このページは、法的倒産手続において、貸借契約の違約金条項が問題となった裁判例を紹介しています。
賃貸借契約に違約金条項がある場合、管財人が解除した場合にも当該違約金条項の適用があるかは議論のあるところです。裁判例も分かれており、現時点で定説はありません。
賃貸借契約に違約金条項がある場合、管財人が解除した場合にも当該違約金条項の適用があるかは議論のあるところです。裁判例も以下のように分かれており、現時点で定説はありません。
1 違約金条項の適用を否定した裁判例
東京地判H21.1.16(破産)
違約金条項は「賃料・共益費6ヵ月分を支払うことにより本件契約を解除し得るとする趣旨であると解され、他の事由による本件契約の終了時にも賃借人が違約金を支払うべきことを規定したものであるとは解することができない。そうすると、前記1のとおり、本件契約は、・・・合意解除されたもの又は・・・破産法53条1項に基づき解除したものであるから、いずれにしても本件契約書20条3項が適用される場合に該当しないことは明らかであり」として違約金条項の適用を否定しました。
東京地判H23.7.27(破産)
保証金を放棄することにより即時契約を解除する旨の条項につき、「これは合意に基づく解約権(約定解約権)の行使の要件を定めたものと解され,破産管財人による破産法53条1項に基づく解除権の行使についての要件とは解されない上,同項は,契約の相手方に解除による不利益を受忍させても破産財団の維持増殖を図るために破産管財人に法定解除権を付与し,もって破産会社の従前の契約上の地位よりも有利な法的地位を与えたものと解されることをも併せ考えると,原告による・・・解除により,保証金残金の返還請求権が消滅するものとは解されない。」として効力を否定しました。
東京高判H25.12.13(再生→破産) 賃貸借契約を再生債務者が49条1項解除した場合に、違約金条項の効力が認められないとした裁判例
再生債務者が民事再生法49条1項に基づき解除した事案で、「解約の効力は解約を申し入れた日から6か月の経過をもって発生する」旨の特約の効力が問題となったところ、「期間の定めのある賃貸借契約について、賃借人による期間途中での解除を認める約定解除権を留保するとともに、その解除権を行使して賃借人から一方的に解除をするときの効力発生時期を定めた特約であると解することができるから、この約定解除によらず、法定解除による場合にも本件解約権特約が直ちに適用されるということはできない。 」などして効力を否定しました。
なお、請負契約における違約金条項について、適用を否定した裁判例があります(名古屋高裁H23.6.2、札幌地裁H25.3.27、札幌高判H25.8.22)
2 違約金条項を合理的な範囲で有効とした裁判例
名古屋高判H12.4.27(破産):建物の賃借人の破産につき、賃貸借契約解約時の違約金特約条項につき、合理的な範囲で有効であるとした裁判例
甲は、Yに対し建設協力金及び敷金を預け入れ、Yはかかる資金などにより建物を建てた上で、甲に当該建物を賃借していたところ、甲は破産手続開始決定を受けて、Xが破産管財人に選任されました。なお、甲Y間の賃貸借契約には、賃借人から賃貸借契約の解約を申し入れた場合、敷金及び建設協力金は違約金に充当され、Yは返還を要しない旨の特約がありました。
Xは、当該賃貸借契約を解除し、賃貸人であるYに対し敷金及び建設協力金残高を支払うように求めて提訴した。Yが当該特約に基づき争ったところ、第1審はXの請求を棄却したため、Xが控訴しました。 本判決は、違約金特約は相殺契約であり、「破産手続における相殺は、他の破産債権者に優先して満足を与える結果となるものであるから、少なくとも相殺できることへの合理的な期待の範囲内で認められるべきものであり、右範囲を超える相殺は、破産債権者全体の公平を害することになって、破産法104条各号に具体的に該当しなくとも、権利の濫用として許されないものである。甲とYは、本件賃貸借契約において本件特約を合意したのであるから、Yとしては、違約金全額との相殺を期待していたことになるが、破産手続においては、本来の契約当事者間の期待だけではなく、債権者全体の立場も考慮して、合理的な期待の範囲といえるかどうかを検討すべきである。」として、原判決を一部変更し、Xの請求を一部認めました。
3 違約金条項の適用肯定した裁判例
大阪地判H21.1.29(再生):違約金条項の適用を肯定して再生債権として認めた裁判例
「法は、その49条1項において、双方未履行の双務契約につき再生債務者等に、当該契約を履行するか解除するかを合理的に選択することができる権能を付与したにとどまり、その選択に伴う結果それ自体(解除を選択した場合に履行を受けられなくなること)を除けば、再生債務者等との契約の相手方が民法の規定や有効な契約の定めにより実体上有していた地位を当然に失わせて、その不利益を甘受させることまで許容しているとは解されない。」
東京高判H21.6.25(再生→破産):違約金条項の適用を肯定して損害賠償請求権(再生債権)として認めた裁判例
「本件中途解約申入れは民事再生法49条1項の法定解除権の行使であると認められるから、本件中途解約申入れによって本件中途解約違約金条項に基づく中途解約違約金が発生するとしても、当該違約金の支払は、民事再生法49条5項で準用される破産法54条1項の「損害の賠償」に該当するというべきである。」
東京地判H20.8.18(破産):違約金条項に基づく違約金と敷金の相殺を認めた裁判例
甲の破産管財人Xが、破産者甲が賃借していた建物の賃貸人であったYに対し、賃貸借契約は、破産法53条1項に基づく解除により終了したとして、保証金から未払賃料及び原状回復費用等を控除した残額等の支払を求めて提訴したのに対し、YがXに対し、保証金返還請求権は違約金により相殺されるとして、未払賃料及び原状回復費用等の支払を求める反訴を提起したところ、本判決は以下のように判示し、Xの請求を棄却し、Yの請求につき一部認容しました。
「・・・本件違約金条項は有効であり、これに反するXの主張は理由がない。Xの破産法53条1項に基づく解除は、破産という賃借人(破産会社)側の事情によるものであるから、本件違約金条項にいう『賃借人の自己都合及び原因』、『賃借人のやむを得ない事由』により賃貸借期間中に契約が終了した場合に当たる。したがって、本件違約金条項は、破産法53条1項に基づく解除に適用される。これに反するXの主張は理由がない。
・・・以上のとおり、Xが返還請求する保証金2億円は、Xが破産法53条1項に基づき本件賃貸借契約を解除したことにより、本件違約金条項に基づき、本件損害賠償請求権に全額充当されて消滅したので、これを返還請求することはできない。よって、Xの本訴請求は理由がない。 」