このページは、抵当権について説明しています。

抵当権の、成立要件、対抗要件、実行方法(物上代位を含む)に加えて、抵当権の及ぶ範囲などを説明しています。
なお抵当権は、船舶、航空機、建設機械、自動車などにも設定可能ですが一般的ではありませんので、触れていません。最後に工場低当法については少し説明しています。

1 成立要件・対抗要件

⑴ 成立要件

当事者の合意(抵当権設定契約)

⑵ 対抗要件

設定登記(民法177条)。

2 実行方法

⑴ はじめに

基本的には競売ですが、担保不動産収益執行という方法もあります。
抵当権者は、競売担保不動産収益執行の双方を申立てることもできます(民事執行法180条)。

さらに、抵当権者は、賃料に対する物上代位担保不動産収益執行を選択できます。
この場合、物上代位後に収益執行が開始されると、原則として物上代位の効力は停止します(民事執行法188条、93条の4)。

⑵ 競売

民事執行法180条1号。なお、土地に抵当権を設定した後に建物が築造された場合、抵当権者は土地と建物を一括して競売することが可能です(民法389条 一括競売)。 ただしこの場合も、優先権は土地の代価についてのみ行使することができます。

【手続の流れ】
申立
 ↓
物件調査(現況調査報告書,物件明細書,評価書作成。売却基準価格が決められ,その2割下回る価格以上での買受が認められる。)
 ↓
期間入札
 ↓
代金納付(代金納付から半年以内に占有者に対する引渡し命令が可能。引渡し命令が確定すると明渡しの強制執行が可能となる。)

⑶ 担保不動産収益執行

民事執行法180条2号 裁判所によって選任された管理人(収益執行管理人といいます。)が,対象不動産の管理や賃料を受け取るなど収益の収受及び換価をすることにより,対象不動産の収益を債権の弁済に充てるものです。
なお、担保不動産収益執行の管理人は担保不動産の収益に係る給付を求める権利を行使する権限を取得するにとどまり、担保不動産収益執行の開始決定の効力が生じた後に弁済期の到来するものであっても、権利自体は所有者に帰属するとされています(最判H21.7.3)。

最判H21.7.3収益執行管理人の権限の範囲について判示した判例

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甲は、自己が有する建物について、平成9年11月Yに賃借しました。甲Y間の賃貸借契約は、敷金以外に、保証金の約定があり、保証金は10年経過後甲がYに分割弁済するという内容でした。甲は、平成10年2月、当該建物に債権者乙のために抵当権を設定しました。その後、甲は平成18年に滞納処分を受けたため、Yに対する保証金返還債務及び乙に対する債務につき期限の利益を失ったため、乙が、抵当権に基づく担保不動産収益執行開始の申立てを行い、Xが管理人に選任されました。Yが、甲に対して賃料の一部につき保証金との相殺の意思表示をして、Xに支払わなかったため、XがYに対して、未払賃料の支払を求めて提訴したところ、第1審はXの請求を棄却しましたが、控訴審がXの請求を認めたため、Yが上告しました。
本判決は、まず相殺の意思表示の相手方について「担保不動産収益執行は、担保不動産から生ずる賃料等の収益を被担保債権の優先弁済に充てることを目的として設けられた不動産担保権の実行手続の一つであり、執行裁判所が、担保不動産収益執行の開始決定により担保不動産を差し押さえて所有者から管理収益権を奪い、これを執行裁判所の選任した管理人にゆだねることをその内容としている(民事執行法188条、93条1項、95条1項)。管理人が担保不動産の管理収益権を取得するため、担保不動産の収益に係る給付の目的物は、所有者ではなく管理人が受領権限を有することになり、本件のように担保不動産の所有者が賃貸借契約を締結していた場合は、賃借人は、所有者ではなく管理人に対して賃料を支払う義務を負うことになるが(同法188条、93条1項)、このような規律がされたのは、担保不動産から生ずる収益を確実に被担保債権の優先弁済に充てるためであり、管理人に担保不動産の処分権限まで与えるものではない(同法188条、95条2項)。このような担保不動産収益執行の趣旨及び管理人の権限にかんがみると、管理人が取得するのは、賃料債権等の担保不動産の収益に係る給付を求める権利(以下「賃料債権等」という。)自体ではなく、その権利を行使する権限にとどまり、賃料債権等は、担保不動産収益執行の開始決定が効力を生じた後も、所有者に帰属しているものと解するのが相当であり、このことは、担保不動産収益執行の開始決定が効力を生じた後に弁済期の到来する賃料債権等についても変わるところはない。そうすると、担保不動産収益執行の開始決定の効力が生じた後も、担保不動産の所有者は賃料債権等を受働債権とする相殺の意思表示を受領する資格を失うものではないというべきであるから(最高裁昭和37年(オ)第743号同40年7月20日第三小法廷判決・裁判集民事79号893頁参照)、本件において、本件建物の共有持分権者であり賃貸人である甲は、本件開始決定の効力が生じた後も、本件賃料債権の債権者として本件相殺の意思表示を受領する資格を有していたというべきである。」として賃貸人甲に対する相殺は有効とした
 さらに、抵当権設定登記前に取得した賃貸人に対する債権を自働債権として賃料債権を受働債権として相殺をもって管理人に対抗することができるかという点は、「被担保債権について不履行があったときは抵当権の効力は担保不動産の収益に及ぶが、そのことは抵当権設定登記によって公示されていると解される。そうすると、賃借人が抵当権設定登記の前に取得した賃貸人に対する債権については、賃料債権と相殺することに対する賃借人の期待が抵当権の効力に優先して保護されるべきであるから(最高裁平成11年(受)第1345号同13年3月13日第三小法廷判決・民集55巻2号363頁参照)、担保不動産の賃借人は、抵当権に基づく担保不動産収益執行の開始決定の効力が生じた後においても、抵当権設定登記の前に取得した賃貸人に対する債権を自働債権とし、賃料債権を受働債権とする相殺をもって管理人に対抗することができるというべきである。」として、破棄自判してXの請求を棄却した。

3 物上代位(民法372条、304条)

⑴ 物上代位の対象

条文上は「目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物」とされています(民法372条、304条)。
具体的には、裁判例で、賃料最判H1.10.27)、補償金東京地判H13.4.27)などに対する物上代位が認められています。

裁判例物上代位の対象及び結論     結論/説示内容
最判H1.10.27賃料対象となります
「目的不動産の賃借人が供託した賃料の還付請求権についても抵当権を行使することができるものと解するのが相当である」
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抵当権の目的不動産が賃貸された場合においては、抵当権者は、民法三七二条、三〇四条の規定の趣旨に従い、目的不動産の賃借人が供託した賃料の還付請求権についても抵当権を行使することができるものと解するのが相当である。けだし、民法三七二条によって先取特権に関する同法三〇四条の規定が抵当権にも準用されているところ、抵当権は、目的物に対する占有を抵当権設定者の下にとどめ、設定者が目的物を自ら使用し又は第三者に使用させることを許す性質の担保権であるが、抵当権のこのような性質は先取特権と異なるものではないし、抵当権設定者が目的物を第三者に使用させることによって対価を取得した場合に、右対価について抵当権を行使することができるものと解したとしても、抵当権設定者の目的物に対する使用を妨げることにはならないから、前記規定に反してまで目的物の賃料について抵当権を行使することができないと解すべき理由はなく、また賃料が供託された場合には、賃料債権に準ずるものとして供託金還付請求権について抵当権を行使することができるものというべきだからである。そして、目的不動産について抵当権を実行しうる場合であっても、物上代位の目的となる金銭その他の物について抵当権を行使することができることは、当裁判所の判例の趣旨とするところであり(最高裁判所昭和42年(オ)第342号同45年7月16日第一小法廷判決・民集24巻7号965頁参照)、目的不動産に対して抵当権が実行されている場合でも、右実行の結果抵当権が消滅するまでは、賃料債権ないしこれに代わる供託金還付請求権に対しても抵当権を行使することができるものというべきである。
最決H12.4.14転貸賃料 原則として対象となりません
「民法372条によって抵当権に準用される同法304条1項に規定する『債務者』には、原則として、抵当不動産の賃借人(転貸人)は含まれないものと解すべきである。」
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建物に根抵当権の設定を受けたXが、物上代位権の行使として、当該建物を賃借してこれを他に転貸しているYの転借人に対する転貸賃料債権につき差押命令を得たため、Yが、当該差押命令に対して執行抗告をしましたが、抗告棄却されたため、許可抗告をしました。
本決定は、「民法372条によって抵当権に準用される同法304条1項に規定する『債務者』には、原則として、抵当不動産の賃借人(転貸人)は含まれないものと解すべきである。けだし、所有者は被担保債権の履行について抵当不動産をもって物的責任を負担するものであるのに対し、抵当不動産の賃借人は、このような責任を負担するものではなく、自己に属する債権を被担保債権の弁済に供されるべき立場にはないからである。同項の文言に照らしても、これを『債務者』に含めることはできない。また、転貸賃料債権を物上代位の目的とすることができるとすると、正常な取引により成立した抵当不動産の転貸借関係における賃借人(転貸人)の利益を不当に害することにもなる。もっとも、所有者の取得すべき賃料を減少させ、又は抵当権の行使を妨げるために、法人格を濫用し、又は賃貸借を仮装した上で、転貸借関係を作出したものであるなど、抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合には、その賃借人が取得すべき転貸賃料債権に対して抵当権に基づく物上代位権を行使することを許すべきものである。」として原決定を破棄差し戻しました。
東京地判H13.4.27土地収用法に基づく補償金 原則として対象となります。
「抵当権の目的物である土地の収用に対する補償金(法71条)、同土地の使用に対する補償金(法72条)、残地に対する補償金(法74条)、抵当権の目的物である地上物件の収用に対する補償金(法80条)に物上代位が及ぶことは異論のないところと解することができる」
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Xが所有していた土地の一部が土地収用法に基づき、国に収用されました。その結果、一団の土地は、南北二区画に分断されることになったため、国は、Xに対し、収用されなかった土地に対する残地補償を支払う旨決定しました。Yは、残地の抵当権者ですが、当該残地補償金債権に対し、抵当権に基づき物上代位として債権差押命令を得ました。一方、当該補償金債権に対しては、Yの差押命令のほかにも差押命令等があり競合状態が生じたところ、裁判所は、補償金債権にYの抵当権に基づく物上代位が及ぶ前提の配当表を作成したためXが配当異議の訴えを提起しました。
本判決は「抵当権が設定されている土地が土地収用法(以下『法』という)に基づき収用された場合に、どの範囲の補償に抵当権に基づく物上代位が及ぶかが問題となる。この点については、抵当権が目的物の交換価値を把握し、これを優先的に自己の弁済に充てることのできる担保物権であることを考慮すると、少なくとも、抵当権の目的物である土地の収用に対する補償金(法71条)、同土地の使用に対する補償金(法72条)、残地に対する補償金(法74条)、抵当権の目的物である地上物件の収用に対する補償金(法80条)に物上代位が及ぶことは異論のないところと解することができる(同旨 大判大四・六・三〇民録二一・一一五七)。・・・以上によれば、本件補償金債権の実質は、法七四条に基づく残地補償金であり、その残地補償の算定額が上記用地費相当額であるということにすぎないと解するのが相当である。そうだとすると、前記1の基準に照らし、本件補償金債権には、本件抵当権に基づく物上代位が及ぶということになる。」とした。

⑵ 物上代位の要件

抵当権者は、物上代位を行う場合、「その払渡し又は引渡しの前に」差し押えることが必要とされています(民法372条、304条)。

⑶ 賃料に対する物上代位と、賃料債権譲渡/賃料債権差押えの優劣について

賃料に対する物上代位に関連しては、賃料債権譲渡賃料に対する物上代位のいずれが優先するか、賃料債権差押え賃料に対する物上代位についていずれが優先するかなど、以下のように裁例が多数あります。

最判H10.1.30 物上代位の目的となる賃料債権が譲渡され対抗要件が備えられた後でも、目的債権を差押えて物上代位権を行使することができます

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Xは、甲社に対する貸付金の担保として、乙社の建物に抵当権を設定したところ、甲社が倒産しました。乙社は当該建物全部をYに賃貸してYからテナントに転貸する形をとることとし、その旨の賃借権設定登記を経由しました。乙社は債権者丙に対して債権の代物弁済として乙社のYに対する賃料債権を譲渡し、Yはこれを承諾しました。かかる状況で、Xが物上代位権に基づき、乙社のYに対する賃料債権を差し押さえたうえで、支払を求めて提訴したところ、第1審はXの請求を一部認めたが控訴審は請求を棄却したため、Xが上告しました。
本判決は「民法372条において準用する304条1項ただし書が抵当権者が物上代位権を行使するには払渡し又は引渡しの前に差押えをすることを要するとした趣旨目的は、主として、抵当権の効力が物上代位の目的となる債権にも及ぶことから、右債権の債務者(以下『第三債務者』という。)は、右債権の債権者である抵当不動産の所有者(以下『抵当権設定者』という。)に弁済をしても弁済による目的債権の消滅の効果を抵当権者に対抗できないという不安定な地位に置かれる可能性があるため、差押えを物上代位権行使の要件とし、第三債務者は、差押命令の送達を受ける前には抵当権設定者に弁済をすれば足り、右弁済による目的債権消滅の効果を抵当権者にも対抗することができることにして、二重弁済を強いられる危険から第三債務者を保護するという点にあると解される。右のような民法304条1項の趣旨目的に照らすと、同項の『払渡又ハ引渡』には債権譲渡は含まれず、抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができるものと解するのが相当である。けだし、(一)民法304条1項の『払渡又ハ引渡』という言葉は当然には債権譲渡を含むものとは解されないし、物上代位の目的債権が譲渡されたことから必然的に抵当権の効力が右目的債権に及ばなくなるものと解すべき理由もないところ、(二)物上代位の目的債権が譲渡された後に抵当権者が物上代位権に基づき目的債権の差押えをした場合において、第三債務者は、差押命令の送達を受ける前に債権譲受人に弁済した債権についてはその消滅を抵当権者に対抗することができ、弁済をしていない債権についてはこれを供託すれば免責されるのであるから、抵当権者に目的債権の譲渡後における物上代位権の行使を認めても第三債務者の利益が害されることとはならず、(三)抵当権の効力が物上代位の目的債権についても及ぶことは抵当権設定登記により公示されているとみることができ、(四)対抗要件を備えた債権譲渡が物上代位に優先するものと解するならば、抵当権設定者は、抵当権者からの差押えの前に債権譲渡をすることによって容易に物上代位権の行使を免れることができるが、このことは抵当権者の利益を不当に害するものというべきだからである。そして、以上の理は、物上代位による差押えの時点において債権譲渡に係る目的債権の弁済期が到来しているかどうかにかかわりなく、当てはまるものというべきである。」として、Xの請求を概ね認めました。

最判H14.3.12 抵当権の物上代位と、当該債権に対する転付命令は、転付命令の第三債務者への送達が抵当権者による差押え前であれば、転付命令の効力が優先します

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債権者Xは、債務者甲の乙に対する有する債権に差押命令及び転付命令を得たところ、Yらが同一の債権について抵当権による物上代位に基づき差し押さえました。そこで、乙が供託したところ、執行裁判所がXよりYらを優先する配当表を作成したため、Xが、Xを優先する配当表に変更するよう求めた配当異議訴訟を提起しました。第1審、控訴審ともXの請求を棄却したため、Xが上告しました。
本判決は「転付命令に係る金銭債権(以下『被転付債権』という。)が抵当権の物上代位の目的となり得る場合においても、転付命令が第三債務者に送達される時までに抵当権者が被転付債権の差押えをしなかったときは、転付命令の効力を妨げることはできず、差押命令及び転付命令が確定したときには、転付命令が第三債務者に送達された時に被転付債権は差押債権者の債権及び執行費用の弁済に充当されたものとみなされ、抵当権者が被転付債権について抵当権の効力を主張することはできないものと解すべきである。けだし、転付命令は、金銭債権の実現のために差し押さえられた債権を換価するための一方法として、被転付債権を差押債権者に移転させるという法形式を採用したものであって、転付命令が第三債務者に送達された時に他の債権者が民事執行法159条3項に規定する差押等をしていないことを条件として、差押債権者に独占的満足を与えるものであり(民事執行法159条3項、160条)、他方、抵当権者が物上代位により被転付債権に対し抵当権の効力を及ぼすためには、自ら被転付債権を差し押さえることを要し(最高裁平成13年(受)第91号同年10月25日第一小法廷判決・民集55巻6号975頁)、この差押えは債権執行における差押えと同様の規律に服すべきものであり(同法193条1項後段、2項、194条)、同法159条3項に規定する差押えに物上代位による差押えが含まれることは文理上明らかであることに照らせば、抵当権の物上代位としての差押えについて強制執行における差押えと異なる取扱いをすべき理由はなく、これを反対に解するときは、転付命令を規定した趣旨に反することになるからである。」として、原審を破棄しほぼXの主張を認めました。

最判H10.3.26 一般債権の差押えと,抵当権に基づく物上代位の優劣は,差押命令の第三者への送達と抵当権登記の先後で決まる

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Xは、甲所有の建物に対し根抵当権を有し、当該根抵当権に基づく物上代位権の行使により甲の乙に対する賃料債権を差し押さえましたが、Yも、執行認諾付公正証書に基づき同債権を差し押さえていました(Yの差押命令が乙に送達されたのは、Xが抵当権設定登記をしたよりも、わずかに先行していました)。執行裁判所は、乙が供託した供託金から手続費用を控除した残金をX・Yの各届出債権額に按分して配当を実施したため、Xは、Yに優先して弁済を受けることができる旨主張して、Yが受領した配当金の不当利得返還請求を求めたところ、第1審はXの請求を認めましたが、控訴審はXの請求を棄却したため、Xが上告しました。
本判決は「一般債権者による債権の差押えの処分禁止効は差押命令の第三債務者への送達によって生ずるものであり、他方、抵当権者が抵当権を第三者に対抗するには抵当権設定登記を経由することが必要であるから、債権について一般債権者の差押えと抵当権者の物上代位権に基づく差押えが競合した場合には、両者の優劣は一般債権者の申立てによる差押命令の第三債務者への送達と抵当権設定登記の先後によって決せられ、右の差押命令の第三債務者への送達が抵当権者の抵当権設定登記より先であれば、抵当権者は配当を受けることができないと解すべきである。」として上告を棄却しました。

⑷ 賃料に対する物上代位と、賃借人の相殺等の主張の可否

賃料に対する物上代位に対し、賃借人が相殺等の主張をすることができるか否かにつき、以下のような判例があります。

最判H13.3.13 抵当権者が物上代位権により賃料債権の差押えをした後は、抵当不動産の賃借人は、抵当権設定登記後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺を、抵当権者に対抗することはできない。[su_accordion]

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Xは、甲に対する貸金債権について、甲所有の建物に根抵当権を有していたところ、甲はYに当該建物の一階部分を賃借していました。Xが根抵当権の物上代位権に基づき、甲がYに対して有する将来の賃料債権について債権差押命令の申立てをしたうえで、XはYに対し当該債権差押命令による取立権に基づき、Yに賃料の支払を求めたところ、Yが甲に対して有する債権と甲がYに対して有する賃料債権を対当額で相殺する旨の合意があるとして争いました。第1審、控訴審ともXの請求を認めたためYが上告しました。
本判決は「抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした後は、抵当不動産の賃借人は、抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって、抵当権者に対抗することはできないと解するのが相当である。けだし、物上代位権の行使としての差押えのされる前においては、賃借人のする相殺は何ら制限されるものではないが、上記の差押えがされた後においては、抵当権の効力が物上代位の目的となった賃料債権にも及ぶところ、物上代位により抵当権の効力が賃料債権に及ぶことは抵当権設定登記により公示されているとみることができるから、抵当権設定登記の後に取得した賃貸人に対する債権と物上代位の目的となった賃料債権とを相殺することに対する賃借人の期待を物上代位権の行使により賃料債権に及んでいる抵当権の効力に優先させる理由はないというべきであるからである。そして、上記に説示したところによれば、抵当不動産の賃借人が賃貸人に対して有する債権と賃料債権とを対当額で相殺する旨を上記両名があらかじめ合意していた場合においても、賃借人が上記の賃貸人に対する債権を抵当権設定登記の後に取得したものであるときは、物上代位権の行使としての差押えがされた後に発生する賃料債権については、物上代位をした抵当権者に対して相殺合意の効力を対抗することができないと解するのが相当である。」として上告を棄却しました。
[/su_accordion]

最判H14.3.28 抵当権者が賃料に差押えした後でも、賃貸借契約が終了し、目的物が明け渡されたときは、賃料債権は、敷金の充当によりその限度で消滅する。

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Xが甲に対する債権を担保するため甲所有の建物につき設定した根抵当権に基づき、甲から当該建物を賃借の上Yに転貸している乙がYに対して有する賃料債権につき、物上代位による差押命令を得たうえで、Yに対して支払を求めて提訴しました。これに対し、Yは、乙との賃貸借契約において乙に預けている保証金の返還請求権を自働債権とする相殺ないし相殺予約の合意により賃料支払義務はないと主張して争いました。第1審はXの請求を認めましたが、控訴審はXの請求を棄却したため、Xが上告しました。
本判決は「賃貸借契約における敷金契約は、授受された敷金をもって、賃料債権、賃貸借終了後の目的物の明渡しまでに生ずる賃料相当の損害金債権、その他賃貸借契約により賃貸人が賃借人に対して取得することとなるべき一切の債権を担保することを目的とする賃貸借契約に付随する契約であり、敷金を交付した者の有する敷金返還請求権は、目的物の返還時において、上記の被担保債権を控除し、なお残額があることを条件として、残額につき発生することになる(最高裁昭和46年(オ)第357号同48年2月2日第二小法廷判決・民集27巻1号80頁参照)。これを賃料債権等の面からみれば、目的物の返還時に残存する賃料債権等は敷金が存在する限度において敷金の充当により当然に消滅することになる。このような敷金の充当による未払賃料等の消滅は、敷金契約から発生する効果であって、相殺のように当事者の意思表示を必要とするものではないから、民法511条によって上記当然消滅の効果が妨げられないことは明らかである。また、抵当権者は、物上代位権を行使して賃料債権を差し押さえる前は、原則として抵当不動産の用益関係に介入できないのであるから、抵当不動産の所有者等は、賃貸借契約に付随する契約として敷金契約を締結するか否かを自由に決定することができる。したがって、敷金契約が締結された場合は、賃料債権は敷金の充当を予定した債権になり、このことを抵当権者に主張することができるというべきである。以上によれば、敷金が授受された賃貸借契約に係る賃料債権につき抵当権者が物上代位権を行使してこれを差し押さえた場合においても、当該賃貸借契約が終了し、目的物が明け渡されたときは、賃料債権は、敷金の充当によりその限度で消滅するというべきであ」るとして上告を棄却した。

最判R5.11.27 抵当不動産の賃借人は、抵当権設定登記後に賃貸人との間で賃貸人に対する債権と賃料債務を相殺する合意をしたとしても、抵当権者が物上代位権により賃料債権の差押えをした後、当該合意を抵当権者に対抗することはできない。

裁判例を確認する
「抵当不動産の賃借人は、抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをする前においては、原則として、賃貸人に対する債権を自働債権とし、賃料債権を受働債権とする相殺をもって抵当権者に対抗することができる。もっとも、物上代位により抵当権の効力が賃料債権に及ぶことは抵当権設定登記によって公示されているとみることができることからすれば、物上代位権の行使として賃料債権の差押えがされた後においては、抵当権設定登記の後に取得した賃貸人に対する債権(以下「登記後取得債権」という。)を上記差押えがされた後の期間に対応する賃料債権(以下「将来賃料債権」という。)と相殺することに対する賃借人の期待が抵当権の効力に優先して保護されるべきであるということはできず、賃借人は、登記後取得債権を自働債権とし、将来賃料債権を受働債権とする相殺をもって、抵当権者に対抗することはできないというべきである。このことは、賃借人が、賃貸人との間で、賃借人が登記後取得債権と将来賃料債権とを相殺適状になる都度対当額で相殺する旨をあらかじめ合意していた場合についても、同様である(以上につき、最高裁平成11年(受)第1345号同13年3月13日第三小法廷判決・民集55巻2号363頁参照)。そして、賃借人が、上記差押えがされる前に、賃貸人との間で、登記後取得債権と将来賃料債権とを直ちに対当額で相殺する旨の合意をした場合であっても、物上代位により抵当権の効力が将来賃料債権に及ぶことが抵当権設定登記によって公示されており、これを登記後取得債権と相殺することに対する賃借人の期待を抵当権の効力に優先させて保護すべきといえないことは、上記にみたところと異なるものではない。そうすると、上記合意は、将来賃料債権について対象債権として相殺することができる状態を作出した上でこれを上記差押え前に相殺することとしたものにすぎないというべきであって、その効力を抵当権の効力に優先させることは、抵当権者の利益を不当に害するものであり、相当でないというべきである。したがって、抵当不動産の賃借人は、抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権を差し押さえる前に、賃貸人との間で、登記後取得債権と将来賃料債権とを直ちに対当額で相殺する旨の合意をしたとしても、当該合意の効力を抵当権者に対抗することはできないと解するのが相当である。」

4 抵当権の及ぶ範囲(民法370条、371条)

⑴ まとめ

抵当権の及ぶ範囲を整理すると概要以下のとおりです。

付加一体物・原則として及びます(民法370条本文)。
・ただし、当事者の特約がある場合や、詐害行為取消の対象になる場合には及びません(民法370条但書)。
従物・抵当権の効力は及びます(最判44.3.28)。
・なお、抵当権設定登記後の従物にも及ぶ と解されます(東京高判53.12.26

⑵ 付加一体物(民法370条)に関する裁判例

付加一体物(民法370条)に関する裁判例としては、以下のものがあります。

東京地判S46.8.12 旅館建物及び敷地に対する抵当権の効力が、温泉利用権及び、旅館施設内のプール・岩風呂等に及ぶとしました。

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プールや岩風呂等について
「・・・本件プールは土地から取外すことは困難といわざるを得ず、本館に接着して設けられ本館内の脱衣場と相まつてはじめて十全な利用が可能となり、また宿泊、遊興等を目的とする旅館施設内における役割もきわめて重要であつて(抵当権設定準消費貸借約定書に附属設備の一として特にプールを掲記したのもこの間の事情を物語るものといえよう。)、本件プールを含めた諸施設が有機的に一体となつて一大旅館を形造つているものと評価すべきものであり、反面本件プールは旅館と切離して独立のものとして利用することも不可能ではないにしても、旅館施設の一環として使用する場合に比してその経済的効用に大差が生ずることは明らかであるから、旅館建物の構成部分ないしは従物というのが相当である。・・・本件岩風呂は、自然のままの岩窟に若干の工作物を附加したものにすぎず、またその浴槽等の諸施設は土地への密着性からして取外しはきわめて困難というべく、・・・土地の構成部分と解するのが相当である。・・・以上のとおり右各物件はすべて競落物件である土地あるいは建物に附加してこれと一体をなしたものと解すべきである。」
温泉権について
「抵当権の設定された土地内の源泉から湧出した湯が、第三者のためではなく、同時に抵当権が設定された旅館建物内の浴場および抵当権の効力の及ぶプールのために専ら使用され、しかも右土地の所有者は旅館建物を所有する株式会社の代表者であつて両者間に密接な関係があり、源泉地盤を含む土地と旅館建物および源泉から湧出する湯相互の利用関係の間に高度の一体性が存する場合というべく、競売手続進行中も右のような状態に変化はなく、その後同一人が右地盤所有権および旅館建物の双方とも競落したものであり、以上の事実に加え、右土地、建物に対する抵当権設定時にすでに温泉の掘削工事が進行中であつて、将来抵当土地から湯が湧出するものと予想されていたこと、本件源泉については旅館施設内の他の三箇所の源泉と異り鉱泉地として分筆登記する手続がとられていないこと等の事情を勘案すると(なお、当事者間において抵当権設定の際、温泉利用権能について別段の定めがあつたことを認めるに足りる証拠はない。)、・・・温泉利用権能が地盤所有権と別個独立のものとして抵当権の効力の及ぶ範囲外従つて競落の対象外のものであるとは到底考えられないのであつて、地盤所有権の内容に当然含まれるものあるいは少くとも旅館建物に従たる権利として、これら物件の競落人であるYが温泉利用権能をも取得すると解するのが相当である

仙台高決S39.2.12 ガソリンスタンドの地下油槽やコンクリートブロック塀が付加一体物であるとしました。

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「民法第370条にいう『附加して之と一体をなしたる物』とは必ずしも物理的に附加一体をなしたるものたるに止まらず、経済的に不動産と一体をなしてその効用を助けるものをも含み、その一体となつた時期如何を問わないと解するのが相当であるから、右地下油槽は前記ガソリン給油施設として有機的に結合している右宅地建物の附加一体物と解することができ、従つて右コンクリートブロツク塀及び右地下油槽の各物件は共に本件抵当権の効力が及ぶものとして本件競売の目的物件となつているものといわなければならない。」

東京地判S55.1.28 高層ビルの冷暖器、空調器、エレベーターリレーなどが、ビルの附合物であるとしました。

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「本件ビルが地上11階建、床面積の合計1922平方メートルに及ぶ事務所、店舗、駐車場の高層建築物であることは弁論の全趣旨により明らかであるところ、このような本件ビルにおいては、冷暖房の空調設備、エレベーター、変電設備が必要不可欠のものであることは経験則上容易に肯定しうるところである。そうして、右各設備を本件ビルから取り外すときは、本件ビルの経済的価値を著しく毀損させることになるものであり、他方右各設備自体は本件ビルの構造及び形状等に応じ具体的な設計により設備されたものであることからすると、右各設備を本件ビルから分離するときは、その社会経済的価値が著しく損われるものであることも明らかである。したがつて、本件ビルの冷暖房の空調設備である本件冷暖器及び空調器並びにエレベーター設備の構成部分の一機器である本件エレベーターリレー及びスーパーライン並びに変電設備である本件キユービクルは、いずれも本件ビルに従として附合した物にあたると解するのが相当である。」

札幌地判H13.7.27 ガスボンベ格納庫のほか、ガス配管設備、自動切替調整器、ガスメーター器などが、マンション建物の付加一体物であるとしました。

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「抵当権の効力は、特約のない限り、『目的たる不動産に附加して之と一体を成したる物』に及ぶ(民法370条)ところ、目的物の占有を設定者に留めてその使用・収益を許しつつ、抵当権者においてその経済的価値を把握するという抵当権の性格に照らし、上記附加一体物とは、抵当不動産に附属して抵当不動産と物理的に一体をなすものはもとより、社会的経済的に一体をなしているものをも含むと解すべきである。そして、本件マンションのガス配管設備一式のうち、壁や天井の中に設置されていて破壊しなければ取り外すことができず、本件マンションに附合していると認められる部分はもちろんのこと、ガス配管設備一式のうち外部に露出している部分、自動切替調整器、ガスメーター器、CO警報器、ガス漏れ警報器及びガスストーブについても、本件マンションに附属して設置され、その経済的効用を高めるものであると認められるから、上記根抵当権の設定に当たり、根抵当権者である甲と根抵当権設定者である乙との間で、根抵当権の効力の及ぶ目的物の範囲を限定する旨の特約等があり、かつ、その特約等をもって第三者に対抗することができる場合でない限り、原告は、これらの設備の所有権をもって第三者に対抗することができないと解するのが相当である。」

⑶ 従物に関する裁判例

従物に関する裁判例としては、以下のものがあります。

最判S44.3.28 従物に対して抵当権の効力が及ぶこと、その対抗要件は抵当権登記によることを明らかにした判例

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「本件石灯籠および取り外しのできる庭石等は本件根抵当権の目的たる宅地の従物であり、本件植木および取り外しの困難な庭石等は右宅地の構成部分であるが、右従物は本件根抵当権設定当時右宅地の常用のためこれに付属せしめられていたものであることは、原判決の適法に認定、判断したところである。そして、本件宅地の根抵当権の効力は、右構成部分に及ぶことはもちろん、右従物にも及び(大判大正8年3月15日、民緑25輯473頁参照)、この場合右根抵当権は本件宅地に対する根抵当権設定登記をもつて、その構成部分たる右物件についてはもちろん、抵当権の効力から除外する等特段の事情のないかぎり、民法370条により従物たる右物件についても対抗力を有するものと解するのが相当である。

東京高判S53.12.26 抵当権設定契約後に備付された従物にも抵当権の効力が及ぶとした裁判例

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「抵当権設定契約後競売開始決定前に備付された従物に主物に対する抵当権の効力が及ぶか否かの点について、仮りに及ばないと解したとしても、競落による主物の所有権移転については、従物も運命をともにすると解せざるを得ない。もしそのように解するとすれば、抵当物件たる主物の所有者は、競売開始決定後すみやかに従物の撤去をはかるおそれがあり、それが不当に抵当物件の価値をそこなうものでないとしても、本件のように抵当権設定契約の前後に亘つて従物が備付され、かつ個々の従物についてその先後が明らかでない場合には、所有者の右の行為によつて無用の混乱が惹き起されることが危惧される。むしろ、競売開始決定に伴う差押を主物に対する処分と見ることにより、差押の効力が従物に及ぶとみる方が合理的であり(主物従物の関係は通常客観的なものであり、最低競売価格の決定、競買人による申出価格の決定にさいして、従物の価値が織り込まれるであろうことは期待されてよい。)、さらにすゝんで原審の判断のように抵当権設定契約後主物所有者が従物を備付した場合抵当権の効力はこれに及び、爾後所有者も右従物を主物と切り離して恣に処分することができないと解すべきであろう。

最判H2.4.19 抵当権の効力の及ぶ従物の範囲に関する事例判例(ガソリンスタンド)

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「原審の適法に確定したところによれば、(1)本件建物(第一審判決添付第一物件目録(一)記載の店舗)は当初からガソリンスタンド店舗として設計、建築されているところ、・・・本件諸設備はすべて右賃借地上又は地下に近接して設置されて本件建物内の設備と一部管によって連通し、本件建物を店舗とし、これに本件諸設備が付属してガソリンスタンドとして使用され、経済的に一体をなしている、・・・本件建物につき同52年1月22日受付をもって本件根抵当権を設定していたが、債権者の申立により本件建物が競売に付され、被上告人が同56年3月2日これを競落し、その代金を支払って所有権を取得した、というのであり、右事実関係の下においては、地下タンク、ノンスペース型計量機、洗車機などの本件諸設備は本件根抵当権設定当時借地上の本件建物の従物であり、本件建物を競落した被上告人は、同時に本件諸設備の所有権をも取得したとする原審の判断は、正当として是認することができ」る

⑷ 建物の抵当権の及ぶ範囲

なお、土地と建物はそれぞれ別の不動産と扱われていますので、土地の抵当権が建物に及ぶことはありませんし、建物の抵当権が土地に及ぶこともありません。しかしながら、建物の抵当権の効力は、土地の賃借権にも及びます(最判S40.5.4)。もっとも、借地権譲渡は地主の承諾が必要ですので(民法612条、借地借家20条参照)、抵当権実行時に借地の承諾が必要となります。抵当権設定時に、借地の事前承諾を取ることもあります(参考裁判例:最判S22.9.9)。

最判S22.9.9 建物に根抵当権の設定を受けていた銀行Xが、借地権消滅の恐れがある場合には通知する旨の念書を差し入れてもらっていた場合、当該通知をしなかった地主に賠償責任が発生するとした裁判例

⑸ 工場抵当法による抵当権の及ぶ範囲の拡張(補足)

工場抵当法は、工場として工場の所有者が工場に属する土地又は建物に設定した抵当権については、抵当権の効力の及ぶ範囲が、上記で述べた、抵当権の及ぶ範囲が、工場の場合には、民法370条で定める範囲よりも広くなります。

工場の定義(1条)営業ノ為物品ノ製造若ハ加工又ハ印刷若ハ撮影ノ目的ニ使用スル場所
抵当権の及ぶ範囲(2条1項)工場ノ所有者カ工場ニ属スル土地ノ上ニ設定シタル抵当権ハ建物ヲ除クノ外其ノ土地ニ附加シテ之ト一体ヲ成シタル物及其ノ土地ニ備附ケタル機械、器具其ノ他工場ノ用ニ供スル物ニ及フ
登記の範囲(3条1項)工場ノ所有者カ工場ニ属スル土地又ハ建物ニ付抵当権ヲ設定スル場合ニ於テハ・・・其ノ土地又ハ建物ニ備付ケタル機械、器具其ノ他工場ノ用ニ供スル物ニシテ前条ノ規定ニ依リ抵当権ノ目的タルモノヲ抵当権ノ登記ノ登記事項トス

工場低当法によれば。工場として使用する土地・建物に対する抵当権について、抵当権の及ぶ範囲を、以下のとおり定めています。なお、工場抵当法に基づく抵当権の効力を第三者に対抗するためには、同法3条目録に記載することが必要と解されています(最判H6.7.14)。

最判H6.7.14工場抵当法に基づく抵当権の効力を第三者に対抗するためには、同法3条の目録に記載することが必要とした判例

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Xは甲社所有の建物(工場抵当法の適用がある建物)に順位一番の根抵当権設定登記を経由したが、工場抵当法3条に規定する目録(以下「三条目録」という。)は提出していませんでした。Yは後順位の抵当権者ですが、その抵当権設定登記については3条目録が提出されていました。かかる状態で、当該建物について、競売手続が開始され、執行裁判所は、Yの抵当権については3条目録が提出されていたことから、Yには3条目録記載の物件の売却代金に相当する額をXに優先して配当することとした配当表を作成しました。そこで、Xは、建物について設定したXの根抵当権の効力はYの提出した三条目録記載の物件にも及んでいるとして配当異議訴訟を提起しました。第1審はXの請求を棄却しましたが、控訴審がXの請求を認めたため、Yが上告したところ、本判決は、以下のとおり破棄自判し、Xの請求を認めませんでした。
「工場の所有者が工場に属する土地又は建物の上に設定した抵当権(以下「工場抵当権」という。)は、その土地又は建物に付加してこれと一体を成した物及びその土地又は建物に備え付けた機械、器具その他工場の用に供する物(以下、後者を「供用物件」という。)に及ぶが(法2条参照)、法3条1項は、工場の所有者が右土地又は建物につき抵当権設定の登記を申請する場合には、供用物件につき目録(3条目録)を提出すべき旨を規定し、同条2項の準用する法35条によれば、右目録は登記簿の一部とみなされ、その記載は登記とみなされている。また、法3条2項の準用する法38条は、右目録の記載事項に変更が生じたときは、所有者は遅滞なくその記載の変更の登記を申請すべき旨を規定している。
右各条項の規定するところに照らせば、工場抵当権者が供用物件につき第三者に対してその抵当権の効力を対抗するには、3条目録に右物件が記載されていることを要するもの、言い換えれば、3条目録の記載は第三者に対する対抗要件であると解するのが相当である。
もっとも、土地又は建物に対する抵当権設定の登記による対抗力は、その設定当時右土地又は建物の従物であった物についても生ずるから(最高裁昭和43年(オ)第1250号同44年3月28日第二小法廷判決・民集23巻3号699頁参照)、工場抵当権についても、供用物件のうち抵当権設定当時工場に属する土地又は建物の従物であったものについては3条目録の記載を要しないとする考え方もあり得ないではない。しかしながら、供用物件のうち右土地又は建物の従物に当たるものについて3条目録の記載を要しないとすれば、抵当権設定の当事者ないし第三者は、特定の供用物件が従物に当たるかどうかという実際上困難な判断を強いられ、また、抵当権の実行手続において、執行裁判所もまた同様の判断を余儀なくされることとなる。したがって、法が供用物件について3条目録を提出すべきものとしている趣旨は、供用物件が従物に当たるかどうかを問わず、一律にこれを3条目録に記載すべきものとし、そのことにより、右のような困難な判断を回避し、工場抵当権の実行手続を簡明なものとすることにもあるというべきである。