このページは、破産管財人をめぐる法律関係についての説明しています。
まず、破産管財人の権限と義務について裁判例も含めて説明をしています。
次に、破産管財人に権利主張することが制限される場合について、説明をしています。管財人は、破産者本人とは異なる第三者的な立場であることから、破産者本人に主張できたことが管財人に主張できないことがあります。
なお、条文は破産法です。
1 管財人の主な権限
管財人の主な権限は以下のとおりです。
破産財団に属する財産の独占的な管理処分権(破産法78条1項)。
破産会社及び子会社の調査権限(破産法83条)。
郵便物等の管理権(破産法81条、82条)。
東京地判H24.5.16 破産手続が廃止によって終了した後であっても、破産者の財産に関する訴訟について、破産管財人に当事者適格を認めるのが相当であるとした裁判例
山形地判R4.12.13 株主が破産した場合、新株発行無効の訴えの原告適格につき、破産者については認めたものの破産管財人には認めなかった裁判例
2 【裁判例】管財人の主な義務
⑴ 管財人の主な義務
管財人の主な義務は以下のとおりです。この中で、最も重要なものは、善管注意義務で、裁判例も多いところです。
職務に関する善管注意義務(破産法85条)。
一定の行為を行う場合に裁判所の許可を要します(破産78条2項)。なお、破産裁判所が許可したことが国家賠償法上違法となるのは、当該裁判官が違法又は不法な目的をもって裁判したなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に背いてこれを行使したと認め得るような特別の事情があることを必要とすると解されています(東京高判H28.3.23)。
各種報告書の裁判所への提出義務(破産法157条の報告書、破産法88条の任務終了報告等)
給料請求権、退職金請求権を有する者に対する情報提供努力義務(破産法86条)
⑵ 破産管財人の善管注意義務違反が認められた裁判例
裁判例 | 事案の概要等 |
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東京地判S36.9.19 | 債権回収を怠ったことにつき善管注意義務違反が認められた事案 |
東京高判S39.1.23 | 売掛債権の調査及び取立てを懈怠したことが善管注意義務違反とされた事例 |
最判S45.10.30 | 財団債権である租税債権の交付要求を無視して、その弁済をなさずに破産手続を終結させるに至ったことが善管注意義務違反になるとされた事例 |
札幌高判H24.2.17 | 別除権の受戻をしておきながら、不足額確定証明書の提出がないことを理由に、不足額が確定していないとして、当該別除権者に配当をしなかったことが善管注意義務違反になるとされた事例 |
⑶ 破産管財人の善管注意義務違反は認められなかった裁判例
裁判例 | 事案の概要等 |
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東京地判H3.2.13 | 動産売買先取特権との関係で破産管財人の行為が問題となった事案 |
東京地判H8.9.30 | 管財人が売却した不動産の売却価格の妥当性が問題となった事案 |
東京高判H9.5.29 | 破産者が貸与を受けていた金型の保管義務につき善管注意義務違反が争われた事案 |
東京地判H9.10.28 | 管財人が抵当権者に敷地の地代について代払いの機会を与えず、また借地契約について解約の申入れをしたことについて、建物の抵当権者が管財人の責任を問題にした事案 |
最判H18.12.21 | 質権設定された敷金返還請求権を未払賃料等と相殺したことが、管財人の善管注意義務に違反するとして争われた事案 |
大阪高判H28.11.17 | 破産管財人に、破産債権者に対して破産債権届出期間及び破産債権調査期日の通知が適切にされているかを確認し、破産債権届出を催促すべき義務はないとした裁判例 |
金沢地判H30.9.13 | 破産管財人は、債権者一覧表に記載されていない未判明の債権者を探索する義務はなく、破産債権者一覧表に記載されていない債権者を破産債権者として取り扱わなかったことについては不法行為責任を負わないとした裁判例 |
3 担保権などの破産管財人に対する権利主張の制限
⑴ 担保権などの主張について
担保権に限られませんが、破産者と取引をした第三者が、権利変動について破産管財人に対して権利を主張するためには、破産手続開始時までに第三者対抗要件を具備する必要があるとされています(最判S48.2.16、最判S58.3.22)。
最判S48.2.16
土地の賃借権を管財人に主張するためには、対抗要件が必要であるとした判例
最判S58.3.22
指名債権譲渡を管財人に主張するには、対抗要件が必要であるとした判例
なお、主な第三者対抗要件は以下のとおりです。
対象物 | 対抗要件 |
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不動産 | 登記 |
動産 | 占有又は、動産・債権譲渡特例法に基づく登記 |
自動車、建設機械、航空機、船舶 | 登記、登録(商法687条、道路運送車両法5条、航空法3条、建設機械抵当法7条) |
指名債権 | 確定日付のある証書による債務者への通知又は承諾/動産・債権譲渡特例法に基づく登記 |
株式 | ・株券不発行会社では、株主名簿への記載(会社法130条1項) ・株券発行会社では、株券の占有(会社法131条1項) |
(参考裁判例)
京都地判H27.1.15 破産者の所有していた土地を、破産管財人から所有権を譲り受けた者は、たとえ背信的悪意者であっても、未登記の物権の対抗を受けることのない完全な所有権を取得するものとした裁判例
東京地判R2.9.30 破産管財人が民法94条2項の第三者に該当するとしたうえで、破産債権者に一人でも善意の者がいれば管財人は善意であるとし、管財人が民法94条2項の第三者として保護されるとされた事例
⑵ 契約当事者間の抗弁について
破産者との契約に基づき、契約の相手方が管財人に対して契約に定める抗弁を主張できるか否かは、ケースバイケースです。裁判例としては以下のようなものがあります。
裁判例 | 事案の概要等 |
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最判S46.2.23(破産) | 融通手形の抗弁を破産管財人に対して主張できるとした判例 |
大阪地判H20.4.18(再生) | 再生債務者に対して主張可能なクリーンハンズの原則を、再生管財人に対して主張することはできないとした裁判例 |
大阪地判S62.4.30(破産) | 相手方は破産者に対して主張可能な不法原因給付(民法708条)の主張を、管財人に主張できないとした裁判例(同種裁判例:大阪地判S62.4.30、東京地判H15.5.23、名古屋地判H28.1.21などがあります。) |
東京地判H18.5.23(破産) | 相手方は破産者に対して主張可能な不法原因給付(民法708条)の主張を、管財人に主張できないとした裁判例 |
東京高判H24.5.31(破産) | 相手方は破産者に対して主張可能な不法原因給付(民法708条)の主張を、管財人に主張できないとした裁判例 |
最判H26.10.28(破産) | 会員に無限連鎖講取引に基づいて配当していた破産会社の破産管財人が、当該配当金を、公序良俗に反して無効であるとして、返還を求めた事案で、法原因給付に当たることを理由に返還を拒むことは信義則上許されないとした判例 |