このページは買主破産の場合の売主の動産売買先取特権等の主張についての説明しています

買主破産の場合、売主としては、①動産売買先取特権の主張、②有権留保売買であった旨の主張、③破産手続開始前に解除したことを前提とする取戻権の主張などが考えられます。

それぞれについて、検討しています。

1 売主による動産売買先取特権の主張

売買対象物が管財人の手許にある場合、売主は動産売買先取特権を主張できる可能性があります。
ただし、動産売買先取特権は差押えがなければ管財人に優先権を主張できず、また管財人に不当利得返還請求権も行使できないと解されています(大阪地判S61.5.16、東京地判H3.2.13、東京地判H11.2.26)。

従って、差押えがされるまでであれれば、管財人は対象物を売却可能だと考えられ、売却をしてしまうと、動産売買先取特権を主張することはできません。
なお、破産者が支払停止後に動産先取特権を有している売主に代物弁済をしたとしても、売買当時と代物弁済当時の目的物の価格の均衡が保たれている限り否認の対象とならないとされています(最判S41.4.14)。

裁判例としては、以下のものがあります。

留意すべき裁判例事案の概要
大阪地判S61.5.16(破産)動産売買先取特権者による破産管財人に対する損害賠償請求等を棄却した裁判例
東京地判H3.2.13(破産)動産売買先取特権者による破産管財人に対する損害賠償請求等を棄却した裁判例
東京地判H11.2.26(破産)動産売買先取特権者の破産管財人に対する不当利得返還請求等を棄却した裁判例
最判S59.2.2 (破産)動産売買先取特権者は、破産手続開始後であっても動産売買先取特権に基づく物上代位をすることができるとした判例
最判S41.4.14(破産)動産売買先取特権者に支払停止後代物弁済をしても、売買当時と代物弁済当時の目的物の価格の均衡が保たれている限り否認の対象とならないとした判例

2 売主による所有権留保売買であった旨の主張

売主の所有権留保に基づく取戻権は否定されます(札幌高裁S61.3.26)が、別除権行使に基づく取戻権については管財人も認めざるを得ないものと考えられます。

札幌高裁S61.3.26

3 破産手続開始前に解除したことを前提とする取戻権の主張

売主が破産手続開始前に解除したことを前提した取戻権を主張しても、対抗要件(引渡し。一般的には占有改定なので、占有改定の意思が認められるかが問題となります。)を備えなければ管財人に対して取戻権を主張できないと解されます(東京地判H11.11.30

東京地裁H11.11.30破産手続開始前に売買契約を解除していても、引渡しを受けていないと破産管財人に取戻権を主張できないとされた裁判例
自動車販売会社Xが破産管財人Yに対して取戻権に基づく車両の返還を求めた事例で、 「本件車輌について道路運送車両法上の登録がされていないことはXが自認するところであるから、その所有権の対抗要件は、民法178条により引渡であって、Xが破産宣告前にその引渡を受けていない以上、Xは破産管財人であるYに対し、本件車輌の所有権を主張することはできない。」としました。