このページは破産手続における担保関係の取扱(各論)を説明しています。

担保の種類ごとに、破産手続における担保権の取扱を説明しています。法定担保権、約定担保権の順番で、担保権ごとに検討をします。

なお、担保権のことを破産法では「別除権」という表現をしていますので、別除権という用語も出てきますが、担保権の意味です。

なお、破産手続における担保権が認められる要件、行使方法、管財人の対応などについては以下のリンク先をご参照下さい。

担保の種類ごとに、破産手続における担保権の取扱を説明しています。法定担保権、約定担保権の順番で、担保権ごとに検討をします。

1 破産手続における民事留置権の取扱

民事留置権は効力を失います(破産法66条3項ので、管財人に目的物を引渡す必要があります。

2 破産手続における商事留置権の取扱

⑴ 破産手続における商事留置権の取扱及び管財人の対応

商事留置権は、特別の先取特権と同様の効力が認められます(破産法66条1項)。

担保権者は競売の申立が可能です(民事執行法190条(動産)、181条(不動産))。

商事留置権の対象物については留置的効力が失われないと解されています(最判10.7.14)。
したがって、管財人が担保対象物を換価するためには、留置権者の協力が必要となります。
管財人と留置権者との協議がまとまらない場合は,管財人は担保権消滅請求破産法186条)又は商事留置権消滅請求破産法192条)を利用するか、担保対象物を財団から放棄をすることになります。

⑵ 破産手続における、商事留置権に関する主な論点

破産手続において、商事留置権に関する主な論点としては
銀行を債権者とする取立委任をした手形及び手形取立金に対する商事留置権の成否
建築請負代金債権を被担保債権とした不動産に対する留置権の成否
信用金庫等の商人性(信用金庫等に商事留置権が成立するか)
があげられます。

上記については、以下のリンク先において説明をしていますので、ご参照下さい。

3 破産手続における動産売買先取特権の取扱

動産売買先取特権につき、破産法上は特段の定めはありませんので、原則通り、破産手続によらないで、権利行使をすることが可能です(破産法65条1項)。

従前は動産売買先取特権に基づく差押えは必ずしも容易でありませんでしたが、民事執行法の平成15年改正により、執行官が債務者の占有する場所に立ち入り、探索することが可能となったため(民事執行法192条、123条2項)、差押えが容易となり動産売買の先取特権は行使しやすくなりました。もっとも、先取特権者の実行手続により差押がなされない限り、管財人が目的動産を換価しても、破産管財人の不法行為(または不当利得)には該当しないと解されますので(参考裁判例:東京地判H3.2.13、東京地判H11.2.26)、担保権者が権利行使するのであれば、破産管財人が売却をするまでに差押等をする必要があると考えられます。

破産手続における動産売買先取特権にかかる論点及び裁判例については、以下のリンク先をご参照ください。

4 破産手続における所有権留保売買の取扱

所有権留保は所有権(取戻権)でなく別除権として取り扱われると考えられます(東京地判H18.3.28、札幌高決S61.3.26、最判H22.6.4。よって、双方未履行双務契約に関する破産法53条は適用されないと考えられます(最判H22.6.4からは明らかでありませんが、東京地判H18.3.28などは民事再生法49条の適用を否定しています)。

なお、別除権者が管財人に対し別除権を主張するためには、自己の名義での対抗要件具備が必要と考えられます(最判H22.6.4)。

よって、所有権留保の行使方法としては、別除権に基づく取戻しが原則ですが(東京地裁18.3.28)、契約書の内容によっては、売買契約の解除と原状回復という構成を取る場合もありえます。

管財人は、現物を引き渡したうえで、被担保債権が担保対象物の評価額より小さい場合には、差額の清算金を請求し、被担保債権が担保対象物の評価額より大きい場合は差額につき債権届出を待つという対応を取るのが一般的と考えられます。
管財人が第三者に売却し、売却代金の一部を財団に組み入れることを条件に、担保権者に担保権解除の対価として売却代金を引き渡す方法を取ることをあります。これは、破産者が有してた販売ルートなどを使って換価・回収したほうが高額の処分ができるため、管財人が売却したほうが、担保権者としても回収率が高まることがが多いためです。

破産手続における所有権留保売買にかかる論点及び裁判例については、以下のリンク先をご参照ください。

5 破産手続における譲渡担保権の取扱

破産手続において、譲渡担保権は所有権でなく別除権として扱われます(最判S41.4.28、最判H11.5.17も別除権者であることを前提とします)。

別除権の行使方法としては、別除権に基づく取戻しが認められると考えられます。

管財人の対応としては、担保対象物の評価を行い,被担保債権が担保対象物の評価額より大きい場合には、担保対象物を担保権者に引き渡した上で、債権届出を待つことになり、被担保債権が担保対象物の評価額より小さい場合には,対象物を引き渡した上で、清算金を請求するのが一般的なものと思われます。
管財人が第三者に売却し、売却代金の一部を財団に組み入れることを条件に、担保権者に担保権解除の対価として売却代金を引き渡す方法を取ることをあります。破産者が有してた販売ルートなどを使って換価・回収したほうが高額の処分ができるため、管財人が売却したほうが、担保権者としても回収率が高まることが多いためです。

破産手続における譲渡担保にかかる論点及び裁判例については、以下のリンク先をご参照ください。

なお、担保権設定契約の内容や締結時期によっては否認の対象になりえます。特に集合債権譲渡担保は、従前は、債権譲渡登記がなく、第三者対抗要件(第三者債務者に対する通知又は承諾)を具備するのが困難であったため、実務上、債務者の支払停止等を停止条件とする集合債権譲渡担保や、予約型の集合債権譲渡担保が行われていましたが、最判H16.7.16が、かかるタイプの譲渡担保が否認の対象となるとしたことから、現在では、ほとんど行われていません。

最判H16.7.16(破産) 債務者の支払停止等を停止条件とする集合債権譲渡担保が否認の対象となるとされた判例

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甲社は債権者Yとの間で、支払停止等を停止条件とする集合債権譲渡担保契約を締結していたところ、甲社は平成12年3月31日に支払停止となり、同年4月3日に第三者債務者に対して確定日付ある証書による債権譲渡通知がなされました。その後、甲社に同年6月16日に破産手続開始決定がなされ、管財人に選任されたXは、旧破産法72条1号または2号(現破産法162条)に基づき、Yに対して否認権を行使しましたた。第1審、控訴審ともXの請求を認容したことからYが上告しましたが、本判決は、「その契約内容を実質的にみれば、上記契約に係る債権譲渡は、債務者に支払停止等の危機時期が到来した後に行われた債権譲渡と同視すべきものであり、上記規定に基づく否認権行使の対象となると解するのが相当である」としました。

東京地判H22.11.12(破産) 債権譲渡予約に基づく集合債権譲渡担保が否認の対象となるとした裁判例

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債務者甲社は、銀行Yとの間で、Yに対する債務(借入金等)の担保として、甲社の取引先に対する現在及び将来の一切の債権をYに譲渡することを予約する旨の譲渡予約契約に基づく集合債権譲渡を行いました。なお、予約の効力は、甲社が期限の利益を喪失した時点か、その前にYが必要と認めた時点で発生するものとされました。その後、甲社は各金融機関(銀行Yを含む)に返済遅延の申し入れを行い、私的再生計画案を持参するなどしたため、Yが予約完結権を行使して、債権譲渡登記手続きを行った後、甲社は、破産手続開始決定を受けました。破産管財人に選任されたXが当該債権譲渡の対象になった債権の第三債務者に対して支払を求めたところ、当該第三債務者の一部は弁済供託をしたことから、Xは当該債権譲渡に対し否認権を行使し、Yに対して、当該債権譲渡の対象債権及び供託金の返還請求権がXに帰属すること及び、債権譲渡登記の否認登記を求めて提訴しました。
本判決は、「債務者の支払停止等を予約完結権の発生事由とする債権譲渡契約は、破産法162条1項1号の規定の趣旨に反し、その実効性を失わせるものであって、その契約内容を実質的にみれば、債務者に支払停止等の危機時期が到来した後に行われた債権譲渡と同視すべきものであり、同号に基づく否認権行使の対象となると解するのが相当である(旧破産法72条2号に関する最高裁判所平成16年7月16日第二小法廷判決・民集58巻5号1744頁参照)。」とし、Xの請求をいずれも認めました。

6 破産手続における根抵当権の取扱

⑴ 破産手続における根抵当権の取扱

根抵当権は破産手続開始決定により確定します(民法398条の20第1項4号)。

別除権不足額が確定しなければ、当該別除権者は配当に参加できませんが(破産法198条3項)、根抵当権については、極度額を超える部分については,確定不足額の証明なくても配当に参加する権利があります(196条3項,198条4項)。そこで,最後配当に参加するために,根抵当権者から管財人に対して、極度額減額登記の要請をすることがあります。管財人は応じる義務はありません。また、管財人が応じるとしても、費用負担は抵当権者とすることを求められることが一般的だと思われます。

債務者の支払停止、破産手続開始申立て後に、根抵当権者が債務者以外から取得した債務者振出又は裏書の手形・小切手債権は、根抵当権者が善意でない限り、被担保債権とはなりません(民法398条の3第2項)。

⑵ 仮登記について

(根)抵当権は、登録免許税の節約のため、本登記でなく仮登記としておく場合があります(不動産登記法105条)。担保権を管財人に対抗するには、対抗要件を備えていることが必要ですが、仮登記であっても、対抗要件として認められるかは議論があります。概要以下のように整理されています。

種類内容対抗要件としての効力
1号仮登記登記申請に必要な条件が具備しないための仮登記管財人に対抗できると解されています。
2号仮登記権利の設定、移転、変更又は消滅の請求権の保全のための仮登記管財人に対抗できるとされていますが、反対説もあります。