このページは破産手続における契約関係の処理について(契約各論)の説明しています

具体的には、代表的な契約として、①売買契約(破産者買主の場合、破産者売主の場合)、②賃貸借契約(破産者賃借人の場合、破産者賃貸人の場合)、③請負契約(破産者請負人の場合、破産者注文者の場合)を取り上げて、個別に説明をしています。

契約総論(双方未履行双務契約の規律、継続的供給契約の規律)については、以下のリンク先をご参照ください。

1 売買契約

売買契約の破産手続における取扱について、破産者が買主の場合と、破産者が売主の場合に分けて、以下検討します。

⑴ 破産者が買主の場合(まとめ)

     場合分け        破産における権利関係
双方未履行の場合(=未引渡、代金未払)破産法53条の適用(管財人は解除か、履行を選択できます)
買主(破産者)のみが全部履行の場合(=未引渡、代金支払済)管財人は売主に引渡を請求できます。
売主のみが全部履行の場合(=引渡済、代金未払)(※)売主は破産債権者となります。
なお、売主が仮に破産解除特約による売買契約の解除を主張してきても、民法545条1項ただし書により第三者たる破産管財人には対抗できないと解されます。

(※)この場合、売主は動産売買先取特権の行使、所有権留保売買であった旨の主張、契約解除に基づく取戻権の主張をすることが考えられます。これらの場合についての考え方は、以下のリンク先をご参照下さい。

⑵ 破産者が売主の場合

破産者が売主の場合、以下のように整理できます。

    場合分け          法律関係
双方未履行の場合
(=未引渡、代金未入金)
破産法53条が適用されます。
なお、前受金がある場合、管財人が解除すると、当該前受金は財団債権となります(破産法54条2項)。
売主(破産者)のみが全部履行の場合(=引渡済、代金未入金)管財人は買主に代金請求をすることになります(参考裁判例:東京池判H10.12.8
東京池判H10.12.8売主破産の場合で売買契約解除特約の効力が否定された裁判例
裁判例の詳細を見る
甲社(破産者)とYは、甲社を売主、Yを買主として自動車のアクセサリー等の売買を継続的に行っていましたが、基本契約において、売主が倒産した場合買主が契約を解除できる旨の特約がありました。甲社につき破産手続開始決定がなされ、破産管財人に選任されたXが、甲社のYに対する開始決定時の未払いの売掛金を請求したところ、Yは解除特約に基づく解除をしたため(商品は返品)支払義務はないとして争った。 本判決は、解除特約に基づく解除を認めることは、破産手続における債権者平等の原則に反することなどを理由として、破産手続において解除特約の効力は認められないとして、管財人Xの請求を認めた
買主のみが全部履行の場合
(=未引渡、代金支払済)
買主は破産債権者となります。対抗要件を満たしている場合は取戻権に基づいて、引渡し請求をすることが可能ですが、対抗要件を満たしていることはまれと考えられます。

2 賃貸借契約① 賃借人が破産した場合の取扱について

⑴ 賃借人破産の考え方

賃貸借契約も破産法53条が適用されます。
破産管財人が賃借を継続する必要性が低いことが多く、破産管財人が破産法53条に基づき解除するのが一般的だと思われます。
仮に、破産管財人が解除しない場合は賃貸人から解除することになります。なお、倒産開始原因を理由とする約定解除については、借地借家法が適用される場合は無効とされていますが(最判S43.11.21)、債務不履行解除(例えば、賃料未払による解除)は可能と考えられます。

最判S43.11.21
「建物の賃借人が差押を受け、または破産宣告の申立を受けたときは、賃貸人は直ちに賃貸借契約を解除することができる旨の特約は、賃貸人の解約を制限する借家法1条ノ2の規定の趣旨に反し、賃借人に不利なものであるから同法6条により無効と解すべきであるとした原審の判断は正当であ」る。

いずれにしても、特に法人破産において、賃借人が破産した場合、賃貸借契約が終了するか否かについて問題となることはほとんどありません。問題は、賃料請求権のうちの財団債権額、原状回復費用が財団債権となるか否か、違約金条項の有効性などです。以下個別に検討します。

⑵ 賃料請求権のうち財団債権となる範囲

賃料請求権のうち財団債権になる範囲は以下のとおりです。

発生時期による区分        内  容
破産手続開始以前の賃料破産債権
破産手続開始以降の賃料財団債権(破産法148条7号、8号最判S43.6.13)。 なお、賃貸借契約に賃料相当損害金を賃料の倍額等とする条項があっても、財団債権として認められる額はあくまでも賃料相当額であると解されます(東京高判H21.6.25)。
最判S43.6.13(破産)
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「損害金債権は、破産法47条4号所定の財団債権に該当すると解すべきである。けだし、破産宣告によりその物件の所有者たるXにおいてその財産管理処分権を失ない、その権利が破産管財人に専属する以上、右物件を所有して占有するために生ずる損害金債権は、破産管財人の管理処分権にもとづいてする行為を原因として生ずるものと解するのが相当だからである。」

東京高判H21.6.25(民事再生→破産)
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非賃貸人Xが破産管財人Yに対して、賃貸借契約の解約金、店舗明け渡しまでの賃料相当損害金等を求めて提訴したところ、第1審、控訴審ともに、甲の賃貸借契約の解除が民事再生法49条1項に基づく解除であることを前提に、中途解約違約金は民事再生法49条5項で準用される破産法54条1項の損害賠償として破産債権となるしましたが、賃貸借契約終了後明け渡しまでは財団債権になるとした。また、財団債権の範囲は、賃料相当額で計算されるとした。

⑶ 違約金条項や解約予告期間の条項の有効性

賃貸借契約に違約金条項がある場合、管財人が解除した場合にも当該違約金条項の適用があるかは議論のあるところです。裁判例も分かれており、現時点で定説はありません。

裁判例については、以下のリンク先にまとめました。

⑷ 原状回復請求権の性質

原状回復請求権は破産手続開始前に賃貸借契約が終了したか否かで、以下のように区分するのが一般的です。

時期による区分      内  容
破産手続開始前に賃貸借契約が終了している場合破産債権
破産手続開始後に賃貸借契約が終了した場合148条1項4号又は8号に該当し、財団債権とする説が有力です(東京地判H20.8.18)。
ただし、原状回復の対象となる変更行為が破産手続開始前になされものであるとして破産債権になるという有力説もあります。
東京地判H20.8.18(破産):原状回復請求権を財団債権とした裁判例
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甲の破産管財人Xが、破産者甲が賃借していた建物の賃貸人であったYに対し、賃貸借契約は、破産法53条1項に基づく解除により終了したとして、保証金から未払賃料及び原状回復費用等を控除した残額等の支払を求めて提訴したのに対し、YがXに対し、保証金返還請求権は違約金により相殺されるとして、未払賃料及び原状回復費用等の支払を求める反訴を提起したところ、本判決は以下のように判示し、Xの請求を棄却し、Yの請求につき一部認容しました。
「賃借人は、本件賃貸借契約が終了した場合、終了後1か月以内に本件建物を原状回復して賃貸人に明け渡さなければならないという原状回復義務を負っているところ(同契約20条1項)、破産管財人Xは、破産手続開始決定後、本件建物を約1か月間使用した後、破産法53条1項に基づき平成19年10月23日をもって本件賃貸借契約を解除し、同日、原状回復義務を履行しないまま本件建物を明け渡したのであるから、このような場合、破産管財人Xは、本件建物を明け渡した時点で、原状回復義務の履行に代えて、賃貸人に対し原状回復費用債務を負担したものと解するのが相当である。その結果、賃貸人であるYが破産管財人Xに対して取得した原状回復費用請求権は、Xが破産管財人として、破産手続の遂行過程で、破産財団の利益を考慮した上で行った行為の結果生じた債権といえるから破産法148条1項4号及び8号の適用又は類推適用により、財団債権と認められる。

3 賃貸借契約② 賃貸人が破産した場合の取扱について

⑴ 管財人の破産法53条に基づく解除の可否及び権利関係

破産者が賃貸人の場合の、管財人の破産法53条に基づく解除の可否及び権利関係をまとめると以下のとおりです。なお、いずれの場合も賃料は破産管財人に対して支払うことになります。

賃借人が対抗要件(注)を備えている場合破産法53条の適用なく、管財人は解除できません(破産法56条1項)。
・管財人は、賃借権がついた状態で、賃貸対象物を売却するか放棄することになります。
上記以外の場合破産法53条が適用されますので、管財人は解除が可能です。
管財人は解除をして対象物を売却するか、賃貸物件として売却するなどの対応を取ることになります。

(注)建物賃貸借の対抗要件は以下のとおりです。

建物賃貸借建物の引渡し(借地借家法31条1項
建物所有目的の土地の賃貸借建物登記(借地借家法10条1項

⑵ 破産者が賃貸人の場合の敷金返還債務の権利関係

敷金返還請求権は建物明渡時に発生するので(民法622条の2第1項最判S48.2.2)、停止条件付破産債権となります。
停止条件付破産債権は、手続終了までに(正確には除斥期間満了時までに)に停止条件成就がなければ配当から除外され、弁済を受けることができません(破産法198条2項)。

そこで、賃借人保護のために、賃借人が賃料を管財人に対して支払うにあたり、敷金返還請求権の範囲で寄託をするように請求できる制度があります(破産法70条)。管財人はこの寄託請求を受けた場合、明渡時に返還できるように適切に保管しなければなりません。寄託請求をした後の処理は以下のとおりとなります。

場合分け・処理内容
最後配当の除斥期間満了までに明渡しが完了した場合・賃借人は、取戻権(破産法62条)ないしは財団債権(破産法148条1項5号)として、管財人から寄託金(敷金返還請求権の範囲に限ります)の返還を受けることができます。この結果、賃借人の管財人に対する未払賃料が復活します。
・賃借人は、復活した未払賃料債務と、敷金返還請求権とを対等額で相殺し、残額は破産債権となります。
最後配当の除斥期間満了までに明渡しが完了しない場合・寄託金は破産財団に組み入れられて最後配当の配当原資となります(破産法198条2項、201条2項)。
・敷金返還請求権は、配当から除外されます(破産法198条2項)。
管財人が賃借権が付いた状態で賃貸物件を売却した場合敷金返還債務は新賃貸人(買主)に承継され(民法605条の2、最判S44.7.17)、寄託金は破産財団に組み入れられると解されます。

なお、寄託請求の対象に共益費や消費税分が含まれるかは明らかでありませんが、含まれないとする考え方が有力のようです。
また、抵当権者が賃料に物上代位してきた場合(収益執行を含む)や、賃料が破産手続開始前に債権譲渡されていた場合、賃料は管財人に支払われませんが、このような場合でも賃借人が抵当権者や債権譲受人に賃料を払うことで、寄託請求が認められるかについては、はっきりしません(裁判例も無いようです)。

⑶ 賃借人が賃貸人(破産者)に、敷金返還請求権以外の何らかの債権(貸付金、修繕費償還請求権、建設協力金債権など)を有していた場合の権利関係

この場合、相殺適状にあれば、賃借人は当該債権を自働債権、破産手続開始時の未払賃料及び破産手続開始後に発生した賃料を受働債権として相殺が可能と考えられます(破産法67条2項後段)。
なお、賃借人が建設協力金を賃貸人に差し入れ、賃貸人との間で賃料債務と建設協力金返還債務の相殺合意がなされていた事案で、賃貸人の特別清算手続開始決定後に、賃貸人の地位が第三者に承継された場合、賃借人は当該第三者に相殺の主張ができるとした裁判例があります(仙台高判H25.2.13)。破産管財人が賃貸物件を任意売却した場合も同様と考えられる可能性があります。

仙台高判H25.2.13

裁判例の詳細を見る
「特別清算手続によってXの甲に対する本件建築協力金等の返還請求権が制限を受けることと、本件建築協力金等の返還請求権を自働債権とする本件相殺契約の効力が任意売却によって特別清算手続から離脱した後の賃貸不動産に及ぶか否かは、問題の局面を異にする・・・本件相殺契約は、・・・本件賃貸借契約書に一条項として記載されて本件賃貸借と一体となってその内容になっているというべきである。したがって、賃貸人の地位を承継したYに対しても当然に効力を有し、・・・Xは、Yが賃貸人の地位を承継した後の本件賃料についても本件相殺契約に基づく相殺を主張することができると解するのが相当である。」

4 請負契約

請負契約は、注文者が破産した場合と、請負人が破産した場合に分けられます。それぞれ、少々難解な論点もあることから、以下のリンク先にてまとめましたのが、ご参照下さい。