このページは破産法(倒産法)における、所有権留保売買にかかる論点及び裁判例を説明しています。

担保権のことを破産法では「別除権」という表現をしていますので、別除権という用語も出てきますが、担保権の意味です。

なお、破産手続における担保権が認められる要件、行使方法、管財人の対応などについては以下のリンク先をご参照下さい。

1 破産手続(倒産手続)における所有権留保売買の取扱(まとめ)

所有権留保は所有権(取戻権)でなく別除権として取り扱われると考えられます(東京地判H18.3.28、札幌高決S61.3.26、最判H22.6.4。よって、双方未履行双務契約に関する破産法53条は適用されないと考えられます(最判H22.6.4からは明らかでありませんが、東京地判H18.3.28などは民事再生法49条の適用を否定しています)。

なお、別除権者が管財人に対し別除権を主張するためには、自己の名義での対抗要件具備が必要と考えられます(最判H22.6.4)。

よって、所有権留保の行使方法としては、別除権に基づく取戻しが原則ですが(東京地裁18.3.28)、契約書の内容によっては、売買契約の解除と原状回復という構成を取る場合もありえます。

管財人は、現物を引き渡したうえで、被担保債権が担保対象物の評価額より小さい場合には、差額の清算金を請求し、被担保債権が担保対象物の評価額より大きい場合は差額につき債権届出を待つという対応を取るのが一般的と考えられます。
管財人が第三者に売却し、売却代金の一部を財団に組み入れることを条件に、担保権者に担保権解除の対価として売却代金を引き渡す方法を取ることをあります。これは、破産者が有してた販売ルートなどを使って換価・回収したほうが高額の処分ができるため、管財人が売却したほうが、担保権者としても回収率が高まることがが多いためです。

2 破産手続(倒産手続)における所有権留保売買の論点整理

破産手続(倒産手続)における所有権留保売買の論点を整理すると以下のとおりです。

⑴ 所有権か別除権か

所有権(取戻権)でなく、別除権として取り扱われると解されます(最二小判H22.6.4、札幌高決S61.3.26)。

最判H22.6.4(再生):自己名義の登録がないことを理由に、車両に対する所有権留保の主張が認められなかった事例

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Y(再生債務者)は、自動車販売会社A社から自動車を購入する際に、信販会社Xから金融を受けるため、XYA間で概要、①信販会社Xが販売会社Aに残代金を支払い、Yは信販会社Xに残代金に手数料を加算した金額を分割で支払う、②自動車の所有権をYが立替金を全額支払うまで信販会社Xに留保する、③Yが期限の利益を失ったら、Xに自動車を引き渡し、Xは自動車の評価額を弁済に充当できるという合意をしたうえで、自動車は所有名義を販売会社A、使用者Yとして登録した状態で、XはAに残代金を支払いました。その後、Yにつき民事再生手続開始決定がなされたため、XはYに対し、別除権の行使として自動車の引渡しを求めて訴えを提起し、第1審はXの請求を棄却、第2審はXの請求を認容したため、Yが上告したところ、以下のように説示し、原判決を破棄しました。
「本件三者契約は、販売会社Aにおいて留保していた所有権が代位により信販会社Xに移転することを確認したものではなく、信販会社Xが、本件立替金等債権を担保するために、販売会社Aから本件自動車の所有権の移転を受け、これを留保することを合意したものと解するのが相当であり、信販会社Xが別除権として行使し得るのは、本件立替金等債権を担保するために留保された上記所有権であると解すべきである。すなわち、信販会社Xは、本件三者契約により、再生債務者Yに対して本件残代金相当額にとどまらず手数料額をも含む本件立替金等債権を取得するところ、同契約においては、本件立替金等債務が完済されるまで本件自動車の所有権が信販会社Xに留保されることや、再生債務者Yが本件立替金等債務につき期限の利益を失い、本件自動車を信販会社Xに引き渡したときは、信販会社Xは、その評価額をもって、本件立替金等債務に充当することが合意されているのであって、信販会社Xが販売会社Aから移転を受けて留保する所有権が、本件立替金等債権を担保するためのものであることは明らかである。立替払の結果、販売会社Aが留保していた所有権が代位により信販会社Xに移転するというのみでは、本件残代金相当額の限度で債権が担保されるにすぎないことになり、本件三者契約における当事者の合理的意思に反するものといわざるを得ない。そして、再生手続が開始した場合において再生債務者の財産について特定の担保権を有する者の別除権の行使が認められるためには、個別の権利行使が禁止される一般債権者と再生手続によらないで別除権を行使することができる債権者との衡平を図るなどの趣旨から、原則として再生手続開始の時点で当該特定の担保権につき登記、登録等を具備している必要があるのであって(民事再生法45条参照)、本件自動車につき、再生手続開始の時点で信販会社Xを所有者とする登録がされていない限り、販売会社Aを所有者とする登録がされていても、信販会社Xが、本件立替金等債権を担保するために本件三者契約に基づき留保した所有権を別除権として行使することは許されない。」

【参考裁判例】大阪地判R1.12.20(破産) 上記最判を前提に、信販会社が留保した所有権に基づいて破産者から自動車の引渡しを受けて、自動車を査定し、破産者に対して不足額通知をした清算行為が破産法162条1項1号に該当するとした裁判例(同種裁判例:名古屋高判H28.11.10神戸地判H27.8.18

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破産者甲が自動車販売会社から購入した自動車の代金を立替払して、甲に対する立替金等債権を有していたYが、自動車について留保した所有権に基づいて甲から自動車の引渡しを受けて、自動車を査定し、甲に不足額を通知して清算したことにつき、甲の破産管財人Xが、上記一連の行為又は不足額の通知による清算行為が破産法162条1項1号に該当すると主張して、Yに対し、否認権を行使して、自動車の返還に代わる価額償還請求として184万7810円及びうち150万7610円に対する催告による相当期間経過後である平成30年6月5日から、うち34万0200円に対する請求拡張申立書送達日の翌日である令和元年8月3日から、それぞれ支払済みまで商事法定利率年6分の遅延損害金の支払を求めた事案である。本判決は以下のように説示して、Xの主張を認めました。
「本件立替払契約においては、Yは本件立替金等債務を担保するために留保された所有権を有するにすぎず、同担保部分を除くと、本件自動車の実質的な所有権は甲が有していたというべきであり、本件不足額通知により、甲が実質的な所有権を有する本件自動車の評価額等をもって、本件立替金等債務の弁済に充当されたものと認めるのが相当である。また、本件不足額通知は、・・・により予定された行為であって、破産者の行為と同視することができるものである。したがって、本件不足額通知は、『債務の消滅に関する行為』に該当する。・・・Yは、本件不足額通知が否認されたとしても、本件自動車に留保された所有権に基づき甲から本件自動車の引渡しを受けているから、占有権原を有していたと主張する。しかし、Yは、本件立替払契約により、本件立替金等債務を担保するために留保された所有権を新たに取得したにすぎず・・・、本件自動車の登録手続もしておらず、破産手続開始後に破産管財人に対して対抗できる権利を有していたとはいえないから(最高裁平成21年(受)第284号同22年6月4日第二小法廷判決・民集64巻4号1107頁参照)、Yの上記主張は理由がない。」

最判H29.12.7(破産) 上記判例とは別に、自動車売買で販売店に所有権留保の合意がされた状態で購入者の破産手続が開始した場合、代金債務を保証した信販会社販売会社は、自動車につき販売会社名義の登録がされているときは、法定代位により、留保所有権を別除権として行使することができるとした判例があるので注意が必要です。

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「自動車の購入者と販売会社との間で当該自動車の所有権が売買代金債権を担保するため販売会社に留保される旨の合意がされ、売買代金債務の保証人が販売会社に対し保証債務の履行として売買代金残額を支払った後、購入者の破産手続が開始した場合において、その開始の時点で当該自動車につき販売会社を所有者とする登録がされているときは、保証人は、上記合意に基づき留保された所有権を別除権として行使することができるものと解するのが相当である。その理由は、以下のとおりである。
  保証人は、主債務である売買代金債務の弁済をするについて正当な利益を有しており、代位弁済によって購入者に対して取得する求償権を確保するために、弁済によって消滅するはずの販売会社の購入者に対する売買代金債権及びこれを担保するため留保された所有権(以下「留保所有権」という。)を法律上当然に取得し、求償権の範囲内で売買代金債権及び留保所有権を行使することが認められている(民法500条、501条)。そして、購入者の破産手続開始の時点において販売会社を所有者とする登録がされている自動車については、所有権が留保されていることは予測し得るというべきであるから、留保所有権の存在を前提として破産財団が構成されることによって、破産債権者に対する不測の影響が生ずることはない。そうすると、保証人は、自動車につき保証人を所有者とする登録なくして、販売会社から法定代位により取得した留保所有権を別除権として行使することができるものというべきである。・・・所論引用の判例(最高裁平成21年(受)第284号同22年6月4日第二小法廷判決・民集64巻4号1107頁)は、販売会社、信販会社及び購入者の三者間において、販売会社に売買代金残額の立替払をした信販会社が、販売会社に留保された自動車の所有権について、売買代金残額相当の立替金債権に加えて手数料債権を担保するため、販売会社から代位によらずに移転を受け、これを留保する旨の合意がされたと解される場合に関するものであって、事案を異にし、本件に適切でない。」

札幌高判S61.3.26(破産):所有権留保につき、所有権に基づく取戻権を否定し、別除権行使をすべきとした裁判例

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甲社がA社から購入した自動車の代金を、甲社からの委託に基づき信販会社XがA社に支払った後に、甲社に破産手続開始決定がなされ、Yが破産管財人に選任されました。信販会社Xは、甲A間の自動車売買契約上の所有権留保を法定代位により取得したか、甲X間の委託契約により当該自働車に譲渡担保が設定されていたとして、取戻権に基づき、Yに対して当該自働車の引渡しの仮処分命令の申立てを行ったところ、原決定はXの請求を却下したため、Xが即時抗告しましたた。
本決定は「本件所有権留保ないし本件譲渡担保の実質的な目的は、あくまでも本件立替委託契約とこれによる本件弁済に基づくXの求償債権を担保することにあり、いずれにしても本件自動車の所有権のXに対する移転は確定的なものではないと解される。そうすると、Xとしては、本件留保所有権ないし本件譲渡担保権に基づく別除権者として権利行使をなすべきであつて、本件自動車に対する所有権を主張してその引渡を求める取戻権は有しないものというべきである(最高裁判所昭和41年4月28日民集20巻4号900頁参照)。」として抗告を棄却しました。

したがって、破産法53条民事再生法49条(双方未履行双務契約の規定)の適用は否定されます(上記最決H22.6.4からは明らかでありませんが、東京地判H18.3.28などは49条の適用を否定しています)。

東京地判18.3.28(再生):所有権留保は別除権であって双方未履行双務契約(民事再生法49条)の規定は適用されないとしたうえで、別除権に基づく自動車の引渡しを認めた裁判例

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Y(再生債務者)に所有権留保付特約を付して自働車を売却をした販売会社Xが、Yの民事再生手続開始決定後に、民事再生法49条2項に基づきYに対して催告をしたうえで、Yの確答がなかったことから、主位的に同条2項及び4項による共益債権の支払が無いことを理由とした解除に基づく原状回復請求権としての自働車の引渡しと、予備的に別除権に基づく自働車の引渡しを求めて訴えを提起したところ、本判決は以下のように判示して、請求を一部認容しました。
「・・・本件売買契約は、所有権留保特約付売買契約の形式を採っているものの、実質的には、債権担保の目的のために締結されたものであり、本件においては、本件各自動車を再生債務者Y会社に売却した上で、本件各自動車について非典型の担保権(いわゆる所有権留保)を設定したものと認めることが相当である。そして、法49条1項の規定は、再生手続における当事者双方を公平に保護するという趣旨から、双務契約の当事者間で相互にけん連関係に立つ双方の債務がいずれも履行されていない場合について規定するものであり、・・・・、本件売買契約において、売主が買主に対して負担する本件各自動車について所有権移転登録手続をする債務は、買主が売主に対して負担する残代金債務とけん連関係に立つとはいえないと解することが相当であって、本件売買契約は、『共にまだその履行を完了していない』(法49条1項)といえない。そうすると、販売会社Xの主張する残代金債権は法49条2項後段、4項によって共益債権になることはなく、他に上記債権を共益債権とすべき事由は見出せない。なお、このように解するとしても、本件売買契約の売主の立場にある者は、後記のとおり、設定された担保権について別除権を行使することができ、担保を失うものではないのであるから、再生債務者である買主の立場にある者と比較して、格別保護に欠けるとはいえない。
 したがって、本件売買契約に基づく代金債権は、再生債権となり、販売会社Xは、本件再生計画の定めるところによらなければ、本件売買契約に基づく代金債務の弁済を受けることができない。そうすると、再生債務者Y会社が、再生手続開始の決定がされた平成16年2月26日の後に本件売買契約に基づく分割金を支払わなかったことをもって、再生債務者Y会社に債務不履行があったということはできず、販売会社Xは、上記分割金の未払を理由に、再生債務者Y会社に対し、本件売買契約を解除することはできない。
 以上によれば、販売会社Xの再生債務者Y会社に対する、本件売買契約の解除による原状回復請求権に基づく本件各自動車の引渡請求、及び本件売買契約の解除による損害賠償請求権に基づく残代金相当額の支払請求は、・・・理由がない。」
 「もっとも、販売会社Xは、本件各自動車について担保権を有していることにかわりはなく、これは法53条1項にいう別除権に当たる。そして、販売会社Xは、再生手続によらないで、担保権本来の実行方法により、別除権を行使することができ、本件においては、再生債務者Y会社に対して本件各自動車の引渡しを求めることができる。」

ただし、自動車の所有権留保付売買契約で、売主に所有権移転登録義務が残っている場合は、双方未履行双務契約として扱われるとした裁判例もあります(東京高判S52.7.19)。

東京地判S52.7.19(会社更生) 会社更生手続きにおいて、自動車の所有権留保付売買契約(更生会社が買主)で、売主の所有権移転登録義務が残っている場合は、双方未履行双務契約として扱われるとした裁判例

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自動車販売業者Xが、甲社(更生会社)に所有留保付売買契約(売買代金は分割払いの約定)で自動車を売却したところ、甲社につき会社更生手続開始決定がされYが管財人に選任されました。その後、XがYに対して、主位的に所有権に基づく自動車の引渡しを求めて、予備的にYが履行を選択したとして自動車残代金の支払いを求めたのが本件です。第1審(簡裁)はXの請求を棄却したが、控訴審がXの予備的請求を認めたため、Yが上告したが、本判決は以下のように判示して上告を棄却しました。
「・・・会社更生法103条1項、208条7号の規定は、双務契約にあつては対立する二個の債権が対価関係にあり、互いに他を担保視しあう関係に立つているにもかかわらず、双方未履行のまま会社更生手続が開始されるや、相手方に対し、その債権につき更生債権として更生手続による制約をうけることを受忍させる一方、その債務の完全な履行を強いるというのでは衡平の原則に反するとの考慮から、管財人において相手方にその債務の履行を求めるのであれば、その債権はこれを共益債権として扱い更生手続外で完全に履行させることとして、双務契約上の両債権の間に存する対価関係を保障し相手方の保護をはかる趣旨に出たものである。そして自動車の売買(それが所有権留保約款付割賦販売であつても異なるところはない。)において所有権移転の対抗要件たる登録名義の変更手続をすることが売主の重要な義務であることはいうまでもないとともに、残代金が完済されたとき右義務を履行すべきものとされている場合には、売主としては、買主からの残代金の完済のない限り登録名義の変更手続を強いられることはないわけであり、右双方の義務の履行未了の間に買主につき更生手続が開始された場合は、不動産の売買において同時履行の関係に立つ代金支払と所有権移転登記義務の履行とがともに未了のまま更生手続が開始された場合と同様に正に右の衡平の見地からの考慮を及ぼすべき場合であるということができる。これに反し、登録を対抗要件としない動産の売買において目的物の引渡を了し、代金債権のみが残つている場合には、売主にはもはや代金の完済時まで履行を拒絶しうべき義務は存在せず、残代金債権につき更生手続による制約をうけつつ右債権と対価関係に立つ自らの債務の履行を更に強いられるという関係にはないのであるから、右売主が前記各法条による保護をうけえず、所有権留保の特約自体の効力として認められる限度で代金債権に対する担保目的の実現をはかりうるにとどまるとしても、けだしやむをえないところであるといわなければならない。」

⑵ 取戻権行使の可否

上記のとおり、別除権として扱われますので、所有権に基づく取戻権は否定されると解されます(上記札幌高決S61.3.26大阪地判S54.10.30)。ただし、破産手続(民事再生手続)開始決定前に担保実行手続が完了している場合には、所有権に基づく取戻権は可能と考えられます。

大阪地判S54.10.30(更生)

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機械を所有権留保付売買契約により売却したXが、買主Yに会社更生手続が開始された後に、所有権留保に基づき取戻を求めた事案について、「留保売主の有する権利は、・・・機能的には、担保権である。・・・留保売主の目的物の取戻権を否定し、譲渡担保権者と留保売主とを会社更生手続上同一に取り扱うのが、公正、衡平の理念(会社更生法199条、228条、233条、234条)に合致する。」などの理由により、所有権留保機械売買契約の留保売主Xに取戻権は認められないとしました。

⑶ 別除権行使に基づく対象物の引き上げの可否

所有権留保の別除権行使として対象物を引き揚げることは肯定されると考えられます(上記東京地判H18.3.28)。なお、別除権を行使するためには、期限の利益を喪失している必要がありますが、通常は契約で、民事再生の申立てが期限の利益喪失事由になっています。

⑷ 対抗要件の要否

別除権者が別除権を主張するためには、自己の名義で対抗要件を具備することが必要です。
動産を対象とする所有権留保は、占有改定に基づく対抗要件が問題となりますが、特に転売を許容している場合の占有改定の具備は慎重に検討する必要があります(参考裁判例:東京地判22.9.8)。一方で転売を禁止している場合の所有権留保の対抗要件は比較的認められやすいようです(東京地判H27.3.4)。

東京地判H22.9.8(再生) 所有権留保売買の買主が民事再生手続開始決定を受けた場合、売主に当該動産の引渡請求等が認めれられなかった裁判例(高裁も結論を維持し、上告は棄却されています)(東京地判H25.4.24も同内容の裁判例)

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XはYら(再生債務者)に対して、継続的に家庭用品等の動産を販売していましたが、基本契約において、買主は代金支払の有無にかかわらず商品を転売できるとしながらも、売主に所有権を留保する旨の特約が付されていました。Yらにつき民事再生手続開始決定がなされたため、Xが基本契約の特約を根拠に、Yらに対し所有権に基づく商品の引渡しを求めて提訴したのが本件です。本判決は、以下のように判示して請求を棄却しました。
Xが本件商品について有する権利は、所有権ではなく、担保権の実質を有するものであるから、同権利は、Yらについて開始された再生手続との関係において、別除権(民事再生法53条)として扱われるべきであると解されるところ、再生手続が開始した場合において再生債務者の財産について特定の担保権を有する者が別除権を行使するためには、個別の権利行使が禁止される一般債権者と再生手続によらないで別除権を行使することができる債権者の衡平を図るなどの趣旨から、原則として再生手続開始の時点で当該特定の担保権につき登記、登録等の対抗要件を具備している必要があると解される(民事再生法45条参照)。したがって、Xが本件商品について有する権利(この権利を、以下『留保所有権』という。)についても、再生債務者であるYらに対してこれを主張するためには、対抗要件の具備を要すると解される。・・・本件商品は動産であるから、本件商品についてのXの留保所有権の対抗要件は、引渡しであると解される(民法178条)ところ、本件商品は、すべてYに引き渡されているから、Xが対抗要件を具備していたと認めることはできない。なお、本件商品については、Xは、占有改定の方法によって占有を取得し、対抗要件を具備する余地もあると考えられるが、本件基本契約においては、Yが、Xから納品を受けた本件商品を、代金支払の有無に関わらず・・・転売し引き渡すことが予定され、Xもこれを許容していたことや、Yらの下にある在庫商品について、Xから仕入れた本件商品が、他の仕入先から仕入れた商品と分別して保管されておらず、他の仕入先から仕入れた商品と判別することができない状況であったこと・・・)などからすれば、本件商品の売却に際し、占有改定がされたと認めることはできない。
 また、前記のとおり、Xは、Yらについて民事再生手続が開始される直前である平成21年11月26日、Yに対し、売却した商品の引渡しを要求したのであるが・・・、Yらはこれを拒絶しており、Yらの下にある在庫商品について、Xから仕入れた本件商品は、他の仕入先から仕入れた商品と判別できない状況にあったのであるから、Xが商品の引渡しを要求したことによって本件商品の占有を取得したということはできず、Xが本件商品について対抗要件を具備したと認めることはできない。・・・以上によれば、Xは、Yらに対し、本件商品の所有権に基づいてその引渡しを請求することはできず、また、本件商品についての留保所有権を、別除権としてYらに対して主張し、その実行として引渡しを請求することもできない。」

東京地判H27.3.4 買主が破産した事案で、所有権留保の対抗要件として売主の占有改定による引渡しの方法が対抗要件として認められた事例

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破産者甲に対し、ブルドーザー及び自走式破砕機を所有権留保特約付きで売却したXが、甲が不渡りを出したとの情報を受け当該ブルドーザー等を引き上げ換価処分したところ、甲の破産管財人Yが換価処分代金が破産財団に組み入れられるべきと主張したため、XがYに対し支払請求権を有していないことの確認を求めたのが本件です。本判決は以下のように説示して、Xの請求を認めました。
「本件各機械は登録制度のない動産であるから、その対抗要件は、引渡しとなり(民法178条)、引渡しには、占有改定も含まれるところ、占有改定は「代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示した」ときに認められる(民法183条)。・・・本件各契約書においては、Xが本件各機械の所有権を留保する旨定められた上(3条)、破産者は原告から本件各機械を使用貸借し(5条)、代金完済までの間、本件各機械の使用、保管に関する善管注意義務を負い(8条)、第三者から強制執行等を受けるおそれがあるときは、本件各機械が原告の所有物であることを極力主張、証明して不当な処分執行を阻止するとともに、直ちに原告に通知し、原告の指示に従わなければならないとされている(12条)。そして、建設機械の割賦販売における所有権留保の実情を前提に、第三者と留保所有権者の利益調整を図る方法として譲渡証明書の制度も普及しているところであり、そのような慣行の中で、本件各機械には所有権留保のステッカーが貼られて、破産者の下に存する他の械機と混同することのないように管理されている。このような、本件各契約の規定、建設機械の割賦販売における取扱いの実情、破産者の占有下における本件各機械の管理態様等からすれば、破産者は、本件各機械を、使用貸借に基づき直接占有するに至り、その際、以後代金完済までの間は、原告のために本件各機械を占有する意思を表示したものといえる。よって、Xは、本件各契約に基づく破産者への引渡時に、本件各機械について占有改定による引渡しを受けて、対抗要件を具備したものといえる。