このページは破産手続における請負契約の取扱について、説明しています

注文者破産で請負契約が解除された場合は、商事留置権などが問題となります。
請負人破産で請負契約が解除された場合は、前受金と出来高の関係や違約金条項の適用をめぐって争われることがあります。

契約総論(双方未履行双務契約の規律、継続的供給契約の規律)については、以下のリンク先をご参照ください。

1 注文者が破産した場合

⑴ 注文者が破産した場合のまとめ

場合分け破産における権利関係
双方未履行の場合(=未完成、代金未払)民法642条破産法53条・54条の特則として適用されるので、管財人・請負人とも解除が可能です。
  ↓
民法642条
1項 注文者が破産手続開始の決定を受けたときは、請負人又は破産管財人は、契約の解除をすることができる。ただし、請負人による契約の解除については、仕事を完成した後は、この限りでない。
2項 前項に規定する場合において、請負人は、既にした仕事の報酬及びその中に含まれていない費用について、破産財団の配当に加入することができる。
3項 第一項の場合には、契約の解除によって生じた損害の賠償は、破産管財人が契約の解除をした場合における請負人に限り、請求することができる。この場合において、請負人は、その損害賠償について、破産財団の配当に加入する
注文者(破産者)のみが全部履行の場合(=未完成、代金支払済)管財人は請負人に請負業務の完成を要求できます。
請負人のみが全部履行の場合(=未完成、代金支払済)請負人は破産債権者となります。
なお、対象物について請負人に所有権があれば、請負人は取戻権を行使する余地があります。対象物の所有権は、請負人が材料の全部又は主要部分を調達している場合は請負人の所有に帰属し、引渡しによって注文者になり(最判S46.3.5)、請負契約の特約により、注文者に取得させる旨の約定がある場合は注文者となる(最判H5.10.19)と解されています。

⑵ 双方未履行の請負契約について、管財人・請負人ともに解除しない場合

管財人・請負人のいずれもが解除しない場合は、請負人は仕事を完成させたうえで、請負人の請求権は財団債権として行使できます(破産法148条1項7号。この場合、開始決定前の工事部分に対する請負代金も含めて財団債権になるという説が有力です。ただし、管財人が、一度解除したうえで残工事を依頼し、請負人が完成させた場合は、残工事部分のみが財団債権になると解されます。

なお、工事が完成していて管財人が注文者に引き渡しをしたにもかかわらず、下請業者との契約を解除したと主張したケースで、管財人の黙示の履行選択が認められた裁判例があります(東京地裁H12.2.24)。 

⑶ 双方未履行の請負契約について、管財人又は請負人が解除した場合

解除された場合の権利関係
管財人又は請負人のいずれかが解除した場合、仕事の結果は破産財団となります(最判S53.6.23
・請負人の報酬請求権や損害賠償請求権は破産債権となります(民法642条)。
・請負人に占有があれば請負人は商事留置権を主張することが可能です。商事留置権については、以下のリンク先をご参照ください。

2 請負人が破産した場合

⑴ 請負人が破産した場合のまとめ

場合分け破産における権利関係
双方未履行の場合(=未完成、代金未払)破産者以外の者において完成することができない性質である場合を除き破産法53条が適用されます(最判S62.11.26)。

管財人が履行を選択した場合は、管財人は仕事完成義務を負い、管財人は注文者に報酬を請求することになります。

管財人が解除を選択した場合の権利関係は、⑵参照ください。実務的には、出来高の査定をめぐって紛争になることが多く、事案によっては、第三者に出来高査定を依頼するケースもあります。
注文者のみが全部履行の場合(=未完成、代金支払済)注文者は破産債権者と解されます。なお、破産管財人が解除した場合、前受金から工事出来高を控除した残額が破産法54条2項の財団債権となる可能性があります。
請負人(破産者)のみが全部履行の場合(=未完成、代金支払済)管財人は注文者に未払いの請負代金を請求することができます。

この場合、注文者が請負代金債務と瑕疵修補に代わる損害賠償請求権との相殺を主張することがありますが、瑕疵が実際に発生している場合には相殺が可能と解されますが(破産法72条2項2号)、将来の瑕疵発生可能性を理由に相殺をすることはできないと思われます。

⑵ 双方未履行の請負契約について、管財人が解除した場合

破産管財人が解除した場合、前受金から工事出来高を控除した残額が破産法54条2項の財団債権となります(最判S62.11.26、東京地判H9.9.11)。従って、前受金と工事出来高の関係によって、以下のとおり整理できます。

 場合分け     検   討
前受金>工事出来高の場合前受金から工事出来高を控除した残額が破産法54条2項財団債権となります(最判S62.11.26東京地判H9.9.11)。
最判S62.11.26(破産)
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甲社がXからの請負工事につき、約8割の報酬を受け取っていたにもかかわらず、6割しか工事が終了していない状態で破産手続開始決定を受けたため、注文者Xは、破産法53条2項に基づき催告を行いました。管財人Yが確答をしなかったため、Xは請負契約が解除されたものとみなし、Yに対し、既払報酬8割から工事出来高6割を控除した、工事代金約2割分について財団債権であるとして請求訴訟を提起しました。本判決は、請負契約の目的が「破産者以外の者において完成することのできない性質のものであるため、破産管財人において破産者の債務の履行を選択する余地のないときでない限り」、請負契約の請負人破産に破産法53条が適用されることを前提に、既払報酬から工事出来高を控除した残額が財団債権になるとしました。

東京地判H9.9.11(破産)
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X(注文者)が、破産者甲社(請負建築業者)に対する前払金から工事出来高分を控除した残額について、破産法54条2項の財団債権としてその支払いを求めて提訴したのに対し、破産管財人Yは、Xの破産者甲社に対する多額の支払いは融資として行われたものであり、昭和62年最高裁判例の射程は及ばないなどとして争いました。 本判決は「同法60条2項の規定が相手方の先払又は前払を当然の前提としていることはXが説くとおりである上、同法60条2項の規定は、同法59条1項が破産管財人に契約の解除権を認めたことから、解除が選択された場合における相手方の利益を保護し、履行が選択された場合における相手方の利益保護規定である同法47条7号の規定と対をなすものであることにかんがみると、同法59条1項の規定の適用を容認する一方で、同法60条2項の規定の適用を否定するというのは、片手落ちのそしりを免れず、これを採用することはできない。」などとして、Yの抗弁を認めず、Xの請求を認容しました。

なお、注文者から解除した場合は、破産法54条2項の適用はなく、差額は破産債権になると解されます。
東京地判H27.7.30(破産)請負契約が破産手続開始決定前に合意解除され、前払金は財団債権にならないとされた事例
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破産者甲社の破産管財人Xが、甲に対し建物建築工事を発注し工事代金の一部を支払っていたYとの間で前払金が財団債権であるか否かにつき紛争が生じていると主張して、Yに対し財団債権でないことの確認を求めたのが本件です。本判決は以下のように説示して、Xの請求を認めました。
「甲は・・・経営を継続することが困難な事態になったことを債権者に通知する本件通知書を発送しており、Yが本件合意書を送付したのは、本件通知書の内容及び発送の事実を認識したためであったこと、及び本件合意書には、本件通知書を踏まえてYが本件請負契約を解除することが明記されると共に、本件合意書の「合意書部分」に甲の署名捺印をして、同月13日までに返送するよう求めるが、返送がない場合には、甲が上記解除に合意したとの判断をすることが記載されていた・・・このように、甲は本件合意書を受領した時点では、本件工事を含む同社の業務を停止せざるを得ないと認識しており、Yが本件請負契約の解除を選択する以上、これを受け入れざるを得ない状況にあった上、本件合意書には、Yの明示的な意向として、本件合意書の返送がなくてもYの定めた期限が経過すれば本件破産会社が解除に合意したと判断することが示されていたことからすれば、甲は本件合意書を返送していないものの、Yに対し何ら異議を述べないことにより、黙示的に解除合意の申入れを承諾したものと認めるのが相当である。そして、Yが、本件開始決定前・・・に甲に対し本件前払金の返還を含む精算請求をしていること・・・、本件開始決定後、管財人であるXが本件請負契約を解除したとの事実はなく、Yから、Xに対し、相当の期間を定め、当該期間中に本件請負契約を解除するか、債務の履行を請求するかの回答するよう求める催告をしたこともないこと・・・からは、甲の上記承諾は、Yに到達し、Yも本件請負契約は本件合意書に係る解除合意により終了したと認識していたものと認めるのが相当である。・・・以上によれば、本件請負契約は、本件開始決定前に解除されており、双方未履行の状態にあったとは認められない。したがって、本件請負契約について破産法53条が適用されることはないから、Yが財団債権として本件前払金の返還請求権を有することもない。
前受金<工事出来高の場合破産管財人は差額を請求できます。
注文者が工事が途中で止まったことにかかる損害賠償請求等との相殺の主張については、認められる可能性は低いと考えられます(東京地判H24.3.23、札幌地裁H25.3.27)。
東京地判H24.3.23(破産)
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請負人の管財人Xが、注文者Yに対して施工した部分の出来高相当額から既払額を引いた額を求めて提訴したのに対し、Yが損害賠償請求権で相殺するとして争いました。 本判決は、「Yが主張する損害賠償請求権は、Xの法53条1項に基づく解除によって生じたものであり、破産手続開始前には発生すらしていなかったもので、破産手続開始前にYがこの請求権を取得していたものと同視することはできないし、Yが保護に値する相殺に対する期待を有していたとも認められない。したがって、法72条1項1号の類推適用により、Yが、前記損害賠償請求権を自働債権とし、破産財団に属するYに対する請負報酬請求権を受働債権とする相殺を行うことは許されない。」として、Xの請求を認容しました。

札幌地裁H25.3.27(破産)
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請負業者甲社の破産管財人に選任されたX(正確には共同破産管財人)が、甲社とYとの請負契約を破産法53条1項により解除し、未払いの請負工事代金を求めて提訴したのに対し、Yが破産法54条1項に基づく損害賠償債権で相殺するなどとして争ったところ、本判決は「破産法上、破産債権者の相殺権は、同法67条2項の場合を除き、『破産手続開始の時』(同条1項)において、相殺適状にあることを要するものと解されるところ、本件損害賠償債権は、本件破産決定後の事由である本件管財人解除によって発生したものであり(破産法54条1項)、本件破産決定の時点においては、本件代金債権と本件損害賠償債権は、相殺適状になかったといわざるをえない。」としてXの請求を認めました。


参考裁判例:大阪地判H17.1.26(再生) 民事再生の開始した請負人が請負契約を解除し、既成工事部分の未払いの請負代金を請求したが結論として認められなかった事例

なお、請負契約における違約金条項がある場合、管財人が53条1項で解除した場合にもかかる違約金条項の適用があるかが問題となりますが、適用を否定した裁判例が多いようです(名古屋高判H23.6.2、札幌高判H25.8.22、東京地判H27.6.12)。

名古屋高判H23.6.2(破産) 破産管財人が破産法53条1項に基づき請負契約を解除した場合の違約金条項の適用を否定した裁判例

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工事請負人甲社が、注文者Yから工事AB2件を受注した状態で破産したところ、甲社の管財人XはB工事を破産法53条解除する一方、A工事を完成させYに引き渡したが、Yが残工事代金の一部を支払わいませんでした。そこで、XがYに対して支払を求めて提訴したところ、Yは、B工事の前払金返還請求権及び違約金支払請求権等で相殺するとして争いました。第1審(簡易裁判所)はXの請求を認め、控訴審も以下のように説示してXの請求を認めました。なお、上告は棄却されています。
「本件約款46条2項の『違約金』が発生するのは、請負人に同条1項各号のいずれかに該当する事由が生じ、注文者が同条1項に基づく解除権を行使し、この解除権の行使により契約が解除された場合であると認められる。というのは、同条が契約解除の場合に『違約金』の支払義務を負う旨規定し、契約を解除するか否かを問わず『賠償金』の支払義務が生じるとする同約款49条の2の文言と規定内容を採用していないからである。・・・Yは、Xが破産法53条1項による解除をした場合であっても、注文者であるYが、その後本件約款4条1項5号による解除の意思表示をすれば、同条2項の『違約金』を請求できる旨主張するが、上記・・・のとおり、そのような解釈を取ることはできない。・・・Yは、平成20年7月23日、破産者に対し、破産者が別件の工事を完成させないのであれば、同工事契約を解除して相殺をするつもりであると告げ(停止条件付解除の意思表示)、同日午後7時、破産者がYに対して同工事の継続を断念すると告げたから(停止条件の成就)、同工事契約は解除されたと主張するが、停止条件付解除の意思表示があったとは認められない。・・・Yは、本件約款46条1項に基づく解除権を行使していないから、同条2項の『違約金』を請求することはできず、これを相殺の自働債権に供することはできない。

札幌高判H25.8.22(破産):請負契約を破産管財人が53条1項解除した場合に、請負契約の違約金条項の適用がないとした裁判例

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甲(破産者)は、Yから工事を請け負ったが、当該工事請負契約の約款には一定の解除事由により「契約が解除された場合においては、甲は、請負代金額の10分の1に相当する額を違約金としてYの指定する期間内に支払わなければならない。」という定めがありました。Yが甲に対し前払金を支払い工事が開始されたが、工事半ばで、甲は破産手続開始決定を受け、破産管財人としてX(正確には2名)が選任されました。
Xは、Yに対し契約を破産法53条1項により解除する旨の意思表示をしたところ、Yは、Xに対し、当該解除は契約上の解除事由に該当するものとして契約を解除する旨の意思表示をするとともに、工事の出来形に相当する請負代金債権から前払金を控除した残額と違約金条項に基づく違約金債権を相当額で相殺する旨の意思表示をしました。
XYは、出来高を査定して代金債権の額を合意したうえで、XはYに出来高を引き渡しました。XがYに代金債権残額の支払を請求したのに対し、Yは違約金相当額を支払わなかったため、XがYに対して支払いを求めて提訴しました。第1審がXの請求を認めたためYが控訴したが、本判決は以下のように判示して違約金条項の適用は無いとして、Xの請求を概ね認めました。
「本件解除事由は、破産者の約定解除権を定める本件破産者解除条項で定める事由がないのに本件契約の解除を申し出たことをもって、Yの約定解除権の発生事由としたものと解される。法定解除権に基づく解除の意思表示をしたときには、Yが更に本件契約を解除することはできないのであるから、Yの約定解除権を定める本件約款43条1項が、本件管財人解除のように法定解除権に基づく解除の意思表示をしたことをYの約定解除権の発生事由と定めたものと解することはできない。本件賠償金条項は、YがYの約定解除権を定める本件約款43条1項所定の解除事由に基づいて本件契約を解除した場合に適用されるものであり、本件契約がほかの事由に基づいて既に解除されたときには適用されるものではなく、同項所定の解除事由があるときにはYの解除の有無にかかわらず適用されるものでもないことは、『前項の規定により、契約が解除されたとき』と定める本件約款43条2項の文言上明らかである。・・・したがって、本件管財人解除は本件解除事由に該当しないから、本件賠償金条項に基づく本件賠償金債権は発生しない

東京地判H27.6.12請負契約を破産管財人が53条1項解除した場合に、請負契約の違約金条項の適用がないとした裁判例 

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請負人破産の事案において、注文者Xが違約金条項が有効であるとして破産管財人Yと争ったのが本件です(債権査定事件)。本判決は以下のように説示して、Xの主張を認めました。
「本件各契約書47条2項(本件違約金条項)は、発注者が、同条1項(本件発注者解除条項)により発生した解除権を行使し、契約を解除したことを前提に違約金の支払義務が生ずる旨の文言を採用しており、その文言上、本件発注者解除条項により発注者が契約を解除したことが違約金の支払義務が発生するための要件とされていることは一義的に明確であり・・・・・・本件各違約金債権は、その文言のとおり、本件各契約書47条1項(本件発注者解除条項)各号で挙げられた本件解除事由を含む各解除事由に該当する事由が生じ、注文者が本件発注者解除条項に基づく解除権を行使し、これによって本件請負契約〈1〉、〈2〉及び〈4〉が解除されたことを発生要件とするものであると解するのが相当である。・・・・Xによる本件発注者解除より前に、Yによる本件管財人解除がされたことにより、本件請負契約・・・は消滅しており、Xが重ねて本件発注者解除をすることはできないのであるから、Xが本件発注者解除条項に基づく解除権を取得したかどうかにかかわらず、本件違約金条項の要件は満たされず、本件各違約金債権が発生したとは認められないといわざるを得ない。」

最判R2.9.8(破産) 請負人破産の事案で、注文者の破産者に対する違約金債権が破産法72条2項2号にいう「前に生じた原因」に基づく場合に当たり、注文者の請負代金未払分と当該違約金相殺の主張がが許されるとされた事例

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注文者Yと請負人破産者甲は請負契約におて、以下の条項を入れていました。
  ア 注文者は、請負人の責めに帰すべき事由により工期内に工事が完成しないときは、契約を解除することができる。
  イ 上記アの定めにより契約が解除された場合においては、請負人は、報酬額の10分の1に相当する額を違約金として支払わなければならない。
 甲社の支払の停止を知ったYは、請負契約を解除する意思表示をし、これにより違約金債権を、甲社は、Yに対して完成済の部分に対する報酬債権をそれぞれ取得しました。甲社の破産手続開始決定後、Yは甲社の破産管財人Xに対して、違約金債権と報酬債権を対当額で相殺する旨の意思表示をしたのに対し、甲社の破産管財人XがYに対して、相殺が無効であるとして報酬請求権を支払うように提起をしたのが本件です。本判決は以下のように説示してXの請求を認めませんでした。
「本件各違約金債権は、Yが甲社の支払の停止があったことを知った後に本件条項に基づいて本件各未完成契約を解除したことによって現実に取得するに至ったものであるから、破産法72条1項3号に規定する破産債権に該当する。もっとも、本件各違約金債権は、いずれも、甲社の支払の停止の前にYと甲社との間で締結された本件各未完成契約に基づくものである。本件各未完成契約に共通して定められている本件条項は、甲社の責めに帰すべき事由により工期内に工事が完成しないこと及びYが解除の意思表示をしたことのみをもってYが一定の額の違約金債権を取得するというものであって、Yと甲社は、甲社が支払の停止に陥った際には本件条項に基づく違約金債権を自働債権とし、甲社が有する報酬債権等を受働債権として一括して清算することを予定していたものということができる。Yは、本件各未完成契約の締結時点において、自働債権と受働債権とが同一の請負契約に基づいて発生したものであるか否かにかかわらず、本件各違約金債権をもってする相殺の担保的機能に対して合理的な期待を有していたといえ、この相殺を許すことは、上記破産手続の趣旨に反するものとはいえない。
  したがって、本件各違約金債権の取得は、破産法72条2項2号に掲げる「支払の停止があったことを破産者に対して債務を負担する者が知った時より前に生じた原因」に基づく場合に当たり、本件各違約金債権を自働債権、本件各報酬債権を受働債権とする相殺は、自働債権と受働債権とが同一の請負契約に基づくものであるか否かにかかわらず、許されるというべきである。