このページは、破産手続開始決定時点で係属していた訴訟の取扱いについての説明しています。
一部の例外を除いて、訴訟は一度中断をします(=止まります)。そのうえで、訴訟の内容によって処理が決まります。
やや内容が専門的なので、【専門家向け】と入れさせて頂きました。
1 通常訴訟が係属していた場合
破産手続開始決定時に破産者に関して係属している訴訟に対する、開始決定の効果及びその後の処理をまとめると、概要以下のとおりです。
⑴ 破産債権に関する訴訟
中断(破産法44条1項)します。
債権確定手続の中で受継等の処理がされます。
債権確定手続は、以下のリンク先をご参照ください。
なお、債権者が債権届出をしなかったり、管財人が異議を述べなかったり、あるいは、管財人が異議を述べたのに対して債権者があきらめて受継の申立てをしないことにより、事実上紛争が終結してしまうことがあります。このような場合、訴訟がどのように処理されるかは明確ではありません。受訴裁判所の判断になりますが、終了手続が取られるものと思われます(大阪高裁H26.5.30)。
大阪高裁H26.5.30 破産債権に係る訴訟の係属後に、被告である株式会社に破産手続開始決定がされ、債権届出留保のまま、廃止決定確定した事案について、破産会社の法人格は消滅し、当該訴訟は当然に終了するとした裁判例
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「被控訴人は、大阪地方裁判所平成19年(フ)第9640号破産事件において、平成19年11月26日午後5時破産手続開始決定を受け、平成26年3月27日付け破産手続廃止決定が同年4月26日に確定した。よって、被控訴人は法人格が消滅し、本件訴訟は当然に終了した。」
⑵ 財団債権に関する訴訟
中断(破産法44条1項)します。
相手方又は管財人が受継が可能です(破産法44条2項)。
なお、財団債権にかかる訴訟か、破産債権にかかる訴訟かが不明な場合、最終的には、原告側の主張内容から、受訴裁判所が判断するものと考えられます。
⑶ 破産財団に属する財産に関する訴訟
中断(破産法44条1項)します。
相手方又は管財人が受継が可能です(破産法44条2項)。
⑷ 債権者代位訴訟
中断(破産法45条1項)します。
相手方又は管財人が受継が可能です(破産法45条2項)。
⑸ 詐害行為取消訴訟
中断(破産法45条1項)します。
管財人又は相手方が受継可能です(破産法45条2項)。 破産管財人は、受継せずに否認請求や否認訴訟を提起することも可能です。
⑹ 株主代表訴訟
中断(破産法45条1項類推)します。
管財人が受継できると考えられます。もっとも、管財人が従前の訴訟状態に拘束されるのは不合理であるとして、管財人は受継を拒絶できるとする考え方が有力のようです。この説によれば、管財人は改めて役員の責任追及のための査定手続ないし訴訟を提起できることになります。
なお、破産手続開始後、株主は新たな代表訴訟を提起することはできないと解されます(東京地判H7.11.30)。
東京地判H7.11.30:破産手続開始決定後、株主は株主代表訴訟を提起することができないとした裁判例
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甲社の破産手続開始後に、甲社の株主が甲社の取締役に対して株主代表訴訟を提起したところ、本判決は以下のように述べて請求を却下しましたた。
「株主代表訴訟は、会社が取締役の責任を追及できるにもかかわらず、取締役相互間の特殊な関係からこれを怠り、会社ひいては株主全体の利益が害されることを防ぐために、株主に会社に代わって訴訟を提起・追行することを認めた制度であり、会社が訴えを提起する権能を有することがその前提となっている。しかし、会社が破産宣告を受けると、破産財団の管理・処分権等は破産管財人に専属するから(破産法7条)、取締役の責任を追及する訴えも、破産財団に関する訴えとして、破産管財人が当事者適格を有し(同法162条)、会社は、右訴えを提起する権能を失うことになる。しかも、破産管財人は、裁判所の監督の下に善良な管理者の注意をもって、公平誠実に職務を遂行する責任を負うものとされ(同法164条1項)、取締役との間に前記のような特殊な関係も存しないから、取締役の責任の追及をことさらに怠り会社の利益を害するおそれもなく、株主による代表訴訟を認めるべき実質的な根拠もないといわなければならない。そうすると、会社が破産を宣告された後は、取締役に対する責任の追及は、専ら破産管財人に委ねられ、株主はもはや代表訴訟を提起することができないと解するのが相当である。」
⑺ 【例外】会社の組織法上の訴訟
中断しません。
管財人は無関係です(最判H21.4.17)ので、訴訟は中断せず、破産手続とは関係なく進行します。
最判H21.4.17:破産手続開始決定により株主総会決議不存在確認訴訟の訴えの利益は失われないとした判例
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Y(破産会社)の取締役であったXらが、Yに対し、Xらを解任する内容のYの臨時株主総会及び、Aを代表取締役に選任したYの取締役決議の不存在確認を求めて提訴していたところ、第1審係属中に、Yにつき破産手続開始決定がなされました。第1審は、Xらの請求を認めたが、控訴審はYにつき破産手続開始決定がなされていることから訴えの利益がないとして請求を却下したため、Xらが上告したところ、以下のように判示し、破棄差戻しとしました。
「・・・民法653条は、委任者が破産手続開始の決定を受けたことを委任の終了事由として規定するが、これは、破産手続開始により委任者が自らすることができなくなった財産の管理又は処分に関する行為は、受任者もまたこれをすることができないため、委任者の財産に関する行為を内容とする通常の委任は目的を達し得ず終了することによるものと解される。会社が破産手続開始の決定を受けた場合、破産財団についての管理処分権限は破産管財人に帰属するが、役員の選任又は解任のような破産財団に関する管理処分権限と無関係な会社組織に係る行為等は、破産管財人の権限に属するものではなく、破産者たる会社が自ら行うことができるというべきである。そうすると、同条の趣旨に照らし、会社につき破産手続開始の決定がされても直ちには会社と取締役又は監査役との委任関係は終了するものではないから、破産手続開始当時の取締役らは、破産手続開始によりその地位を当然には失わず、会社組織に係る行為等については取締役らとしての権限を行使し得ると解するのが相当である(最高裁平成12年(受)第56号同16年6月10日第一小法廷判決・民集58巻5号1178頁参照)。
したがって、株式会社の取締役又は監査役の解任又は選任を内容とする株主総会決議不存在確認の訴えの係属中に当該株式会社が破産手続開始の決定を受けても、上記訴訟についての訴えの利益は当然には消滅しないと解すべきである。」
名古屋高判H24.1.17(破産) 破産会社の債務者について、管財人が合併無効の訴えを提起する原告適格を有するとした裁判例
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Yの債権者であった破産会社甲社の破産管財人Xが、Yと乙社との間でされた吸収合併につき、合併無効の訴えを提起したところ、第1審が、破産管財人には合併無効訴えの原告適格がなく、訴えは不適法でその不備を補正することができないとして、口頭弁論を経ないで訴えを却下したため、Xが控訴しました。本判決は概要以下のように判示して第1審を取り消し、差し戻しました。
「会社の吸収合併無効の訴えは、吸収合併の効力が生じた日において吸収合併後存続する会社の株主等、社員等、破産管財人のほか、吸収合併について承認をしなかった債権者も、これを提起することができる(会社法828条2項7号)。他方、債権者について破産手続開始の決定があった場合には、当該債権者の財産であって、破産財団に属する財産の管理処分権は破産管財人に専属し(破産法2条14号、78条1項)、破産財団に関する訴えについては、破産管財人を原告又は被告とするものとされている(同法80条)。したがって、吸収合併後存続する会社の債権者の破産管財人が吸収合併無効の訴えを提起することができるか否かは、吸収合併無効の訴えを提起することが破産管財人の破産財団に属する財産の管理処分権に含まれ、『破産財団に関する訴え』に含まれるか否かにかかることになる。 ・・・会社法が、吸収合併について、債権者に異議申立権を認め、その行使があった場合には、存続会社に一定の債権保全措置を命じ、更には当該債権者に吸収合併無効の訴えの原告適格を認めているのは、吸収合併が債権の財産的価値に影響を与えることを前提として、その財産的価値を確保し、債権者を保護するためであると解される。すなわち、吸収合併により消滅会社の権利義務は当然に存続会社に承継されることから(同法2条27号)、消滅会社の経営状態、財産状態のいかんによっては、債権者が存続会社に対する債権を回収することが困難となるおそれがあるため、債権者に対しあらかじめ吸収合併に対して異議を述べる機会を付与し、債権者の意に反して吸収合併が行われる場合には、債権者保護手続により債権の満足を得るか又は確実に満足が得られることの保障を与え、更には、このような手続が履行されない場合等に吸収合併無効の訴えを提起することを認めたものと解される。 そして、上記の債権者について破産手続開始の決定があった場合、当該債権者が存続会社に対して有する債権は破産者の財産によって構成される破産財団に属する財産として、その管理処分権は破産管財人に専属することになるから(破産法2条14号、78条1項)、存続会社の債権者の破産管財人は、破産財団に属する財産である債権についての管理処分権に基づき、異議申立権を有し、所定の期間内に異議を述べた場合には、当該会社から弁済等を受ける権限を有するほか、当該債権の回収の実効性を確保するため、吸収合併無効の訴えを提起することができるというべきである。 したがって、同訴えは『破産財団に関する訴え』に含まれ、破産管財人が原告適格を有する。
・・・Yは、破産管財人は基本的に会社組織法上の行為について権限を有しない旨を主張する。しかし、一般に破産管財人が会社組織法上の権限を有しないとされているのは、破産した会社の破産管財人についてであって、本件のように、債権者の破産管財人が破産財団についての管理処分権に基づき、債務者に対し、債務者に係る会社組織法上の訴訟を提起する場合にこれと同様に解すべき根拠はないし、Yが引用する判例は、破産した会社の組織に係る行為と当該破産した会社の破産管財人の権限に関する説示を内容とするもので、本件とは事案を異にし、本件には当てはまらない。」
2 家事事件等について
破産手続開始決定時に労働審判や、家事事件に関する裁判手続が係属していた場合の取扱は概要に以下のとおりと考えられます。
⑴ 労働審判について
労働者側の破産 | 管財人は、破産財団を構成する範囲(未払給料請求があれば、その4分の1)で受継するものと考えられます。 |
使用者側の破産 | 管財人は、地位確認請求及び未払給料請求のうち財団債権部分について受継するものと考えられます。なお、優先的破産債権部分は、債権確定手続に委ねられるものと考えられます。 |
⑵ 離婚・相続に関する請求について
請求者側の破産 | 離婚にかかる請求 | 財産分与・慰謝料・婚姻費用・養育費いずれも、破産手続終了前に具体的金額が確定し、行使上の一身専属性が失われていない限り、管財人の管理処分権は及ばず、中断等はしないと解されます。 |
請求者側の破産 | 相続にかかる請求 | 管財人が受継するものと解されます。 |
義務者側の破産 | 離婚にかかる請求 | 争いがあるものの、財産分与・慰謝料・婚姻費用・養育費いずれも破産債権として扱うのが妥当であると解されます。 |