このページは破産手続における契約関係の処理についての説明しています

ここでは、個別の契約別の検討ではなく、双務契約、継続的供給契約に関する総論的な議論を致します。破産法は、双方未履行双務契約と継続的供給契約について特別の規律をしていますので、その点を説明しています。

契約類型毎の各論については、以下のリンク先をご参照ください。

1 破産法における双務契約に関する全体的な規律(考え方)

管財人は、破産者が締結していた契約を解除等して終結させていく必要があります。そこで破産法53条は、双方未履行の双務契約について、管財人に特別の解除権を認めています。一方で、電気やガス等の継続的供給契約について、直ちに契約を解除されると、管財業務に支障をきたす可能性がありますので、継続的供給契約については、相手方の解除権が一部制限されています。このように、管財業務に支障をきたさないよう、破産法は特殊な定めを置いています。このページでは、双務契約全般に関する破産法の規律を確認します。

2 双方未履行双務契約の規律(破産法53条の規律)

双務契約であっても、契約相手方の履行が終了していれば、破産者の残債務は単純に破産債権となるだけです(動産売買先取特権等が適用になる可能性はあります)。一方で、破産者の履行が完了していれば、管財人が契約相手方に残債務を請求するだけの話ですので、問題となることはありません。

つまり、双方未履行の双務契約が問題となります。

破産法53条は、双方未履行双務契約について、管財人に履行と解除の選択権を認めています。

管財人が履行・解除を選択した場合の法律関係は以下のとおりとなります。

管財人の選択     相手方の請求権備  考
履行財団債権(破産法148条1項7号履行選択は裁判所の許可事項(破産法78条2項9号

参考裁判例:東京地判H18.6.26(再生) 再生手続開始後、再生債務者が売買代金の一部を支払ったことが履行を選択した旨の黙示の意思表示になるとされた裁判例
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XはY(再生債務者)に対してソフトウエア及び機器を販売していましたが、YはXに売買代金を分割払いとし、XはYに無償でメンテナンスを行っていました。Yにつき民事再生手続開始決定がなされましたが、Yは、しばらくは監督委員から少額債権弁済許可を得て、その後は監督委員の許可を得ることなく、売買代金の分割払いを支払い、Xもメンテナンスを継続していたところ、その後Yは支払を止めました。そこでXがYに対して、売買契約に基づく残代金が民事再生法49条1項、4項により共益債権であるとして、支払を求めて提訴しました。
本判決は、売主Xの負担するメンテナンス等の債務も買主の負担する売買代金支払債務と対価関係にあると解するのが相当であるとして、双方未履行双務契約の適用があることを前提として、監督委員の弁済許可を受けずに分割弁済を行っていることにより黙示的に契約の存続を選択する旨意思表示したものとして、Xの請求を認めました
解除・損害賠償請求権は破産債権(破産法54条1項
・現存反対給付は財団債権(破産法54条2項
・原状回復請求権は財団債権説が有力ですが、明確ではありません(東京地判H17.8.29、東京高判H17.9.29

東京地判H17.8.29(再生)売買契約の再生手続開始後の解除による原状回復請求権は共益債権になるとした裁判例
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「民事再生法は,共益債権となる請求権につき,『再生債務者財産に関し再生債務者等が再生手続開始後にした資金の借入れその他の行為によって生じた請求権』はこれを共益債権とする旨規定している(同法119条5号)。このように民事再生手続開始後にした行為によって生じた請求権が共益債権とされているのは,民事再生手続がいわゆる再生型の手続であり,再生債務者等が再生手続開始後も業務を続けることが予定されているため,再生手続開始後の業務遂行により,再生債務者等の相手方に生ずる請求権については,再生債権者全体の利益に資するものとしてこれを全体で負担する必要があるとの考慮に基づくものである。そして,上記の趣旨からすると,同号所定の『行為』を作為に限る理由はないから,再生債務者等の不作為によって相手方に発生した請求権についても,上記のような考慮を払うべきものについてはこれを共益債権として処遇すべきである。」として、売買契約における再生開始決定後の約定解除に基づく原状回復請求権を共益債権としました。

東京高判H17.9.29(再生):製造委託契約の解除により発生した原状回復請求権が、共益債権になるとした裁判例
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「民事再生法第84条第1項は、『再生債務者に対し再生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権(中略)は、再生債権とする。』と規定しており、財産上の請求権が生じた原因が再生手続開始の時点より前か後かによって再生債権となるかどうかを区別しているのであって、財産上の請求権が契約の解除に基づく原状回復請求権である場合には解除事由となる債務不履行が再生手続開始前に生じているときに同項により再生債権となるものというべきである(上記の債務不履行は再生手続開始後に生じたが、契約解除に基づく原状回復請求の対象となる契約に基づく財産上の給付が再生手続開始前にされたときは、当該財産上の給付は、契約解除に基づく原状回復請求の発生の原因ではないから、この場合における原状回復請求権は再生債権とならないと解するのが相当である。)。」として、再生手続開始後の債務不履行により発生した原状回復請求権は、再生債権にならず、共益債権になるとしました。
解除権が制限される場合があります(最判H12.2.29

最判H12.2.29管財人の解除により相手方が著しい損失を被る場合、管財人による解除権の行使が認められない場合があるとした判例
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Yが経営するゴルフ場のゴルフ会員権を保有する会員Aに破産手続開始決定がなされ、Xが管財人に選任されましたた。XがYに対し、ゴルフ会員契約を破産法53条1項に基づき解除し、預託金全額の返還を請求したところ、第1審、控訴審ともXの請求を認めたため、Yが上告しました。 本判決は、「破産宣告当時双務契約の当事者双方に未履行の債務が存在していても、契約を解除することによって相手方に著しく不公平な状況が生じるような場合には、破産管財人は同項に基づく解除権を行使することができないというべきである。この場合において、相手方に著しく不公平な状況が生じるかどうかは、解除によって契約当事者双方が原状回復等としてすべきことになる給付内容が均衡しているかどうか、破産法60条等の規定により相手方の不利益がどの程度回復されるか、破産者の側の未履行債務が双務契約において本質的・中核的なものかそれとも付随的なものにすぎないかなどの諸般の事情を総合的に考慮して決すべきである。」と説示したうえで、Xの請求を棄却する旨の破棄自判をししました。

3 継続的供給契約(破産法55条)

⑴ 継続的給付を目的とする双務契約の規律(破産法55条)

破産法55条は、継続的供給契約参照)について、以下のように定めています。

1 相手方は、破産手続開始申立前の給付に係る破産債権について弁済がないことを理由としては解除することはできない
2破産手続開始申立後、破産手続開始前にした給付に係る請求権は財団債権となる。ただし、一定期間ごとに債権額を算定すべき継続的給付については、申立ての日の属する期間内の給付に係る請求権全額が、財団債権となる。

(補足)
・「一定期間ごとに債権額を算定すべき継続的給付」の適用範囲は、必ずしもはっきりしませんが、ガスや水道などのように、毎月一定の日に検針が行われるものが該当すると考えられます。
財団債権として処遇されるのは、履行を選択した場合のみか、解除の場合も含まれるかについては、はっきりしません。解除の場合は財団債権として処遇されないという説が有力なようです。

⑵ 破産法55条が適用される、継続的供給契約の範囲

破産法55条が適用される、継続的供給契約の範囲については、議論があるところですが、以下のように考えられています。

電気、ガス、水道、(携帯)電話、新聞など含まれることについてはほぼ争いありません。
賃貸借契約、リース契約含まれないことについて争いありません。
倉庫保管契約、清掃契約、人材派遣契約など争いがありますが、含まれるとする説が有力です。

⑶ 破産法55条によって財団債権とされる範囲

55条2項は、「双務契約の相手方が破産手続開始の申立て後破産手続開始前にした給付に係る請求権(一定期間ごとに債権額を算定すべき継続的給付については、申立の日の属する期間内の給付に係る請求権を含む。)は、財団債権とする。」と定める。そこで、以下の点が、論点として議論されています(主に民事再生における論点ですが、破産でも問題となります)。

① 管財人が履行を選択した場合の申立前の未払債権
管財人が履行を選択した場合、申立前の給付の対価が共益債権となるか否かが問題となります]。思うに55条1項、2項により、申立後の部分に対応する部分(一定期間ごとに債権額を算定すべき継続的給付については、申立日を含む期間以降の部分)のみが共益債権になると解されます。

② 管財人が解除した場合の共益債権の範囲
管財人が解除した場合にも55条2項が適用されるか否か(=申立日以降、又は申立日を含む期間以降が共益債権となるか)が問題となりえますが、否定説が有力のようです。否定説によれば、管財人が解除した場合は、開始前の給付に対する対価は破産債権となります。

③ 括弧書(「一定期間ごとに債権額を算定すべき継続的給付」)が適用される契約とは
はっきりしませんが、給付内容が可分か否かで判断され、例えば、派遣契約などは可分であり、申立前の部分は破産債権と考えられます。