立てが制約されると解することは相当ではない。まして、Yが、本件誓約書の作成日付である平成30年4月11日の翌日である同月12日以降の原因に基づきXについて破産手続開始の申立てをすることは、本件不起訴合意条項によって何ら制約を受けることはないと解される。・・・以上のとおり、本件申立ては、本件誓約書に反して申し立てられたものと認めることはできないから、Yが、本件誓約書が存在するにもかかわらず本件申立てをしたこと、その際、裁判所に対し、本件誓約書を提出しなかったことは、破産法30条1項2号所定の「その他申立てが誠実にされたものでないとき」には当たらないというべきである。」
ウ 開始決定に関する裁判例
≪支払不能・支払停止に関する裁判例≫
支払不能、支払停止に関する裁判例は以下のリンク先をご参照下さい。
≪債務超過に関する裁判例≫
東京高決S56.9.7
債務超過の判断について、代表者個人の保証等の事実を斟酌する必要はないとした裁判例です。
≪棄却事由の有無に関する裁判例≫
東京高決S57.11.30
労働組合との間で、法的手続きを行う場合には事前協議を行う旨の覚書があるにもかかわらず事前協議をせずに破産申立てをしたことが、破産申立棄却事由とはならないとした裁判例です。
≪申立権、即時抗告権に関する裁判例≫
最決H11.4.16
債権質の質権設定者に破産の申立権はないとした判例です。
大阪高決H6.12.26
株主には即時抗告権は認められないとした裁判例です。
2 開始決定の効果
⑴ 開始決定の効果(まとめ)
破産手続開始決定の効果は以下のとおりです。なお、破産手続開始決定は、決定の時からその効力を生じますので(破産法30条2項)、即時抗告があっても執行停止はされないと解されています(大判S8.7.24)。
また、開始決定に伴い、公告(破産法32条1項、2項、10条1項)、嘱託登記(破産法257条)、郵便の回送嘱託(破産法81条1項)などが裁判所によって行われます。
効 果 | 内 容 |
---|
財産の管理処分権は管財人に専属します | 管財人が選任されると、破産会社の財産の管理及び処分する権利は管財人に専属します(破産法78条1項)。 |
強制執行等の失効 | 強制執行手続等(国税滞納処分を含まない)は失効します(破産法42条1項、2項)。 |
個別的権利行使の制限 | 債権者は、個別的権利行使が原則として禁止され(破産法100条1項)、破産手続内でしか権利行使が許されなくなります(破産法103条1項)。但し、すでにされている滞納処分には影響を与えません(破産法100条2項)。 |
開始前の原因に基づく登記の対抗力 | 開始前の原因に基づく登記につき、開始後に登記をしても対抗力が認められません(破産法49条1項本文)。なお、登記権利者が善意の場合は、この限りでないとされています(同条1項但書)。 |
⑵ 強制執行等の執行に関連する裁判例
東京高判H21.1.8(破産):破産者に破産手続開始決定がされた場合、破産者の第三債務者に対する債権に対する債権差押えは、管財人の上申により取り消されるとした裁判例
裁判例の詳細を見る
Xの甲(破産者)に対する判決正本に基づく甲の第三債務者に対する敷金返還請求権に対する債権差押命令が発令された時点で、甲について破産手続開始決定がなされ、Yが破産管財人に選任されました。管財人Yの執行手続の取消上申に対し、執行裁判所が債権差押命令を取り消したため、Xが執行抗告をしたが、以下のように判示して抗告を棄却しました。
「・・・甲に対して破産手続開始決定がされ、その結果、Xの甲に対する上記請求債権は破産債権となり、甲の第三債務者に対する敷金返還請求権は破産財団に属する財産となったから、破産法42条2項により、本件差押命令は破産財団に対して効力を失ったものであるが、これは、破産財団に対してのみ、その効力を失うに止まり、絶対的に無効となるものではなく、破産手続開始決定が取り消されたり、破産手続が廃止されるなどして、破産財団が消滅した場合には、その効力を当然に回復するものと解され、同項ただし書きは、破産管財人が、強制執行を続行することを妨げないとして、破産財団に対して無効となった強制執行手続を回復して続行することを予定しているものといえる。また、民事執行法上、破産手続開始決定がされた場合に、強制執行等の手続を取り消し得る旨の明文の規定は存在していないことに照らせば、破産手続開始決定がされたことにより、既に発令されている債権差押命令を当然に取り消すべきであるとはいえず、民事執行法40条の適用はないと解される。
他方、破産手続開始決定がされた場合に、形式的には強制執行手続と破産手続とが併存していることから、特に、債権差押命令では第三債務者において権利関係が必ずしも簡明であるとは言い難く、破産管財人が差押債権を自由に処分することができるとはいえ、その権利行使に事実上の障害があることは容易に推測されるところであり、その執行手続の取消しに対する事実上の必要性があることは否定できない。
また、破産管財人が、執行裁判所に対し債権差押命令について執行手続の取消しを上申するのは、当該破産手続が廃止あるいは取消しなどにより終了する可能性はなく、かつ、強制執行手続の続行も必要ではないと判断した上、差押債権につき換価あるいは取立てなどの具体的な処分をすることを予定している場合であると考えられる。破産手続開始決定がされたことにより、債権差押命令を取り消すとすれば、差押債権者は、破産手続が廃止されるなどして破産財団が消滅した場合に効力を回復し得たはずの強制執行手続がなくなるため、再度の強制執行の申立てをしなければならない不利益を被ることになるが、破産管財人が執行手続の取消しを上申するのは、上記のとおり、破産財団が消滅して強制執行手続の効力が回復することがほとんど想定し得ない場合に限られるから、差押債権者が不利益を被る可能性もまた限りなく小さいものといえる。
したがって、破産手続開始決定がされた場合に、当然に債権差押命令を取り消すべきであるとはいえないものの、破産管財人が執行手続の取消しを上申した場合に限っては、債権差押命令の取消しによる差押債権者の不利益が限りなく小さいのに比べ、その取消しの必要性が事実上のものであるとはいえ存在することにかんがみ、債権差押命令を取り消すという原審の取扱いも是認し得るものと解される。」
大阪高判H22.4.23(再生→破産):債権差押命令に基づく取立権を有する者が民事再生手続開始前に第三債務者から手形を受領していても、再生手続開始後にかかる手形金を受領することが不当利得にあたるとされた事例
裁判例の詳細を見る
Yは甲社(再生後破産会社)に対する確定判決に基づく債権差押命令を得たうえで、第三債務者から受取手形等を受領した。甲社の民事再生手続開始決定後に、Yは当該手形を受領したところ、甲社の再生手続廃止・破産手続開始決定後、破産管財人に選任されたXが、Yに対し当該手形金を受領したこと等が不当利得に当たるとして提訴したところ、Xの請求が概ね認められました。
最決H14.4.26(破産):強制執行停止の申立をしている状態で破産手続開始決定を受けた場合、担保金を取り戻せないとした判例
最決H30.4.18 株券が発行されていない株式(振替株式を除く)に対する強制執行の手は配当異議の訴えが提起され終局判決に至っていない場合、破産法42条2項本文の適用があるとした判例
裁判例を確認する
Xが、破産者甲が保有していた株券が発行されていない株式(振替株式を除く。)対する差押命令を得て、売却命令による売却がされた後、配当異議の訴えが提起されたため、配当額に相当する金銭の供託がされその供託の事由が消滅する前に甲が破産手続開始の決定を受けた。そこで甲の破産管財人Yが執行裁判所に本件差押命令の取消しを求める旨の上申書を提出しところ取消決定がされたため、XがYに対し執行抗告をしたのが本件です。本決定は、以下のように説示して、Yの主張を認めました。
「株券が発行されていない株式に対する強制執行の手続においては、執行裁判所は、当該株式につき売却命令による売却がされた場合、配当等を実施しなければならないとされている(民事執行法167条1項、166条1項2号)。そして、配当表記載の債権者の配当額について配当異議の訴えが提起されたために上記配当額に相当する金銭の供託がされた場合において、その供託の事由が消滅したときは、裁判所書記官が供託金について配当等の実施としての支払委託を行うことが予定されているのであって・・・、上記供託金は、上記支払委託がされるまでは、配当等を受けるべき債権者に帰属していないということができる。そうすると、この場合における上記強制執行の手続は、売却命令により執行官が売得金の交付を受けた時にはもとより、その後も上記支払委託がされるまでは終了しておらず、それまでの間に債務者が破産手続開始の決定を受けたときは、破産法42条2項本文の適用があるものと解することができる。」
3 破産者の義務等
⑴ 破産管財人に対する説明義務
破産者本人、破産会社の役員等(過去に役員であった者も含む)は、破産管財人等から説明を求められた場合、説明を行う義務を負っています(破産法40条)。従業員についても、裁判所の許可がある場合には、説明義務が生じます(同条1項)
説明を拒んだ場合や、又は虚偽の説明をした場合は、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金、又はこれらが併科されると定められています(破産法268条1項)。
また、申立代理人にも管財人に対する説明義務があり(破産法40条1項2号)、違反すると罰則が科せられます(破産法268条1項)。
⑵ 居住の移転制限
破産者及び役員等は、居住地を離れる場合には裁判所の許可が必要とされています(破産法39条、37条1項)。
なお、郵送物は、管財人に転送されます(職権で転送依頼がかけられます。破産法81条)。
4 従来の取締役の地位
⑴ 会社法上の地位
原則として従来の(代表)取締役は破産手続開始決定によりその権限を失いますが,組織法的行為については例外的に地位が残ると考えられています(大審院S14.4.20、最判H21.4.17)。
大審院S14.4.20(破産):会社不成立確認訴訟の被告は、破産管財人でないとした判例
裁判例の詳細を見る
Yの破産手続開始決定後に、債権者Xが、Yに対しYの会社不成立確認訴訟を提起したことから、Yの破産管財人を被告とすべきか、Yを被告とすべきかが争いとなりました。 本判決は、破産管財人は破産財団の管理処分権限を有するに過ぎないので、会社不成立確認を求める訴えの被告は,破産管財人でなく取締役によって代表される破産会社Yとなるとしました。
最判H21.4.17(破産):破産手続開始決定によっても株主総会決議不存在確認訴訟の訴えの利益は失われないとした判例
裁判例の詳細を見る
組織法的行為にかかる破産手続開始決定による取締役の非終任説(最判H16.6.10)を前提に、「株式会社の取締役又は監査役の解任又は選任を内容とする株主総会決議不存在確認の訴えの係属中に当該株式会社が破産手続開始の決定を受けても、上記訴訟についての訴えの利益は当然には消滅しないと解すべきである」としました。
⑵ 破産法上の義務
破産会社の役員等は、破産管財人等から説明を求められた場合、説明を行う義務を負っています(破産法40条)。説明を拒んだ場合や、又は虚偽の説明をした場合は、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金、又はこれらが併科されると定められています(破産法268条1項)。