このページは破産手続における破産債権・財団債権について説明をしています。

破産債権、財団債権というのは、なじみのない名称ですが、一言で言えば、財団債権は破産債権に優先して支払われる債権で、財団債権が残額支払われてから、破産債権への弁済が行われます。

また破産債権の中にも種類があり、優先的破産債権、一般破産債権、劣後的破産債権があります。かなり複雑ですので【専門家向け】を付けさせて頂きました。なお、通常の取引債権は、一般破産債権になります。

1 破産債権・財団債権の全体像

破産債権・財団債権をまとめると以下のとおりです。

種類(分類)      条文        弁済方法        備   考
財団債権破産法148条他随時弁済破産法151条財団債権の中でもさらに優先性に応じて二つに分かれます。
なお、公租公課及び労働債権は、財団債権部分と優先的破産債権部分があります。
優先的破産債権破産法98条配当手続で一般破産債権に先立って弁済(破産法194条1項1号 公租公課及び労働債権は、財団債権部分と優先的破産債権部分があります。
一般破産債権破産法97条配当手続により弁済(破産法194条1項2号別除権は破産手続によらずに行使が可能です(破産法65条1項)。また、別除権付債権は、別除権不足額が除斥期間までに証明できないと配当から排除されます(破産法198条3項)。
劣後的破産債権破産法99条他の破産債権に後れます。開始後利息など

2 財団債権とは?

⑴ 財団債権の種類

財団債権は以下のように大きく2つに分かれます。上段の財団債権が優先され、それらがすべて支払われた後、下段の財団債権が支払われます。

下段の「その他の財団債権」が全額支払えない場合は、優先的財団債権以外の財団債権については按分弁済となります(破産法152条1項)。

分  類             具体的な内容                        
優先的財団債権
破産法148条1項1号2号財団債権(破産法152条2項
・申立費用(債権者申立の場合の予納金など),保全処分の費用
・管財人報酬
・開始決定後の管理・換価にかかる租税債権、その他換価及び配当に関する費用
その他の財団債権・租税債権や開始後発生費用関係:破産法148条1項3号~8号、2項
従業員給料等関係破産法149条1項,2項
・双務契約関係:破産法54条2項,55条2項,3項
・その他:破産法150条,44条3項,168条1項2号等

なお、租税債権の財団債権、優先的破産債権などの範囲については以下のリンク先をご参照下さい。

⑵ 財団債権に関する裁判例

最判S43.6.13(破産):破産者の建物が不法占有している場合、土地所有者の破産手続開始後の損害金は財団債権となるとした判例

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Xが所有する土地の上に破産者の建物が不法占有している場合、「本件のような土地上に物件を所有して占有することにともなう損害金債権は、破産法47条4号所定の財団債権に該当すると解すべきである。けだし、破産宣告によりその物件の所有者たるXにおいてその財産管理処分権を失ない、その権利が破産管財人に専属する以上、右物件を所有して占有するために生ずる損害金債権は、破産管財人の管理処分権にもとづいてする行為を原因として生ずるものと解するのが相当だからである。」(なお、破産手続開始前は、破産債権としています)

最判S43.12.12(破産):株式の取戻権者は、同株式につき生じた配当金等について、破産管財人に対して不当利得に基づき財団債権として請求することができるとした判例

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株式の取戻権者Xの破産管財人Yに対する株式の返還請求が認められる場合、「Xが本件株式につき取戻権を有する以上、右破産宣告後、・・・破産管財人Yにおいて、右株式の配当金および右株式につき株主に割り当てられた新株を取得すれば、これは、その実質的利益の帰属すべきXの損失において破産管財人Yの利得したものというべく、Xは、破産管財人Yに対し、破産法47条5号の規定に従い不当利得に基づく財団債権として、前示配当金および新株の給付を請求することができるといわなければならない」としました。

名古屋高判H5.2.23(破産)補助金返還請求権が財団債権であるとした裁判例

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本判決は、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律21条1項により、国の補助金返還請求権は、国税徴収の例によって徴収できる債権であり、かつ、補助金の交付目的が達成される可能性がほとんど消滅しており、破産手続開始決定前の原因に基づいて生じた債権として、財団債権であるとした。

福岡高裁那覇支判H28.7.7 建築工事の共同企業体の組合員の破産において、破産財団に組み入れられた共同企業体に属する請負代金が財団債権であるとした裁判例

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破産者甲とAが建築工事の請負につき共同企業体Xを結成していたところ、X名義の預金口座に保管していた請負代金が、共同企業体の代表者であった甲の破産に際し、甲が財産保全を委託した司法書士乙の口座に送金され、乙は破産裁判所の指示に従って裁判所の預金口座に送金し、破産手続開始決定後に、破産管財人Yにより当該預金は破産財団に組入れられた。そこで、XがYに対し、当該預金相当額について財団債権として不当利得返還請求等を求めて提訴したのが本件です。本判決は、以下のように説示して、Xが財団債権として返還請求できるとしました。
「Xの代表者の代表取締役であったBは、乙司法書士との間で、同人においてXの請負代金の保全を目的として、これを保管し管理する旨合意して、請負代金を預託しており、金銭の所有権は乙司法書士に一旦帰属するものの、乙司法書士は(準)委任の趣旨に沿ってこれを管理し、委任終了時に残金を返還する義務を負い、Xは、(準)委任契約上の預託金返還請求権を有するに至ったものと解される。・・・その後、乙司法書士は、Xからの預り金であることを裁判所に提出した書面において明らかにして、・・・裁判所に予納したものである。・・・乙司法書士は委任契約に基づいてXの代理人として、Xへの返還義務のある金銭として同額を予納する意思であったし、予納先が裁判所であり、これがXに属すべきことを十分説明していたことからして、裁判所においてX債権者への支払等の適正な処理を行うものと信頼して予納したものと推認される。・・・裁判所は、・・・Yに支給し、Yはこれを財団組入したものである。しかし、支給決定自体は単に裁判所の保管金をYに交付するための内部手続にすぎず、何らかの法的原因や代償なり対価関係を伴うものではないからYがこれを取得する法律上の原因たりえないし、損失と利得との間の直接の因果関係を否定するようなものではない。また、財団組入とは、破産手続開始決定時に、破産者に帰属し、破産手続による清算の対象となる総財産(法定財団)と現に破産管財人の管理下におかれている財産(現有財団)との間に不一致がある場合に、管財人の管理下になかった財産を回収して、現有財団に帰属させる行為にすぎず、第三者に帰属すべき財産を破産者ないし法定財団に帰属させるような法律上の原因となりうるものではない。また、本件では、何らの代償や対価関係も伴わず、単に財産の移転があったにすぎないから損失と利得との間の直接の因果関係を否定するようなものでもない。
 そうすると、裁判所が、本件請負代金をYに支給し、Yがこれを財団組入したことは、単に第三者であるXに帰属する財産を事実上破産財団としてYの管理下においたものであるから、Xは、Yに対してこの時点で直接に不当利得返還請求権を取得したというべきである。そして、Yは財団組入時においては悪意であったと認められる。

⑶ 財団債権か否かについて争いがある場合

財団債権か破産債権かについて争いがある場合、管財人と債権者の間で協議をすることなりますが、協議でまとまらない場合には訴訟手続によらざるを得ないと思われます(なお、管財人は破産裁判所と相談しながら、債権者と協議することになろうかと考えられます)。
なお、財団債権か破産債権かで争いがある場合、予備的破産債権の届出も有効と解されています(東京地裁H21.10.30

東京地判H21.10.30(再生):債権者が予備的に再生債権として届け出た場合、共益債権として争うことが可能とした裁判例(X:債権者  Y:再生債務者

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「民事再生法104条3項は、再生債権者表の記載の効力として、『確定判決と同一の効力を有する』と定めているにとどまり、以後これを当該民事再生手続外において一切争い得ないと明確に定めた規定は存しない。また、Xによる上記各債権の届出は、上記各債権が最終的に共益債権であることが認められなかった場合に備えて行われたものであるが、このような予備的な届出を禁じる明確な規定は存しない上、Xによる予備的な債権届出の趣旨は、前提事実記載のとおり、再生債権届出書にも記載されているところであって、再生債権者表の記載も上記届出の趣旨を前提に行われたものといえるから、仮に、以後上記債権が共益債権であると認められたとしても、他の再生債権者に不測の損害が生じるとまでは言い難い。」などを根拠として、「再生債権者表に記載されたことをもって、上記各債権を請求する部分のXの本件訴えが、上記既判力に抵触するものとして不適法となるということはでき」ないとしました

⑷ 財団債権・優先的破産債権を代位弁済した場合の、債権の性質

財産債権・優先的破産債権を代位弁済した場合、代位弁済した債権者の債権も財団債権・優先的破産債権として扱われるか否かについては法律には明文の規定はなありません。従前は、下級審裁判例で、肯定説、否定説が分かれていましたが、平成23年の最高裁判決で、租税債権を除き、財団債権あるいは優先債権を代位弁済した場合、原債権通り、財団債権・優先的破産債権として扱われることが確定しているものと思われます。

代位弁済の内容      裁判例          判示内容
双務未履行契約解除に伴う前受金返還請求権を代位弁済した事案最判H23.11.24(再生)共益債権として認めました。
労働債権を代位弁済した事案最判H23.11.22(破産)財団債権として認めました。
租税債権を代位弁済した事案東京地判H17.4.15(再生)
東京高判H17.6.30(破産)
東京高判H19.3.15(再生)
東京地判H27.11.26(破産)
共益債権ないし財団債権として行使することを否定しました。

3 優先的破産債権

⑴ 優先的破産債権の種類(まとめ)

優先的破産債権の種類としては以下のものがあります。

分 類具体的な対象
公租国税・地方税(財団債権以外の部分)
公課社会保険料,下水道料金(財団債権以外の部分)
(注)水道,電気,ガス料金は公課にあたりません。私債権の「日用品の供給」となります。
私債権・共益の費用(民法306条1号,307条
・労働債権(民法306条2号,308条)(財団債権以外の部分)
・葬式の費用(民法306条3号,309条
・日用品の供給(民法306条4号,310条
 民法310条の「債務者」には法人は含まれてないと解されています(最判S46.10.21)。
 よって、法人破産の場合、「日用品の供給」は関係ありません。
・企業担保権(企業担保法2条1項,7条1項

最判S46.10.21(破産)民法310条の「債務者」には法人は含まれてないと説示した判例

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「民法306条4号、310条の法意は、同条の飲食品および薪炭油の供給者に対し一般先取特権を与えることによつて、多くの債務を負つている者あるいは資力の乏しい者に日常生活上必要不可欠な飲食品および薪炭油の入手を可能ならしめ、もつてその生活を保護しようとすることにあると解される。かかる法意ならびに同法310条の文言に照らせば、同条の債務者は、自然人に限られ、法人は右債務者に含まれないと解するのが相当である。」

⑵ 優先的破産債権の弁済

優先的破産債権は以下のとおり弁済がされます。

原則債権届出→調査→確定手続きを経て配当として弁済が行われます。
ただし、租税等の請求権については、調査→確定手続は適用されません(破産法134条)。
例外労働債権について、労働者保護の観点から、以下の要件を満たす場合には、配当手続きに先立って裁判所の許可を得たうえで弁済することが可能とされています(破産法101条)
・給料の請求権又は退職手当の請求権であること。
・労働債権につき届出があること。
・その弁済を受けなければ生活の維持を図るのに困難を生ずるおそれがあること。
・その弁済により財団債権又は他の先順位又は同順位の優先的破産債権を有する者の利益を害するおそれがないこと。

優先的破産債権は、一般破産債権に先立って配当がされますが(破産法194条1項1号),優先的破産債権全額について弁済できない場合は,①公租,②公課,③私債権の順番で弁済されます(破産法98条2項)。同順位の債権全額が支払えない場合は、同順位の中で案分弁済になります。

4 破産債権

⑴ 破産債権の定義、特殊な債権の破産債権の範囲

破産債権とは、破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権で、財団債権に該当するものを除くものです(破産法2条5項)。債権額の計算等にあたって注意すべき破産債権として、以下のものがあります。

債権の種類破産債権額の範囲(注意すべき点)
弁済期未到来債権・破産手続開始後支払期日までの中間利息相当を控除した後の金額(破産法103条3項)。 ただし、中間利息を控除するのは破産手続開始から1年以上経過後に支払期日が到来する債権に限られます(破産法99条1項2号)。
・中間利息は劣後的破産債権(破産法99条1項2号
非金銭債権・破産手続開始の時における評価額(破産法103条2項1号
外国通貨建債権 ・破産手続開始の時における評価額(破産法103条2項1号
額が不確定な金銭債権 ・破産手続開始の時における評価額(破産法103条2項1号
金額又は存続期間が不確定である定期金債権 ・破産手続開始の時における評価額(破産法103条2項1号
・評価額と額面額との差額は劣後的破産債権(破産法99条1項
停止条件付債権その破産債権をもって破産手続に参加することができる(破産法103条4項)。
ただし最後配当の除斥期間までに条件成就しなかった場合は,権利行使ができなくなる(破産法198条2項)。
解除条件付債権その破産債権をもって破産手続に参加することができる(破産法103条4項)。
最後配当の除斥期間までに条件成就した場合は権利行使できなくなる。

⑵ 開始時現存額主義

開始時現存額主義とは、破産者を主債務者とする債権に対して連帯保証人や連帯債務者がいた場合に、仮に当該債権の債権者が破産手続開始後に、連帯保証人や連帯債務者から一部の弁済等を受けたとしても、その債権全額が消滅しない限り、破産債権手続開始の時に有する債権の全額についてその権利を行使できること(=弁済を受けた金額について、破産債権届出を一部と取下げる必要がないこと)を指します。

整理すると以下のとおりとなります。

破産した者              債権者の権利行使の範囲            他の履行義務者(その者が破産手続において権利行使が可能な場合)      
連帯債務者全額について権利行使可能(破産法104条2項他の連帯債務者(債権全額を弁済した場合)
保証人全額について権利行使可能(破産法105条

なお、保証人のみに破産手続開始決定がなされた場合、債権者に対して配当をすることにより、保証人の管財人は主債務者に対して求償債権を有します(民法459条1項、462条1項)が、かかる求償債権の行使により財団が形成されることになります。つまり配当と求償債権による財団形成が循環してしまうことにはなります。
主債務者
主債務者全額について権利行使可能(破産法104条2項保証人(債権全額を弁済した場合)
主債務者全額について権利行使可能(破産法104条5項物上保証人(債権全額を弁済した場合)

(注)上記表で、「(債権)全額」とは破産手続開始時点の債権全額という意味です。

なお、破産債権として複数の債権がある場合(例えば貸出時期が異なる複数の債権がある場合など)、保証人等がそのうちの一部の債権全額を弁済した場合に、開始時現存額主義が個々の債権毎に適用されるのか、複数の債権全額に対して適用されるのかが問題となることがあります。
この点、最高裁判所は、個々の債権毎に適用されるとしました(最判H22.3.16)。

最判H22.3.16

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金融機関Xが甲社に対して5口に分けて債権(以下全体を「本件債権」といいます。また、各債権をA債権,B債権,C債権,D債権,E債権といいます。)を有していて、かつ、金銭消費貸借契約において、債務の全部を消滅させるに足りない弁済がされた時は、Xが弁済充当を指定する権限を有する旨の特約を付していました。甲社の債務を乙(個人)が連帯保証していたところ、甲社及び乙につき、破産手続開始決定がなされ、両者につきYが破産管財人に選任されました(以下甲社の事件を「主債務破産事件」、乙の事件を「保証債務破産事件」といいます)。
その後、本件債権を被担保債権とした抵当権が設定されていた甲社所有の土地建物および、物上保証人丙が提供していた土地が任意売却されたため、売却代金から本件債権の一部が弁済され、破産管財人Yは売却代金をA債権,B債権,C債権,D債権に充当する処理をしました。
債権者Xは、別除権の確定不足額として、主債務破産事件において、本件債権から、破産者甲社所有の不動産の任意売却により回収した金額を除く残額全額を、保証債務破産事件においては本件債権全額を届け出たましが、管財人Yが異議を述べたため査定手続となりました。 本件の主な争点は、債権が複数ある場合の開始時現存額主義の適用範囲ですが、本判決は、複数の債権のうち一部債権について全額弁済された場合には、当該債権については全額が弁済されたものとし(=開始時現存額主義は個々の債権毎に適用される)、また、債権者が指定充当権を弁済を受けてから1年以上経過してから行使することは法的安定性を害するものとして許されないとして、主債務破産事件も、保証債務破産事件も管財人Yの主張を認めた。

物上保証人から一部弁済を受けたことにより実体法上の残債権額は減りますが、開始時現存額主義により、債権者は、破産手続開始決定時の債権額で計算された破産配当を受けることになります。この結果、実体法上の残債権額を超える配当額となる場合、当該債権者は残債権額を超える部分の配当を受けることができるか否かが問題となりますが、受けることができるというのが判例です最判H29.9.12)。もっとも、物上保証人は、当該債権者へ実体法上の残債権額を超える超過部分について、不当利得返還請求が可能と解されます(大阪高判R1.8.29)。

最決H29.9.12 破産手続開始後に破産債権者が物上保証人から自己の債権の一部弁済を受けたことにより、配当額が実体法上の残債権額を超過するとしても、超過部分は、当該債権について配当すべきであるとした判例(=物上保証人は配当に参加できないとした判例)

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甲社の破産管財人Yが、破産手続開始の時における債権の額として確定したものを基礎として計算された配当額のうち実体法上の残債権額を超過する部分を物上保証人甲に配当すべきものとした配当表を作成したところ、破産手続開始後に物上保証人から債権の一部の弁済を受けた破産債権者Xが異議申立てをしたのが本件です。本決定は「破産債権者が破産手続開始後に物上保証人から債権の一部の弁済を受けた場合において、破産手続開始の時における債権の額として確定したものを基礎として計算された配当額が実体法上の残債権額を超過するときは、その超過する部分は当該債権について配当すべきである。」と説示しました。

大阪高判R1.8.29 上記の判例を前提として、物上保証人から実体法上の残債権額を超過する部分の配当を受領した債権者への不当利得返還請求権を認めた裁判例

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上記裁判例の物上保証人甲が、破産債権者Xに対して、実体法上の残債権額を超過する部分について不当利得返還請求を行ったのが本件です。Xは、破産法104条1項、2項及び4項の「債権の全額」に破産手続開始後の利息及び損害金を含むとして、Xが劣後的破産債権も含む届出債権全額の満足を受けない限り、甲は、破産債権者としての一切の権利を行使できないなどとして争いましたが、1審は甲の請求を認容し、Xが控訴しましたが、本判決は以下のように説示して控訴を棄却しました。
件代位弁済により本件破産債権の一部が実体法上Xから甲に移転していた以上、本件破産債権についての配当額と配当の時点でXが有していた本件破産債権の額との差額である本件超過部分については、実体法上、Xがこれを受領する地位にはなく、甲がこれを受領する地位にあったというべきである。
 にもかかわらず、本件超過部分がXに配当されたのは、破産法104条1項及び2項が配当額の計算の基礎となる債権の額と実体法上の破産債権額とのかい離を認め、その結果として、債権者が実体法上の破産債権額を超過する額の配当を受けるという事態が生じ得ることを許容する一方で、物上保証人が債権の一部を弁済したにとどまる場合には超過部分が生ずる場合に配当に参加する趣旨で予備的にその求償権を破産債権として届け出ることができないとされている(破産法104条5項、3項、4項)ことなどによるものであり、Xは、いわば、上記の破産法上の制約によって本件破産手続に参加できない甲人に代わって、本件超過部分まで配当として受領したというべきである。
 このように、本件超過部分が一般破産債権である本件破産債権に対する配当から生じたものである以上、本件破産手続において一般破産債権に劣後するものとされて配当がされなかった本件遅延損害金にこれを充当することは、一般破産債権と劣後的破産債権とを峻別し、配当において前者を後者に優先した破産法の趣旨等に照らして許されず、Xがこれを甲に交付しないで保持することについて法律上の原因はないというべきである。そして、上記のとおり、本件超過部分は実体法上被控訴人に帰属すべきものであるところ、これをXが保持することは、法律上の原因なく甲の損失の下でXが利得しているといえる。
 したがって、Xは、甲に対し、不当利得として、本件超過部分相当額の返還義務を負うと解するのが相当である。」

神戸地尼崎支H28.7.20 銀行債権者が、保証人の預金と相殺した事案で、相殺の遡及効(民法506条2項)を制限する銀行取引約定書の効力が有効であるとして、主債務の破産債権額として保証人の預金相殺前の金額が認められるとした裁判例

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破産会社甲に対して貸金債権を有する銀行Xが、破産手続において債権の届出をしたが、破産管財人Yが、Xが保証人乙(甲の代表者)のX銀行にある預金と相殺した金額について異議を出したことから、査定決定を経て、訴訟になったものです。本判決は以下のように説示して、Xの請求を認めました。
「甲は、平成25年3月25日、Xとの間で、別に合意した場合を除き、取引に関しては、銀行取引約定書が適用される旨合意し・・・、その8条3項には「Xが相殺等を行う場合、債権債務の利息等の計算については、その期間をXによる計算実行の日までとする」旨規定されており(以下「本件遡及効制限条項」という。)、相殺の遡及効を定めた規定(民法506条2項)は、任意規定であると解されるから、当事者間では、相殺の遡及効を制限する合意(契約)も有効である。
 Xは、本件合意によって本件貸付金債権の消滅時は、計算実行日(本件相殺がなされた日)である平成27年3月27日となるから、本件査定決定において届出債権額から控除された本件普通預金の元金、利息の合計額(42万2091円)に相当する部分も破産債権として存在すると主張する。
 そこで検討するに、本件遡及効制限条項は「債権債務の利息等の計算については」と記載されてはいるが、銀行取引約定書などの取引基本契約を締結して取引をする当事者は、取引に関して、別段の意思表示をした場合を除いて、銀行取引約定書などに規定される条項によって処理されるものとする意思を有していたと認められること、本件遡及効制限条項を定めた原告としては、約定相殺をする際の計算が複雑になることを望んではおらず、仮に本件合意が、両債務の利息等の数額を計算する際の基準日を定めたものにすぎず、本件合意によっては相殺の遡及効が制限されないとすれば、既に債権債務は遡及的に消滅しているにもかかわらず、それら債権債務に対して利息等を付する合意をしているということになるが、これは合意の内容としては不自然であることなどを考慮すると、当事者は、相殺の遡及効を制限し、原告が相殺をした任意の日に相殺の効果が生じるとの認識、すなわち、相殺の遡及効を制限する認識で本件合意をしたものと推認することが合理的である。
 ・・・では、本件合意によって相殺の遡及効が制限されるとして、Xは、合意の効力を破産管財人(Y)に対抗できるか。
 破産債権者が破産者の預金と破産者に対する貸付金などを相殺する場合、相殺の遡及効を制限する合意は、本来劣後債権となる破産手続開始後の利息等(破産法97条参照)について破産債権と同様の扱いを認めることになり、一般破産債権者の利益を害するという弊害があるが、連帯保証人である乙との間で行われた本件相殺は、破産会社の破産財団を減少させるものではないし、他方、乙は、破産債権の全額を消滅させたわけではないから、本件破産手続に参加することもできないため(同法104条2項)、破産債権の総額に影響がないことなどを考慮すると、本件合意をYに対抗できると解するのが相当である。」

岡山地判H30.1.18 銀行債権者が、保証人の預金と相殺した事案で、相殺の遡及効(民法506条2項)を制限する銀行取引約定書の効力を制限的に解釈し、主債務の破産債権額として保証人の預金相殺前の金額は認められないとした裁判例(上記神戸地尼崎支H28.7.20と反対の結論とした)

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「本件差引計算合意は、当時、全国銀行協会連合会によって作成されていた銀行取引約定書のひな型(以下「ひな型」という。)に定められていたものとほぼ同じ文言のものである(その後、いわゆる金融制度改革により、ひな型自体は廃止された。)・・・本件差引計算合意は、上記銀行取引約定書のひな型に従って定められたものといえるから、その趣旨は、ひな型と同様と考えられる。・・・相殺の意思表示がされた場合、債権債務は相殺適状時に遡って対当額で消滅する(民法506条2項)。これは、対立する債権を有する当事者は、互いの債権で清算されると期待するであろうから、このような当事者の意思を尊重する趣旨であると考えられる。相殺の意思表示がされれば、相殺適状時にさかのぼって債権が消滅し、したがって、その後は利息が発生することもなく、履行遅滞も消滅することになる。・・・しかしながら、相殺適状時に遡及して債権が消滅するとはいえ、相殺適状時に当然に債権が消滅しているというのではなく、現実には、相殺の意思表示がされるまで時間が経過しているのであるから、それまでの間、互いの債権について利息、損害金等が発生していること自体は否定できない。したがって、当事者間で、上記(1)と異なる清算方法の合意をすることは許されるというべきであるが、このような合意は、相殺の遡及効と矛盾するとはいえないし、相殺の遡及効を制限する合意を当然に含む必要はない。・・・以上によれば、本件差引計算合意は、相殺の意思表示によって消滅する債権について、その利息、損害金等の清算方法の合意をしたものと解され、そこに相殺の遡及効を制限する合意を含むとは認められない。

⑶ 別除権付債権

破産手続において、別除権付債権として認められる要件は以下のとおりです。

①破産手続開始時において、破産財団に属する財産に対して担保権を有すること(破産法2条9号)。
例えば、破産債権につき第三者の物上保証があっても別除権付債権とはなりません。

⓶被担保債権が破産債権であること。

別除権付債権で注意すべきケースとして以下のようなものがあります。

 破産者が連帯保証人兼物上保証人の場合

破産者が連帯保証をして、さらに不動産等を担保に提供していた場合(正確ではありませんが、抵当権の被担保債権が主債務か連帯保証債務かにかかわらず「物上保証」と表現します。)、物上保証の被担保債権が、主債務なのか連帯保証債務なのかよって、別除権付債権になるかどうかが異なります。物上保証の被担保債権が主債務の場合は、「被担保債権が破産債権」になりませんので別除権付破産債権となりませんが、物上保証の被担保債権が連帯保証債務の場合は、「被担保債権が破産債権」となりますので別除権付債権となります。

手形割引と手形譲渡担保の違い

銀行取引において、手形を譲渡担保として銀行に差し入れている場合は、銀行は「破産財団に属する財産に対して担保権を有する」と言えますので、別除権付債権となりますが、手形割引を行っている場合には、当該手形は担保とは言えないため別除権付債権とはならないと考えられます。

⑷ 配当(弁済)

一般破産債権に対する弁済は、債権届出→調査→確定手続きを経て配当されます。
財団債権、優先的破産債権全額が支払われた後に、破産財団に残余があれば一般破産債権の弁済が行われます。

別除権者は、最後配当の除斥期間満了前に別除権不足額の証明しなければ、配当を受けることはできなません(破産法198条3項、205条。例えば、破産管財人が放棄した不動産に別除権者が抵当権を有しているような場合、当該不動産が除斥期間満了時に処分されておらず、又は抵当権が放棄されていなければ、当該別除権者は配当を受けることができません。
別除権不足額の証明」は、別除権が実行することが最もわかりやすい証明ですが、実務上、別除権を放棄した場合や、破産管財人との間で別除権協定を締結し被担保債権の範囲を画した場合も含まれると解されています。なお、極度額を超える被担保債権がある場合の根抵当権については例外があります(破産法196条3項、198条4項)。
別除権不足額の証明できた場合は、配当に参加できます。不足額確定証明が配当表提出後であっても、配当表を更正(破産法199条1項3号)したうえで、配当に参加できると考えられます。
なお、任意売却に伴う別除権受戻が終了していたにも関わらず、不足額確定証明書が自主的に提出されないことを理由に不足額が確定していないとして配当処理をしたことが、管財人の善管注意義務違反とされた裁判例があります(札幌高裁H24.2.17)。

別除権が実行された場合、遅延損害金(劣後的破産債権)から充当するのか、元本(一般破産債権)から充当するのかにより、別除権不足額が異なりますので、充当について注意が必要です。

届出や配当についての詳細は以下のリンク先をご参照ください。

5 劣後的破産債権

劣後的破産債権とは、以下のような債権をいいます。先的破産債権及び一般破産債権が配当を受けた後に,配当を受けることができますが(破産法99条1項)、配当されることはほぼありません。

配当される場合は、一般破産債権と同様に、債権届出→調査→確定手続きを経て配当をされます。

分  類(破産法上の条文)具体的な内容
99条1項1号 97条1,3号手続開始後の利息・延滞税・利子税・延滞金
99条1項,97条2,5号手続開始後の不履行による損害賠償及び違約金
99条1項,97条7号破産手続参加費用
99条1項2号弁済期未到来債権の中間利息相当部分
99条2項当事者の合意による約定劣後的破産債権