このページは、破産手続における破産債権・財団債権について説明をしています。
破産債権、財団債権というのは、なじみのない名称ですが、一言で言えば、財団債権は破産債権に優先して支払われる債権で、財団債権が残額支払われてから、破産債権への弁済が行われます。
また破産債権の中にも種類があり、優先的破産債権、一般破産債権、劣後的破産債権があります。かなり複雑ですので【専門家向け】を付けさせて頂きました。なお、通常の取引債権は、一般破産債権になります。
1 破産債権・財団債権の全体像
破産債権・財団債権をまとめると以下のとおりです。
種類(分類) | 条文 | 弁済方法 | 備 考 |
---|---|---|---|
財団債権 | 破産法148条他 | 随時弁済(破産法151条) | 財団債権の中でもさらに優先性に応じて二つに分かれます。 なお、公租公課及び労働債権は、財団債権部分と優先的破産債権部分があります。 |
優先的破産債権 | 破産法98条 | 配当手続で一般破産債権に先立って弁済(破産法194条1項1号) | 公租公課及び労働債権は、財団債権部分と優先的破産債権部分があります。 |
一般破産債権 | 破産法97条 | 配当手続により弁済(破産法194条1項2号) | 別除権は破産手続によらずに行使が可能です(破産法65条1項)。また、別除権付債権は、別除権不足額が除斥期間までに証明できないと配当から排除されます(破産法198条3項)。 |
劣後的破産債権 | 破産法99条 | 他の破産債権に後れます。 | 開始後利息など |
2 財団債権とは?
⑴ 財団債権の種類
財団債権は以下のように大きく2つに分かれます。上段の財団債権が優先され、それらがすべて支払われた後、下段の財団債権が支払われます。
下段の「その他の財団債権」が全額支払えない場合は、優先的財団債権以外の財団債権については按分弁済となります(破産法152条1項)。
分 類 | 具体的な内容 |
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優先的財団債権 破産法148条1項1号2号財団債権(破産法152条2項) | ・申立費用(債権者申立の場合の予納金など),保全処分の費用 ・管財人報酬 ・開始決定後の管理・換価にかかる租税債権、その他換価及び配当に関する費用 |
その他の財団債権 | ・租税債権や開始後発生費用関係:破産法148条1項3号~8号、2項 ・従業員給料等関係:破産法149条1項,2項 ・双務契約関係:破産法54条2項,55条2項,3項 ・その他:破産法150条,44条3項,168条1項2号等 |
なお、租税債権の財団債権、優先的破産債権などの範囲については以下のリンク先をご参照下さい。
⑵ 財団債権に関する裁判例
最判S43.6.13(破産):破産者の建物が不法占有している場合、土地所有者の破産手続開始後の損害金は財団債権となるとした判例
最判S43.12.12(破産):株式の取戻権者は、同株式につき生じた配当金等について、破産管財人に対して不当利得に基づき財団債権として請求することができるとした判例
名古屋高判H5.2.23(破産):補助金返還請求権が財団債権であるとした裁判例
福岡高裁那覇支判H28.7.7 建築工事の共同企業体の組合員の破産において、破産財団に組み入れられた共同企業体に属する請負代金が財団債権であるとした裁判例
⑶ 財団債権か否かについて争いがある場合
財団債権か破産債権かについて争いがある場合、管財人と債権者の間で協議をすることなりますが、協議でまとまらない場合には訴訟手続によらざるを得ないと思われます(なお、管財人は破産裁判所と相談しながら、債権者と協議することになろうかと考えられます)。
なお、財団債権か破産債権かで争いがある場合、予備的破産債権の届出も有効と解されています(東京地裁H21.10.30)。
東京地判H21.10.30(再生):債権者が予備的に再生債権として届け出た場合、共益債権として争うことが可能とした裁判例(X:債権者 Y:再生債務者)
⑷ 財団債権・優先的破産債権を代位弁済した場合の、債権の性質
財産債権・優先的破産債権を代位弁済した場合、代位弁済した債権者の債権も財団債権・優先的破産債権として扱われるか否かについては法律には明文の規定はなありません。従前は、下級審裁判例で、肯定説、否定説が分かれていましたが、平成23年の最高裁判決で、租税債権を除き、財団債権あるいは優先債権を代位弁済した場合、原債権通り、財団債権・優先的破産債権として扱われることが確定しているものと思われます。
代位弁済の内容 | 裁判例 | 判示内容 |
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双務未履行契約解除に伴う前受金返還請求権を代位弁済した事案 | 最判H23.11.24(再生) | 共益債権として認めました。 |
労働債権を代位弁済した事案 | 最判H23.11.22(破産) | 財団債権として認めました。 |
租税債権を代位弁済した事案 | 東京地判H17.4.15(再生) 東京高判H17.6.30(破産) 東京高判H19.3.15(再生) 東京地判H27.11.26(破産) | 共益債権ないし財団債権として行使することを否定しました。 |
3 優先的破産債権
⑴ 優先的破産債権の種類(まとめ)
優先的破産債権の種類としては以下のものがあります。
分 類 | 具体的な対象 |
---|---|
公租 | 国税・地方税(財団債権以外の部分) |
公課 | 社会保険料,下水道料金(財団債権以外の部分) (注)水道,電気,ガス料金は公課にあたりません。私債権の「日用品の供給」となります。 |
私債権 | ・共益の費用(民法306条1号,307条) ・労働債権(民法306条2号,308条)(財団債権以外の部分) ・葬式の費用(民法306条3号,309条) ・日用品の供給(民法306条4号,310条) 民法310条の「債務者」には法人は含まれてないと解されています(最判S46.10.21)。 よって、法人破産の場合、「日用品の供給」は関係ありません。 ・企業担保権(企業担保法2条1項,7条1項) |
最判S46.10.21(破産):民法310条の「債務者」には法人は含まれてないと説示した判例
⑵ 優先的破産債権の弁済
優先的破産債権は以下のとおり弁済がされます。
原則 | 債権届出→調査→確定手続きを経て配当として弁済が行われます。 ただし、租税等の請求権については、調査→確定手続は適用されません(破産法134条)。 |
例外 | 労働債権について、労働者保護の観点から、以下の要件を満たす場合には、配当手続きに先立って裁判所の許可を得たうえで弁済することが可能とされています(破産法101条)。 ・給料の請求権又は退職手当の請求権であること。 ・労働債権につき届出があること。 ・その弁済を受けなければ生活の維持を図るのに困難を生ずるおそれがあること。 ・その弁済により財団債権又は他の先順位又は同順位の優先的破産債権を有する者の利益を害するおそれがないこと。 |
優先的破産債権は、一般破産債権に先立って配当がされますが(破産法194条1項1号),優先的破産債権全額について弁済できない場合は,①公租,②公課,③私債権の順番で弁済されます(破産法98条2項)。同順位の債権全額が支払えない場合は、同順位の中で案分弁済になります。
4 破産債権
⑴ 破産債権の定義、特殊な債権の破産債権の範囲
破産債権とは、破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権で、財団債権に該当するものを除くものです(破産法2条5項)。債権額の計算等にあたって注意すべき破産債権として、以下のものがあります。
債権の種類 | 破産債権額の範囲(注意すべき点) |
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弁済期未到来債権 | ・破産手続開始後支払期日までの中間利息相当を控除した後の金額(破産法103条3項)。 ただし、中間利息を控除するのは破産手続開始から1年以上経過後に支払期日が到来する債権に限られます(破産法99条1項2号)。 ・中間利息は劣後的破産債権(破産法99条1項2号) |
非金銭債権 | ・破産手続開始の時における評価額(破産法103条2項1号) |
外国通貨建債権 | ・破産手続開始の時における評価額(破産法103条2項1号) |
額が不確定な金銭債権 | ・破産手続開始の時における評価額(破産法103条2項1号) |
金額又は存続期間が不確定である定期金債権 | ・破産手続開始の時における評価額(破産法103条2項1号) ・評価額と額面額との差額は劣後的破産債権(破産法99条1項) |
停止条件付債権 | その破産債権をもって破産手続に参加することができる(破産法103条4項)。 ただし最後配当の除斥期間までに条件成就しなかった場合は,権利行使ができなくなる(破産法198条2項)。 |
解除条件付債権 | その破産債権をもって破産手続に参加することができる(破産法103条4項)。 最後配当の除斥期間までに条件成就した場合は権利行使できなくなる。 |
⑵ 開始時現存額主義
開始時現存額主義とは、破産者を主債務者とする債権に対して連帯保証人や連帯債務者がいた場合に、仮に当該債権の債権者が破産手続開始後に、連帯保証人や連帯債務者から一部の弁済等を受けたとしても、その債権全額が消滅しない限り、破産債権手続開始の時に有する債権の全額についてその権利を行使できること(=弁済を受けた金額について、破産債権届出を一部と取下げる必要がないこと)を指します。
整理すると以下のとおりとなります。
破産した者 | 債権者の権利行使の範囲 | 他の履行義務者(その者が破産手続において権利行使が可能な場合) |
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連帯債務者 | 全額について権利行使可能(破産法104条2項) | 他の連帯債務者(債権全額を弁済した場合) |
保証人 | 全額について権利行使可能(破産法105条) なお、保証人のみに破産手続開始決定がなされた場合、債権者に対して配当をすることにより、保証人の管財人は主債務者に対して求償債権を有します(民法459条1項、462条1項)が、かかる求償債権の行使により財団が形成されることになります。つまり配当と求償債権による財団形成が循環してしまうことにはなります。 | 主債務者 |
主債務者 | 全額について権利行使可能(破産法104条2項) | 保証人(債権全額を弁済した場合) |
主債務者 | 全額について権利行使可能(破産法104条5項) | 物上保証人(債権全額を弁済した場合) |
(注)上記表で、「(債権)全額」とは破産手続開始時点の債権全額という意味です。
なお、破産債権として複数の債権がある場合(例えば貸出時期が異なる複数の債権がある場合など)、保証人等がそのうちの一部の債権全額を弁済した場合に、開始時現存額主義が個々の債権毎に適用されるのか、複数の債権全額に対して適用されるのかが問題となることがあります。
この点、最高裁判所は、個々の債権毎に適用されるとしました(最判H22.3.16)。
最判H22.3.16
物上保証人から一部弁済を受けたことにより実体法上の残債権額は減りますが、開始時現存額主義により、債権者は、破産手続開始決定時の債権額で計算された破産配当を受けることになります。この結果、実体法上の残債権額を超える配当額となる場合、当該債権者は残債権額を超える部分の配当を受けることができるか否かが問題となりますが、受けることができるというのが判例です(最判H29.9.12)。もっとも、物上保証人は、当該債権者へ実体法上の残債権額を超える超過部分について、不当利得返還請求が可能と解されます(大阪高判R1.8.29)。
最決H29.9.12 破産手続開始後に破産債権者が物上保証人から自己の債権の一部弁済を受けたことにより、配当額が実体法上の残債権額を超過するとしても、超過部分は、当該債権について配当すべきであるとした判例(=物上保証人は配当に参加できないとした判例)
大阪高判R1.8.29 上記の判例を前提として、物上保証人から実体法上の残債権額を超過する部分の配当を受領した債権者への不当利得返還請求権を認めた裁判例
神戸地尼崎支H28.7.20 銀行債権者が、保証人の預金と相殺した事案で、相殺の遡及効(民法506条2項)を制限する銀行取引約定書の効力が有効であるとして、主債務の破産債権額として保証人の預金相殺前の金額が認められるとした裁判例
岡山地判H30.1.18 銀行債権者が、保証人の預金と相殺した事案で、相殺の遡及効(民法506条2項)を制限する銀行取引約定書の効力を制限的に解釈し、主債務の破産債権額として保証人の預金相殺前の金額は認められないとした裁判例(上記神戸地尼崎支H28.7.20と反対の結論とした)
⑶ 別除権付債権
破産手続において、別除権付債権として認められる要件は以下のとおりです。
①破産手続開始時において、破産財団に属する財産に対して担保権を有すること(破産法2条9号)。
例えば、破産債権につき第三者の物上保証があっても別除権付債権とはなりません。
⓶被担保債権が破産債権であること。
別除権付債権で注意すべきケースとして以下のようなものがあります。
破産者が連帯保証人兼物上保証人の場合
破産者が連帯保証をして、さらに不動産等を担保に提供していた場合(正確ではありませんが、抵当権の被担保債権が主債務か連帯保証債務かにかかわらず「物上保証」と表現します。)、物上保証の被担保債権が、主債務なのか連帯保証債務なのかよって、別除権付債権になるかどうかが異なります。物上保証の被担保債権が主債務の場合は、「被担保債権が破産債権」になりませんので別除権付破産債権となりませんが、物上保証の被担保債権が連帯保証債務の場合は、「被担保債権が破産債権」となりますので別除権付債権となります。
手形割引と手形譲渡担保の違い
銀行取引において、手形を譲渡担保として銀行に差し入れている場合は、銀行は「破産財団に属する財産に対して担保権を有する」と言えますので、別除権付債権となりますが、手形割引を行っている場合には、当該手形は担保とは言えないため別除権付債権とはならないと考えられます。
⑷ 配当(弁済)
一般破産債権に対する弁済は、債権届出→調査→確定手続きを経て配当されます。
財団債権、優先的破産債権全額が支払われた後に、破産財団に残余があれば一般破産債権の弁済が行われます。
別除権者は、最後配当の除斥期間満了前に別除権不足額の証明しなければ、配当を受けることはできなません(破産法198条3項、205条)。例えば、破産管財人が放棄した不動産に別除権者が抵当権を有しているような場合、当該不動産が除斥期間満了時に処分されておらず、又は抵当権が放棄されていなければ、当該別除権者は配当を受けることができません。
「別除権不足額の証明」は、別除権が実行することが最もわかりやすい証明ですが、実務上、別除権を放棄した場合や、破産管財人との間で別除権協定を締結し被担保債権の範囲を画した場合も含まれると解されています。なお、極度額を超える被担保債権がある場合の根抵当権については例外があります(破産法196条3項、198条4項)。
別除権不足額の証明できた場合は、配当に参加できます。不足額確定証明が配当表提出後であっても、配当表を更正(破産法199条1項3号)したうえで、配当に参加できると考えられます。
なお、任意売却に伴う別除権受戻が終了していたにも関わらず、不足額確定証明書が自主的に提出されないことを理由に不足額が確定していないとして配当処理をしたことが、管財人の善管注意義務違反とされた裁判例があります(札幌高裁H24.2.17)。
別除権が実行された場合、遅延損害金(劣後的破産債権)から充当するのか、元本(一般破産債権)から充当するのかにより、別除権不足額が異なりますので、充当について注意が必要です。
届出や配当についての詳細は以下のリンク先をご参照ください。
5 劣後的破産債権
劣後的破産債権とは、以下のような債権をいいます。先的破産債権及び一般破産債権が配当を受けた後に,配当を受けることができますが(破産法99条1項)、配当されることはほぼありません。
配当される場合は、一般破産債権と同様に、債権届出→調査→確定手続きを経て配当をされます。
分 類(破産法上の条文) | 具体的な内容 |
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99条1項1号 97条1,3号 | 手続開始後の利息・延滞税・利子税・延滞金 |
99条1項,97条2,5号 | 手続開始後の不履行による損害賠償及び違約金 |
99条1項,97条7号 | 破産手続参加費用 |
99条1項2号 | 弁済期未到来債権の中間利息相当部分 |
99条2項 | 当事者の合意による約定劣後的破産債権 |