このページは破産法(倒産法)における、譲渡担保にかかる論点及び裁判例を説明しています。
担保権のことを破産法では「別除権」という表現をしていますので、別除権という用語も出てきますが、担保権の意味です。
なお、破産手続における担保権が認められる要件、行使方法、管財人の対応などについては以下のリンク先をご参照下さい。
1 破産手続における譲渡担保権の取扱の概要
破産手続において、譲渡担保権は所有権でなく別除権として扱われます(最判S41.4.28、最判H11.5.17も別除権者であることを前提とします)。
別除権の行使方法としては、別除権に基づく取戻しが認められると考えられます。
2 破産手続(倒産手続)における譲渡担保に関する論点の整理
破産手続(倒産手続)における譲渡担保に関する論点を整理すると、以下のとおりです。
⑴ 別除権として認められるか
譲渡担保権は所有権でなく別除権として扱われます(最判S41.4.28、最判H11.5.17)。
よって、破産法53条、民事再生法49条(双方未履行双務契約の規律)の適用は否定されると解されます。また、他の別除権と同様に、別除権者が別除権を主張するためには、自己の名義での対抗要件具備が必要です。
最判S41.4.28(会社更生):会社更生手続きにおいて、譲渡担保権者は物権の所有権を主張して、引渡しを請求することはできないとした判例
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甲社は、債権者A(後に、債権譲渡によりXが債権者となった)からの借入金の担保として、工場の土地建物に抵当権を設定するとともに、工場内の機械等に譲渡担保を設定していた。甲社につき会社更生手続開始決定がなされ、Yが管財人に選任されたところ、Xは当該抵当権と譲渡担保権を更生担保権として届け出て、Yも異議も述べなかった。
ところが、更生計画案認可前に、Xは、譲渡担保の対象の所有権はXにあるとして、Yに対し、工場内の機械等の引渡しを求めて訴えを提起した。 本判決は、「譲渡担保権者は、更生担保権者に準じてその権利の届出をなし、更生手続によつてのみ権利行使をなすべきものであり、目的物に対する所有権を主張して、その引渡を求めることはできないものというべく、すなわち取戻権を有しないと解するのが相当である。」として、Xの請求を棄却しました。
最判H11.5.17(破産) 譲渡担保権設定者の破産手続開始決定後も、担保権者は売買代金債権への物上代位ができるとした判例
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甲社が銀行Xに対する債務につき動産譲渡担保を設定していたところ、甲社につき破産手続開始決定がなされYが破産管財人に選任されました。Xは、動産譲渡担保に基づく物上代位権の行使として、甲社のAに対する当該動産の売買代金債権について差押命令の発令を受けたのに対し、Yが執行抗告をしたが、抗告が棄却されたため、Yが許可抗告を申立てました。 本決定は、「右の事実関係の下においては、信用状発行銀行であるXは、輸入商品に対する譲渡担保権に基づく物上代位権の行使として、転売された輸入商品の売買代金債権を差し押さえることができ、このことは債務者である甲社が破産宣告を受けた後に右差押えがされる場合であっても異なるところはないと解するのが相当である。」として、抗告を棄却しました。
最判H29.5.10(再生) 動産譲渡担保権の対抗要件について、債務者が対象物を直接占有したことがなくても、占有改訂の方法によりその引渡しを受けたとして対抗要件を認めた事例(信用状取引の事例)
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輸入業者であるYから依頼を受けてその輸入商品に関する信用状を発行した銀行Xが、Yにつき再生手続開始の決定がされた後、上記輸入商品に対する譲渡担保権に基づく物上代位権の行使として、Yが転売した上記輸入商品の売買代金債権の差押えを申し立てたのが本件です。Yは海貨業者に委託して対象物の港での受領し、通関手続、運搬を行っており、Yが対象物を直接占有したことはありませんでした。なお、輸入取引においては、輸入業者から委託を受けた海貨業者によって輸入商品の受領及び通関手続が行われ、輸入業者が目的物を直接占有することなく転売を行うことは、一般的であった。また、信用状取引においては、信用状を発行した金融機関が輸入商品につき譲渡担保権の設定を受けることが一般的であり、Yの上記委託を受けた海貨業者には、本件商品が信用状取引によって輸入されたものであることが明らかにされていた。本は決は、以下のように説示して、Yの対抗要件を認め、差押えを適法としました。
「Yは本件譲渡担保権の目的物である本件商品について直接占有したことはないものの、輸入取引においては、輸入業者から委託を受けた海貨業者によって輸入商品の受領等が行われ、輸入業者が目的物を直接占有することなく転売を行うことは、一般的であったというのであり、YとXとの間においては、このような輸入取引の実情の下、Xが、信用状の発行によって補償債務を負担することとされる商品について譲渡担保権の設定を受けるに当たり、Yに対し当該商品の貸渡しを行い、その受領、通関手続、運搬及び処分等の権限を与える旨の合意がされている。一方、Yの海貨業者に対する本件商品の受領等に関する委託も、本件商品の輸入につき信用状が発行され、同信用状を発行した金融機関が譲渡担保権者として本件商品の引渡しを占有改定の方法により受けることとされていることを当然の前提とするものであったといえる。そして、海貨業者は、上記の委託に基づいて本件商品を受領するなどしたものである。
以上の事実関係の下においては、本件商品の輸入について信用状を発行した銀行であるXは、Yから占有改定の方法により本件商品の引渡しを受けたものと解するのが相当である。そうすると、Xは、Yにつき再生手続が開始した場合において本件譲渡担保権を別除権として行使することができるというべきであるから、本件譲渡担保権に基づく物上代位権の行使として、本件転売代金債権を差し押さえることができる。」
⑵ 物上代位の可否
破産手続開始後(民事再生手続開始後)であっても、譲渡担保権に基づく物上代位は可能です(上記最判H11.5.17)
⑶ 取戻権行使の可否
所有権に基づく取戻権は否定されると解されます(札幌高決S61.3.26)。
札幌高決S61.3.26(破産) 留保所有権ないし譲渡担保権を有する債権者は、別除権者として権利行使をなすべきであり取戻権を有しないとした裁判例
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甲社がA社から購入した自動車の代金を、甲社からの委託に基づき信販会社XがA社に支払った後に、甲社に破産手続開始決定がなされ、Yが破産管財人に選任されました。信販会社Xは、甲A間の自動車売買契約上の所有権留保を法定代位により取得したか、甲X間の委託契約により当該自動車に譲渡担保が設定されていたとして、取戻権に基づき、Yに対して当該自動車の引渡しの仮処分命令の申立てを行ったところ、原決定がXの請求を却下したため、Xが即時抗告しました。
本決定は「本件所有権留保ないし本件譲渡担保の実質的な目的は、あくまでも本件立替委託契約とこれによる本件弁済に基づくXの求償債権を担保することにあり、いずれにしても本件自動車の所有権のXに対する移転は確定的なものではないと解される。そうすると、Xとしては、本件留保所有権ないし本件譲渡担保権に基づく別除権者として権利行使をなすべきであつて、本件自動車に対する所有権を主張してその引渡を求める取戻権は有しないものというべきである(最高裁判所昭和41年4月28日民集20巻4号900頁参照)。」として抗告を棄却しました。
しかしながら、別除権に基づく引渡請求は肯定されると解されます(東京地判H18.3.28)。
東京地判H18.3.28(再生) 所有権留保は別除権であって双方未履行双務契約の規定は適用されないとしたうえで、別除権に基づく自動車の引渡しを認めた裁判例
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Yに所有権留保付特約を付して自動車を売却をした販売会社Xが、Yの民事再生手続開始決定後に、民事再生法49条2項に基づきYに対して催告をしたが、Yの確答がなかったことから、主位的に同条2項及び4項による共益債権の支払が無いことを理由とした解除に基づく原状回復請求権としての自動車の引渡しと、予備的に別除権に基づく自動車の引渡しを求めて訴えを提起したところ、本判決は、以下のように説示して、請求を一部認容しました。
「・・・本件売買契約は、所有権留保特約付売買契約の形式を採っているものの、実質的には、債権担保の目的のために締結されたものであり、本件においては、本件各自動車を再生債務者Y会社に売却した上で、本件各自動車について非典型の担保権(いわゆる所有権留保)を設定したものと認めることが相当である。
そして、法49条1項の規定は、再生手続における当事者双方を公平に保護するという趣旨から、双務契約の当事者間で相互にけん連関係に立つ双方の債務がいずれも履行されていない場合について規定するものであり、・・・本件売買契約において、売主が買主に対して負担する本件各自動車について所有権移転登録手続をする債務は、買主が売主に対して負担する残代金債務とけん連関係に立つとはいえないと解することが相当であって、本件売買契約は、『共にまだその履行を完了していない』(法49条1項)といえない。そうすると、販売会社Xの主張する残代金債権は法49条2項後段、4項によって共益債権になることはなく、他に上記債権を共益債権とすべき事由は見出せない。なお、このように解するとしても、本件売買契約の売主の立場にある者は、後記のとおり、設定された担保権について別除権を行使することができ、担保を失うものではないのであるから、再生債務者である買主の立場にある者と比較して、格別保護に欠けるとはいえない。
したがって、本件売買契約に基づく代金債権は、再生債権となり、販売会社Xは、本件再生計画の定めるところによらなければ、本件売買契約に基づく代金債務の弁済を受けることができない。そうすると、再生債務者Y会社が、再生手続開始の決定がされた平成16年2月26日の後に本件売買契約に基づく分割金を支払わなかったことをもって、再生債務者Yに債務不履行があったということはできず、販売会社Xは、上記分割金の未払を理由に、再生債務者Y会社に対し、本件売買契約を解除することはできない。
以上によれば、販売会社Xの再生債務者Y会社に対する、本件売買契約の解除による原状回復請求権に基づく本件各自動車の引渡請求、及び本件売買契約の解除による損害賠償請求権に基づく残代金相当額の支払請求は、・・・理由がない。
・・・もっとも、販売会社Xは、本件各自動車について担保権を有していることにかわりはなく、これは法53条1項にいう別除権に当たる。そして、販売会社Xは、再生手続によらないで、担保権本来の実行方法により、別除権を行使することができ、本件においては、再生債務者Yに対して本件各自動車の引渡しを求めることができる。」
⑷ 管財人(再生債務者)の担保物処分の可否
管財人(再生債務者)が担保物を処分した場合、不当利得返還債務を負う可能性があります(東京地判H14.8.26)。
東京地判H14.8.26(再生) 譲渡担保権に基づく不当利得返還請求権が共益債権であるとした裁判例
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Yが銀行Xに対し、売掛債権について譲渡担保権を設定した状態で(対抗要件も具備)、Yに民事再生手続が開始した。Yが当該売掛債権を手形で回収したため、XがYに対し、手形金相当額の不当利得の返還等を求めて提訴したところ、本判決は「本件手形はYが訴外会社から本件売掛金債権の支払のために振出を受けたものであるから、Yが本件売掛金債権について期限の利益を失った後には、Yは本件売掛金債権の譲渡担保権者であるXとの関係において本件手形の実質的な取立権原を失い、本件手形金はXに帰属すべきものとなったというべきであるから、Xとの関係で見れば、本件手形の取り立てによるYの利得は法律上の原因を欠いているといわざるを得ない。」として、譲渡担保権に基づく不当利得返還請求権が共益債権であるとしました(119条6号)。
⑸ 担保権実行終了時の考え方
破産手続開始決定前(民事再生手続開始決定前)に担保権の実行が終了していると、担保対象物は破産財団を構成しないので、理論的に、別除権の行使は問題とならないと考えられます。譲渡担保の実行終了時は概要以下のとおりとされています(最判S62.2.12等)。
分類 | 内容 | 実行終了時の考え方 |
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帰属清算方式 | 担保権者が譲渡担保の負担の無い所有権を取得する。 | ・清算金の支払い又は提供時、ないしは清算金が発生しない旨の通知時 ・担保対象物の処分契約時 |
処分清算方式 | 担保権者に処分権限が与えられ、処分代金を被担保債権に充当する。 | 担保対象物の処分契約時 |
⑹ 債権譲渡担保の担保対象物に譲渡禁止付債権が含まれていた場合に、管財人が譲渡禁止の事実を主張することが許されるか
破産者が譲渡禁止特約のある債権を担保に提供していた場合、破産者管財人が特約違反に基づく担保の無効を主張できるかどうかについては、裁判例が分かれています。破産管財人が無効を主張できるとする裁判例として和歌山地判R1.5.15、大阪高判H29.3.3があります。無効を主張できないとする裁判例として東京地判H27.4.28があります。なお、特別清算の代表清算人が、清算会社が譲渡禁止特約のある債権を担保に提供した場合に担保の無効を主張することはできないとされています(最判21.3.27)。
なお、民法改正により、譲渡禁止特約に反した債権譲渡も有効とされていますので(改正後の民法466条2項)、この論点自体は今後はあまり問題にならないと思われます。