このページは、質権について説明しています。

質権の成立要件、対抗要件、担保の実行方法に加えて、最後に他の権利との衝突に関する裁判例を紹介しています。

1 成立要件(効力発生要件)

約定担保権である質権成立には当事者の合意が必要です(質権設定契約)。
さらに、担保対象物を質権者に引渡して初めて効力が発生します。質権の種類に応じて、効力発生要件や以下のように整理されます。

分類当事者の合意に加わる効力発生要件条文
動産質/不動産質引渡し(占有改定不可)民法344条、345条
一般の権利質債権譲渡のために証書の交付を要するものは、証書の交付民法363条
株式質・株券発行会社は株券の交付
・株券不発行会社は意思表示のみ
会社法130条、146条~154条
知的財産質登録特許法98条、実用新案法25条など

なお、被担保債権の範囲が問題となることがありますが、質権設定契約の文言等を勘案して判断されます(参考裁判例:東京地判H9.10.15)。

東京地判H9.10.15被担保債権を「現在負担し、又将来負担する取引上の一切の債務の担保として」と記載されている質権設定契約の、質権の被担保債権の範囲が問題となった事案

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甲社の役員が生命保険に加入した際、甲社は、Y銀行から保険料を借り入れ、保険金請求権及び解約返戻金請求権等に質権を設定しました。その際、質権設定承認請求書には、被担保債権に関して、「現在負担し、又将来負担する取引上の一切の債務の担保」と記載されていました。その後、甲社が破産しXが破産管財人に選任された後、当該生命保険は解約されましたが、Y銀行は解約返戻金について、保険料分以外の借入にも充当しました。そこで、Xが、当該質権の被担保債権は保険料借入分のみであるとして差額の支払を求めて提訴しましたた。
本判決は、「本件質権設定承認請求書には、甲社がYに対して『現在負担し、又将来負担する取引上の一切の債務の担保として』質権を設定する旨の記載がある。右記載内容はそれ自体明確であり、記載してある位置も右質権設定承認請求書の冒頭であり、活字もそれに続く各条文よりも大きく、十分認識できるように配慮されている。また、本件文言は、甲社が昭和60年9月2日付けでYと取り交わした銀行取引約定書・・・の4条2項にも同様の規定があり、銀行取引においては、このような銀行取引約定書を初めとする各種の取引についてのひな型が、全国銀行協会における協議等を経て作成され、金融機関は顧客との取引において、当該ひな型と同様の約定書を修正を加えることなく使用していること、これが金融取引の客観性、明確性、安全性及び迅速性に寄与している面があること、一般に銀行取引においては、担保を取得する場合には、個別的にではなく、全部の融資を担保するものとして取得するとされていることからしても、破産会社にとって決して予想外の内容とはなっていない。・・・本件借入金以外の債務についても本件質権の被告担保債権とする旨の合意があったと解するのが相当である。」として、Xの請求を棄却した。

2 対抗要件

質権の対抗要件は、対象物によって異なります。

質権の対象対抗要件条文等
動産占有の継続民法352条
不動産設定登記最判S31.8.30
指名債権・確定日付のある証書による第三債務者への通知、又は確定日付のある証書による第三債務者の承諾
動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律に基づく質権設定登記
民法364条、467条
指図債権証書への裏書民法365条
株式・株券発行会社の場合株券の占有継続
・株主名簿の記載(登録質)
・振替株式(上場会社株式)は証券口座の振替
会社法147条
知的財産権登録特許法98条、実用新案法25条など

3 実行方法

質権の実行方法は、以下のように整理されます。

⑴ 動産質

実行方法条文・備考
競売民事執行法190条
簡易な実行方法(鑑定人の評価に従い質物をもって弁済に充当する方法)民法354条
流質契約(=債務の弁済期前に、債務不履行時に、質権者が質物の所有権を取得し、又はこれを売却して弁済にあてる合意をいいます)による処分「商行為によって生じた債権を担保するために設定した質権」については、合意がなくても可能です(商法515条)。

⑵ 不動産質

実行方法条文・備考
競売民事執行法181条
流質契約(=債務の弁済期前に、債務不履行時に、質権者が質物の所有権を取得し、又はこれを売却して弁済にあてる合意をいいます)による処分「商行為によって生じた債権を担保するために設定した質権」について可能(商法515条)。

⑶ 権利質

実行方法条文・備考
競売民事執行法193条、143条 なお、債権は目的債権の直接取立が可能(民法366条)。
流質契約(=債務の弁済期前に、債務不履行時に、質権者が質物の所有権を取得し、又はこれを売却して弁済にあてる合意をいいます)による処分「商行為によって生じた債権を担保するために設定した質権」について可能(商法515条)。
なお、担保対象物が譲渡制限株式である場合、譲渡につき会社(取締役会又は株主総会、定款に定められる)の承認が得られていない場合には、担保実行時に承認請求をする必要があります(会社法136条)。

4 補足(第三者との権利関係が問題となる場合)

質権者と当該質物(特に債権)に関与する第三者(第三債務者や他の債権者など)との権利関係が問題となることがあります。
裁判例としては以下のようなものがあります。

大阪高判H16.7.13建物賃貸借契約の賃借人が賃貸人に差し入れた敷金の返還請求権に質権が設定されている場合であっても、賃貸人が当該建物を他に譲渡すると、敷金返還債務は新賃貸人に移転するとした裁判例

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甲の債権者Xは、建物の賃借人甲がYに差し入れた敷金の返還請求権の一部に質権の設定を受けていたところ、Yは、その後、建物を第三者に譲渡しました。これに対し、Xは、建物譲渡後もYが保証金返還義務を負担していると主張し、質権の実行として、Yに対し、保証金の返還等を求めて提訴したところ、第1審はXの請求を認めたためYが控訴しました。
本判決は「建物賃貸借契約において、当該建物の所有権移転に伴い賃貸人たる地位に承継があった場合には、旧賃貸人に差し入れられた敷金は、未払賃料等があればこれに当然充当され、残額についてその権利義務関係が新賃貸人に承継される(最高裁昭和44年7月17日第一小法廷判決・民集23巻8号1610頁参照)。・・・敷金返還請求権に質権が設定された場合でも、それによって敷金としての性質に変更が生ずるとは考えられない。そして、質権が設定された場合でも、質権の債務者(賃借人)にとっては、敷金返還請求権が引き継がれるとした方が前記(1)で指摘した不便さを回避することができ、都合がよいことに変わりはなく、新旧賃貸人にとっても、敷金返還義務が引き継がれるとすることで特段不都合はないものと考えられる。・・・そして、敷金は、前記のように、賃貸借契約上の賃借人の債務を担保するためのものである。そうとすれば、賃貸人の交代による承継は、敷金の性質上当然のことである。賃借人の債権者が敷金返還請求権に質権を設定しても、それは、敷金自体の性格からくる制約を甘受せざるを得ないとすべきである。そうとすると、敷金返還請求権に質権を設定することの実質的機能は、賃貸借終了時点において、賃貸人が賃借人に返還してしまうことを禁止することにあると考えられる。賃貸物件の譲渡を禁ずることができないのはもとより、敷金に関する権利関係の承継を禁ずることもできないというべきである。 」として、原判決を取り消し、請求を棄却しました。

最決H12.4.7:質権が設定されている債権であっても転付命令の対象となるとした判例

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Xは、Yに対する金員の支払を命ずる確定判決を債務名義として、債権差押命令を得た上、Yが甲銀行に預け入れた定期預金払戻請求権について転付命令を申し立てました。ところが、当該定期預金は、Yが甲銀行に対して負担する債務を担保するため、甲銀行が質権を有していました。第1審も控訴審もXの転付命令の申立てを却下したため、Xが上告しました。
本決定は、「質権が設定されている金銭債権であっても、債権として現に存在していることはいうまでもなく、また、弁済に充てられる金額を確定することもできるのであるから、右債権は、法159条にいう券面額を有するものというべきである。したがって、質権が設定されている金銭債権であっても、転付命令の対象となる適格がある。もっとも、転付命令が発せられ、執行債権等が券面額で弁済されたものとみなされた(法160条)後に、質権が実行された結果、執行債権者が転付された金銭債権の支払を受けられないという事態が生ずることがある。その場合には、転付命令により執行債権者が取得した債権によって質権の被担保債権が弁済されたことになるから、執行債権者は、支払を受けられなかった金額について執行債務者に対する不当利得返還請求などをすることができるものと解すべきである」として、原決定を破棄し、自判しました。