このページは、所有権留保について説明しています。

所有権留保の、成立要件、対抗要件、実行方法に加えて、留意点について触れています。

1 成立要件

当事者の合意で成立します。典型的には所有権留保売買契約などで成立します。

2 対抗要件

実務上多いものの対抗要件は以下のとおりです。

動産占有。なお占有改定も含まれますが、その認定は慎重に判断されること多いものと考えられます。
    (参考裁判例 東京地判H22.9.8

東京地判H22.9.8(再生):占有改定が否定された事例(東京高判H23.6.7で控訴棄却)。

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XがYに家庭用雑貨を所有権留保特約付で売買しました。Yの民事再生手続開始決定後、XがYに対して当該特約に基づき引渡請求を行いましたが、 本判決は、所有権留保が別除権(=担保権)であること、民事再生において別除権の主張には対抗要件が必要である旨を説示したうえで、「本件基本契約においては、Yが、Xから納品を受けた本件商品を、代金支払の有無に関わらず・・・転売し引き渡すことが予定され、Xもこれを許容していたことや、・・・在庫商品について、Xから仕入れた本件商品が、他の仕入先から仕入れた商品と分別して保管されておらず、他の仕入先から仕入れた商品と判別することができない状況であったこと・・・などからすれば、本件商品の売却に際し、占有改定がされたと認めることはできない。 」として請求を棄却しました。

自動車登録ファイルへの登録です(最判S62.4.24)。なお軽自動車は、動産と同様です。

3 実行方法

一般的には、以下の方法によります。

時系列備考
期限の利益喪失の手続き(契約解除通知など)設定契約の内容によりますが、例えば売買契約の解除と原状回復という建付けになっている場合には、契約の解除通知も行われます。
目的物引渡請求と占有取得債務者が占有移転を拒む場合は,(占有移転の仮処分を事前に行ったうえで)訴訟提起に至ることもあります。
清算義務債権と対象物の評価額との差額の清算を行います

 その他の注意点

⑴ 即時取得の関係

所有権留保を設定していても、担保権設定者が当該担保物を善意無過失の第三者に譲渡した場合、即時取得が成立し(民法192条)、担保権者は当該第三者に担保権を主張できません(参考裁判例 仙台高判R2.8.6)。

仙台高判R2.8.6 所有権留保売買された大型建設機械の即時取得が否定された事例

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A社らに大型建設機械2台を所有権留保付割賦販売をしたXが、A社から当該機械を買い受けたとする建設機械取扱業者Yに対し所有権に基づき当該機械の引渡し等を求めたのに対し、Yは即時取得が成立するとして争いました。本判決は「建設機械は、その価格が高額であって、その売買は所有権留保の割賦販売の方法によることが取引の通例であるため、占有者が当該機械の所有権を確定的に取得していないことが多いが、建設機械は自動車などと異なり、誰もが自由に買受けをしようとするものではなく、これを入手しようとする者は転売目的の販売業者・ブローカー・自己使用目的の建設業者・担保目的の古物商・質商・金融業者などがその主な者である。そして、これらの者は、専門業者として、建設機械の売買は所有権留保の割賦販売方式によるのが通例であることを当然了知しているものといえるから、これらの者が製造業者や指定販売会社以外の者から建設機械を買い受けるにあたっては、当該機械の売主がその所有者であるか否かについて慎重に調査確認をすべき義務を負うことは当然である。・・・Yらが主張する取引経過には不自然かつ不合理な点が多々あり、Aに正当な処分権限があるか極めて疑わしい状況にあったにもかかわらず、Yが十分な調査をした形跡すらないというのは、Yが取引行為により本件各物件の引渡しを受けたものではない疑いすら十分に生ずるものであって、ましてAが本件各物件について権利を有すると本当に信じたとすれば、Yには重大な過失があるというべきであり、Yが本件各物件を即時取得する余地はない。」として、Xの請求を認めました。

なお、建設機械は同様の紛争となることが多く、古物商や建設機器取扱業者の即時取得を否定した裁判例はいくつか存在します(東京地判S61.11.27、東京地判H15.6.25、大阪地判H21.7.16、東京地判H24.12.28、東京地判H29.10.30)。工事業者や金融業者については即時取得を認めた裁判例(東京高判H8.12.11)と認めなかった裁判例(福岡高判S59.3.21、東京地判H10.5.28)に分かれています。

⑵ 担保対象物が不法占拠している場合の責任

担保権者が担保物件の所有者となるため、当該担保物件が不法占有している場合、弁済期が経過した後は、不法占有している事実を知らない場合を除き、担保権者が損害賠償責任を負うとされています(最判H21.3.10

最判H21.3.10所有権留保している担保権者が妨害排除請求権の相手方となり、撤去義務や不法行為責任を負うとされた事例

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信販会社Yは債務者甲との間で、いわゆるオートローン契約を締結し、Yが車両代金を立替払いし、甲はYに立替払い金を分割弁済し、その担保として車両の所有権をYに留保する内容の契約を締結しました。甲は、当該車両の駐車場としてXとの間で駐車場契約を締結し車両を駐車していましたが、賃料不払いが発生したため、Xは駐車場契約を解除しました。ところが、Xが駐車場契約を解除した後も、車両が残っていたため、XはYに対して、車両の撤去及び未払賃料の支払を求めて提訴したところ、第1審、控訴審ともXの請求を棄却したためXが上告しました。
本判決は「動産の購入代金を立替払する者が立替金債務が完済されるまで同債務の担保として当該動産の所有権を留保する場合において、所有権を留保した者(以下、『留保所有権者』といい、留保所有権者の有する所有権を『留保所有権』という。)の有する権原が、期限の利益喪失による残債務全額の弁済期(以下『残債務弁済期』という。)の到来の前後で上記のように異なるときは、留保所有権者は、残債務弁済期が到来するまでは、当該動産が第三者の土地上に存在して第三者の土地所有権の行使を妨害しているとしても、特段の事情がない限り、当該動産の撤去義務や不法行為責任を負うことはないが、残債務弁済期が経過した後は、留保所有権が担保権の性質を有するからといって上記撤去義務や不法行為責任を免れることはないと解するのが相当である。なぜなら、上記のような留保所有権者が有する留保所有権は、原則として、残債務弁済期が到来するまでは、当該動産の交換価値を把握するにとどまるが、残債務弁済期の経過後は、当該動産を占有し、処分することができる権能を有するものと解されるからである。もっとも、残債務弁済期の経過後であっても、留保所有権者は、原則として、当該動産が第三者の土地所有権の行使を妨害している事実を知らなければ不法行為責任を問われることはなく、上記妨害の事実を告げられるなどしてこれを知ったときに不法行為責任を負うと解するのが相当である。」として破棄差し戻した。

⑶ 譲渡担保権との競合

譲渡担保権と競合については所有権留保が優先します(最判S58.3.18最判H30.12.7)。

最判S58.3.18 所有権留保との競合では所有権留保が優先するとした判例(個別動産に関する判断)

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Yは、自己の店舗の賃借権、敷金返還請求権、電話加入権、営業権及び店舗内動産を、所有権留保をつけて甲に売却しました。ところが、甲は、Yに代金を完済していなかつたにもかかわらずXに対し動産を譲渡担保に供する旨を約して、Xから資金を借り受けました。その後甲は、代金の分割払を怠るようになり、Xは、Yに対し甲に残債務があればXが支払うので知らせてほしいと申し入れ回答を得たので、更にXが甲に債務額を確認するまで賃借権等及び動産の処分を猶予するよう要請したところ、Yはこれに応じるかのような態度を示しましたが、Yは、Xになんら通知することなく乙に対し、賃借権等及び本件動産を売渡し現実の引渡しを了しました。そこで、XがYに対して損害賠償を請求して提訴しました。
本判決は「YとX間の法律関係をみると、Yは買主である甲が代金の分割払を怠つたため本件売買契約の目的である賃借権等及び本件動産を何時でも他に処分することができる権利を有していたのに対し、XはYが右の処分をする前に残代金を提供しなければYに対し本件動産についての譲渡担保権を主張できない立場にあつたことが明らかであるが、更に原審の認定するところによると、XがYに右の処分を暫く猶予するよう要請したのに対し、Yはこれに応じるかのような態度を示したものの、猶予する旨を約束するまでには至らなかつたというのであるから、YとX間の前記の法律関係にはなんらの変更も生じなかつたものといわなければならない。したがつて、Yがその処分をしても、XがYの右の態度に信頼した結果支出した費用につきこれを損害として賠償すべきであるか否かの問題が生じることはあつても、もともとYに対して主張できない譲渡担保権についてその侵害があつたものということはできないから、XはYに対し譲渡担保権の喪失を損害としてその賠償を請求することはできないものといわなければならない。」として、Xの請求を棄却しました。

最判H30.12.7 所有権留保との競合では所有権留保が優先するとした判例(流通過程における判断)

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Yと甲は、Yが甲に対して代金支払いまでYに所有権を留保したうえで金属スクラップ等を継続的に売却する旨の契約を締結しました。なお、Yは、甲に対して、売却した金属スクラップ等の転売を包括的に承諾していました。一方で金融機関Xと甲は、甲の在庫を対象物とする譲渡担保契約を締結し、占有改定の方法によってYに引渡し、かつ動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律3条1項に規定する登記とした、甲に貸出をした。その後、甲がYに対する代金を一部未払いの状態で、事業を廃止する旨の通知をしたことから、Yは、留保している所有権に基づき、動産引渡断行の仮処分命令決定を得て、金属スクラップ等を引き揚げ、その頃これを第三者に売却しました。そこで、Xが、Yに対し、金属スクラップ等の引揚げ及び売却がXに対する不法行為に当たるなどとして、損害賠償請求等をしたのが本件になります。
本判決は「本件動産の所有権は、本件条項の定めどおり、その売買代金が完済されるまでYから甲に移転しないものと解するのが相当である。したがって、本件動産につき、Yは、Xに対して本件譲渡担保権を主張することができない。」と判示しました。なお、「Xは、甲に対して金属スクラップ等の転売を包括的に承諾していたが、これは、Yが甲に本件売買契約の売買代金を支払うための資金を確保させる趣旨であると解され、このことをもって上記金属スクラップ等の所有権が甲に移転したとみることはできない。」と説示しました。