このページは、動産売買先取特権について説明しています。
特別の先取特権はかなりの数ありますが、動産売買先取特権以外はほとんど利用されていません。
1 条文
「動産の売買の先取特権は、動産の代価及びその利息に関し、その動産について存在する。」(民法321条)とされています。
2 被担保債権及び、担保が及ぶ範囲
⑴ 被担保債権
①「売買」によって発生した債権(=売掛金債権)が被担保債権となります。
売買契約を解除した場合、動産売買先取特権は行使できないと解されます(広島高松江支決S61.10.20)
広島高松江支決S61.10.20:売買契約を解除した場合、動産売買先取特権は行使できなくなるとした裁判例
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XからA、AからYと動産が転売されましたが、AがXに代金を支払わなかったために、XはAとの売買契約を解除したうえで、Aに対する損害賠償請求権を被担保債権として、AのYに対する売掛債権を動産売買先取特権の行使として差し押えたところ、却下されました。
Xが抗告したところ、本決定は、「動産の売買において、売主甲が買主乙の代金不払を理由として売買契約を解除したときは、乙に引渡済の動産の所有権は甲に復帰し、かつ甲の代金債権は消滅するから、代金債権の担保として動産の上に存在した民法322条の先取特権は当然に消滅する。この理は、乙が第三取得者丙に動産を売渡した後に甲乙間の売買契約が解除された結果、乙が甲に動産を返還することが不能であるため、甲が乙にその履行に代わる損害賠償を請求する場合であつても同様である。・・・代金債権の担保として動産の上に存在した先取特権は、先に述べたとおり売買契約の解除によつて当然に消滅するのであり、しかも右解除によつて生じた原状回復義務の履行不能による損害賠償請求権は、前記のとおり動産の返還義務の履行に代わる損害賠償請求権であつて、本来の給付である代金請求権とは別個の請求権であるから、賠償すべき損害が代金とその額において相等しい場合でも、後者につき存在した先取特権の効力が前者に及ぶ理はないものといわなければならない。・・・要するに、動産売買の先取特権に関する民法322条の規定は、売買契約が存続する限りにおいて、契約の履行を欲する売主の債権を保護するためにのみ設けられた規定であつて、契約の解除によつて売主が担保権を喪失する不利益の救済は右規定の解釈の及ぶところではないのである。」として抗告を棄却しました。
⑵ 担保が及ぶ範囲
担保は売買の対象となった動産にのみ及びます。
「先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない。」(民法333条)とされていますので、債務者が対象物を売却した場合、当該対象物に対して先取特権の効力は及ばなくなります。
しかしながら、「先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。」(民法304条1項)として物上代位が可能とされていますので、債務者が売却し、売掛金がある場合には、当該売掛金に対して物上代位することが可能です。
⑶ 製造物供給契約を巡る論点
製作物供給契約を債権発生原因とする場合に動産売買先取特権が成立するかにつき、議論をされています。
裁判例としては、成立を否定するものが多いですが(大阪高裁S63.4.7、東京高裁H15.6.19)、成立を肯定した裁判例もあります(東京高裁H12.3.17)。裁判例を検討するに、契約の実質的な内容(売買契約に近いか、請負契約に近いか)によっても判断は分かれる可能性があります。
制作物供給契約における動産売買先取特権の成立を否定した裁判例
大阪高決S63.4.7(破産)
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甲社は乙社から受注し、その一部についてXに対して下請けに出していましたが(甲乙間、甲X間の契約の性質は争われています)、甲がXに代金を支払う前に、甲につき破産手続開始決定がなされ、Yが破産管財人に選任されました。Xは甲社の乙社に対する売掛債権について動産売買先取特権の行使として物上代位をしたところ、第1審で認められたため、Yが抗告をしました。
本決定は「以上の認定事実によれば、昭和61年9月に締結された甲社と乙社との間の・・・有償双務契約はいわゆる製作物供給契約の一種類と見るべきものであり、甲社がXとの間で、同年10月に締結した受注工事の一部分に当たる・・・有償双務契約(製品外注の一形態)もまた同様の契約であると認められること、また、昭和62年5月に締結された甲社と乙社との間の予備部品供給契約(追加契約)、同年6月に締結された甲社とXとの間の同予備部品供給契約(追加契約)も同様であると認めることができる。そうすると、Xが甲社に対して有する合計558万円の金銭債権は動産売買契約の代金債権ではなく、製作物供給契約、すなわち請負と売買の双面をもつ混合契約に基づく代金債権である。本件のような契約形態の製作物供給契約には民法559条により売買契約の規定が準用されることはありうるとしても、その製作販売代金債権を担保するために民法322条を準用することは同条の立法趣旨と沿革並びに文言上許されないと解すべきである。・・・したがつて、Xの本件債権差押え及び転付命令の申立は、Yのその余の抗告理由に触れるまでもなく、全部失当である」として、原審を取り消した。
東京高決H15.6.19裁判例の詳細を見る
「動産売買先取特権は、一般債権者のみならず、一般先取特権者に対しても優先権を有する法定担保物権であり(民法329条2項)、強い効力(破産手続においては別除権)が認められている。このような担保権が認められているのは、動産の売買においては、売主は相手方の信用をあらかじめ確かめ得ない場合が多いことから、この先取特権を与えて売主を保護し、動産売買を容易かつ安全ならしめる趣旨にあると解される。ところが、本件のような製作物供給契約においては、売主は、事前に相手方と種々交渉の上、契約の締結に至るのが通常である。その代金の支払についても、相手方の信用状況を調査し、場合によっては、本件のようにその中間に商社を介在させるなどして、支払の確保手段を講ずることが可能である。そうすると、本件のような製作物供給契約について、その代金を担保するために、民法322条の動産売買先取特権の規定を準用する合理的理由は乏しいというべきである。
もっとも、製作物供給契約は、一般に売買と請負の双方の面を持つ混合契約であると解されるところ、その中には極めて売買契約としての要素が強く、不特定多数の顧客に、相手方の信用状況を確かめ得ないまま契約を締結するような場合も考えられないではない。そのような場合は、動産売買先取特権の準用を認める余地もあり得ると解される。しかし、・・・本件が上記のような場合に当たるとは認め難い。」
制作物供給契約における動産売買先取特権の成立を肯定した裁判例
東京高決H12.3.17(破産):売買的色彩が強い制作物供給契約につき、動産売買先取特権の行使が認められた事例
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甲社は乙社から制作物供給を受注し、そのほとんどについてXに対して下請けに出していたが、甲がXに代金を支払う前に、甲社につき破産手続開始決定がなされ、Yが破産管財人に選任されました。Xは甲社の乙社に対する売掛債権について動産売買先取特権の行使として物上代位(債権差押え)をしたところ、第1審で認められたため、Yが抗告をしました。
本決定は「以上の認定事実によれ・・・本件契約は製作物供給契約とみることができる。・・・本件契約は、製作物供給契約ではあるが、その目的物である本件装置は、ほぼ代替物とみることができ、その製作に要した期間や労力、製品のオリジナル性が少ないことなどからみて、請負的性格よりも売買的色彩が強いものと認められる。そして、動産売買先取特権の立法趣旨が、〈1〉動産売買を容易かつ安全ならしめるために、先取特権を与えて売主を保護すること及び〈2〉動産の売主が売却したからこそ買主である債務者の一般財産を構成するに至ったのであるから、売主に優先権を与えることが公平にかなうと考えられることに照らすと、Xの甲社に対する本件契約に基づく代金債権は動産先取特権の被担保債権になり得るというべきである。
また、Xと甲社の契約が上記のとおりであり、同契約と甲社及び乙社の前記契約の内容並びに契約成立の経緯に照らせば、甲社と乙社の前記契約は、Xと甲社の契約と同様の性質を有する製作物供給契約、あるいは、Xが製作した本件装置にほとんど手を加えることなく乙社に引き渡すという意味からすれば売買契約そのものとみることができるものであるから、甲社の乙社に対する代金債権は、動産先取特権に基づく物上代位の対象となるというべきである。」として抗告を棄却しました。」
3 実行方法
⑴ 実行方法(民事執行法190条)
担保権者は、差押のうえ、動産担保権の実行としての競売が可能です。具体的には,以下の方法があります(民事執行法190条)。
1項1号や2号に基づく実行は困難なことが多いため、実務的には、3号による方法が利用されます。つまり、先取特権者は、担保権の存在を証明する文書(⑵参照)により動産競売の許可決定を受け、許可決定を執行官に提出をする方法が取られます。
民事執行法190条 | 内 容 |
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1項1号 | 先取特権者が対象動産を執行官に提出する方法。 |
1項2号 | 先取特権者が目的物占有者の差押承諾文書を提出する方法。 |
1項3号 | 先取特権者が、執行裁判所に担保権の存在を証明する文書(イ参照)を提出して動産競売の許可決定を受け(民事執行法190条2項)、当該許可決定謄本を執行官に対して提出する方法。 この場合、執行官は債務者の住居その他債務者の占有する場所に立ち入り、その場所において、又は債務者の占有する金庫その他の容器について目的物を捜索し、差し押えることができます(民事執行法192条、123条2項)。 |
⑵ 民事執行法190条1項3号の「担保権の存在を証する文書」
先取特権者が競売許可決定を受けるために必要な、「担保権の存在を証明する文書」(民事執行法190条2項)は具体的には以下のものが該当します。売掛金等に物上代位をする場合にも同様の文書が必要となります(民事執行法193条)。
証明する事実(物上代位の場合を含む) | 担保権の存在を証明する文書の例 |
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売買の事実 | 売買基本契約書,個別売買契約書,注文書,納品書,受領書,請求書など |
転売の事実/目的物の同一性 | 売買契約書,発注書,受注書,請求書,受領書,納品伝票,納品確認書など |
弁済期限の到来 | 売買契約書,破産の事実を示すものなど |
証明の程度は、債務名義に準じる格式性は必要なく、複数の文書を総合して裁判所の自由心証によって、担保権の存在を高度の蓋然性をもって証明できる文書であれば足りると考えられています(東京高決H10.1.23)。なお、弁済期限が到来していなければならないので、売買契約等で期限の利益喪失事由が明記されていない場合、行使要件を満たしているか確認が必要となります(従前の継続的な取引関係から推定されることもあります)。
東京高決H10.1.23:「担保権の存在を証する文書」に必要な証明力の程度について判示した裁判例
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「動産売買の先取特権(物上代位)に基づく差押命令を発するために必要な民事執行法193条1項所定の『担保権を証する書面』とは、文理上、担保権の存在を証明するに足りるものであることが必要とされている上、右書面が提出されることにより、債務者の反論を待つことなく、直ちに執行が開始されるものであり、しかも、同法184条が担保権の不存在等により換価の効果が影響を受けない旨規定している点を考慮すれば、右書面の証明力については、担保権の存在を高度の蓋然性をもって証明することができるものであることが要求されると解するのが相当である。そして、右『担保権を証する書面』については、同法181条1項1号ないし3号に定められているような公文書であることを要する旨の規定はないから、債務名義に準じるような格式性は必要なく、複数の文書を総合して裁判所の自由心証によって、担保権の存在を高度の蓋然性をもって証明できる文書であれば足りるのであって、必ずしも債務者が作成に関与した文書でなければならないというものではないが、一般的には、債権者が一方的に作成した文書、債権者や第三債務者が事後的に作成した文書には、右のような証明力が認められ難く、債務者が関与して作成された文書以外の文書にそのような証明力が認められるのは、特別の場合であると考えられる。」と判示した。
大阪高決H12.2.15:「担保権の存在を証する文書」につき、債権者が債務者の関与なしに事後的に作成した文書が採用された事例
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「民事執行法193条1項にいう『担保権の存在を証する文書』については、債務名義に準じるような公文書である必要はなく、私文書でも足り、一通の文書でなくても、複数の文書によることも許されるが、これらの文書を総合して、担保権の存在を高度の蓋然性をもって証明できる文書であることが要求される。したがって、担保権の存在を証する文書については、必ずしも債務者が作成に関与することまでは要求されないが、債権者が一方的に作成した文書、債権者や第三債務者が事後的に作成した文書等は上記証明力が弱い場合があるため、これらの文書だけでは担保権の存在を高度の蓋然性をもって認定することができないという理由で、担保権実行の申立が却下される場合のあることは当然である。甲六は、・・・であり、甲七は・・・であって、これらの文書は事後に債権者である抗告人や第三債務者が債務者である破産者の関与なしに作成した文書ではあるが、このことだけを理由に直ちに排斥するのは相当でない。甲六、七と前記・・・事実を総合すれば、・・・売買契約に基づく動産売買による先取特権に基づく物上代位権を有することが認められる。」
4 物上代位(民法304条)
買主が対象物を第三者に売却した場合、売掛金を動産売買先取特権に基づく物上代位により差し押さえることが可能です。
⑴ 物上代位が可能な範囲
購入した物をそのまま第三者に売却した場合には物上代位が可能であることに争いありませんが、買主が何らかの加工等をした場合、物上代位が可能か否か問題となります。
買主が加工した場合、原則として物上代位権を行使することができませんが、動産の転売による代金債権と同視するに足りる特段の事情がある場合には、物上代位権を行使することができると解するのが相当と解されています(最決H10.12.18)。
最決H10.12.18(破産):請負工事に用いられた動産の売主が、動産売買先取特権に基づく物上代位をすることができる要件を示した判例
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甲社は乙社から請負を受注し、その一部についてXに対して下請けに出していましたが、甲がXに代金を支払う前に、甲につき破産手続開始決定がなされ、Yが破産管財人に選任されました。Xは甲社の乙社に対する売掛債権について、動産売買先取特権の物上代位に基づき、債権差押及び転付命令の申立てを行ったのに対しYが争いました。
本決定は「動産の買主がこれを他に転売することによって取得した売買代金債権は、当該動産に代わるものとして動産売買の先取特権に基づく物上代位権の行使の対象となる(民法304条)。これに対し、動産の買主がこれを用いて請負工事を行ったことによって取得する請負代金債権は、仕事の完成のために用いられた材料や労力等に対する対価をすべて包含するものであるから、当然にはその一部が右動産の転売による代金債権に相当するものということはできない。したがって、請負工事に用いられた動産の売主は、原則として、請負人が注文者に対して有する請負代金債権に対して動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使することができないが、請負代金全体に占める当該動産の価額の割合や請負契約における請負人の債務の内容等に照らして請負代金債権の全部又は一部を右動産の転売による代金債権と同視するに足りる特段の事情がある場合には、右部分の請負代金債権に対して右物上代位権を行使することができると解するのが相当である。
これを本件について見ると、記録によれば、甲社は、乙社から・・・の設置工事を代金2080万円で請け負い、右債務の履行のために代金1575万円で右機械をXに発注し、Xは甲社の指示に基づいて右機械を乙社に引き渡したものであり、また、右工事の見積書によれば、2080万円の請負代金のうち1740万円は右機械の代金に相当することが明らかである。右の事実関係の下においては、右の請負代金債権をXが甲社に売り渡した右機械の転売による代金債権と同視するに足りる特段の事情があるということができ・・・」として、動産売買先取特権による物上代位を認めました。
⑵ 物上代位の要件
債務者が第三債務者から「払渡し又は引渡し」を受ける前に先取特権者は差押えをする必要があります(民法304条1項)。
買主が第三債務者から手形で支払を受けても「払渡し」にあたらないと解されますが(東京地判H10.3.31)、転売代金の譲渡や、第三債務者の対象物に対する担保設定(対抗要件を具備を含む)は、「引渡し」に該当すると解されています(最判H17.2.22、最判S62.11.10)。
東京地判H10.3.31(破産) | 第三債務者が支払いのために手形を振り出すことは「払渡し」にあたらないとした裁判例
裁判例の詳細を見る 甲社はX社から仕入れた動産を乙社に売却した状態で破産し、Yが破産管財人に選任されました。その後、乙社がYに原因債務の支払のために約束手形を振り出した後に、Xは動産先取特権に基づく物上代位により甲社の乙社に対する原因債権を差し押さえ、その転付命令を得ましたが、Yが手形金を回収したため、XがYに対して、手形金が不当利得にあたるとして、その返還を請求しました。 本判決は、「第三債務者が原因債権の支払いのために手形を振り出しても、手形金の支払いがあるまでは、原因債権は手形債権とともに存在しているから、支払いのためになされた手形の振出をもって、原因債権について民法304条1項ただし書にいう『払渡』があったものとみることはできない。 したがって、本件差押が民法304条一項ただし書にいう『払渡』後になされたとのYの主張は理由がない。」としたが、「原因債権の支払いのために手形が振り出された後に原因債権のみに転付命令がされたとしても、手形債権自体は、右転付命令による原因債権の移転を理由に消滅するものではないから、・・・Yが手形金を取得する法律上の原因を喪失したことにはならない。」として、結論としてはXの請求を棄却しました。 |
最判H17.2.22 | 転売代金が譲渡され、対抗要件を具備した後は、動産売買先取特権による物上代位を行使することはできないとした裁判例
裁判例の詳細を見る 乙社は甲社から仕入れた動産をYらに売り渡した後で、破産手続開始決定を受け、管財人に選任された丙は、乙のYらに対する当該債権をXに譲渡し、譲渡通知も発送しましたた。その後、甲社が動産売買先取特権に基づく物上代位権の行使として,乙社のYらに対する売掛債権について債権差押命令を得ました。かかる状況で、XがYらに対して当該債権の支払を求めて提訴し、Yらは、甲社の動産売買の先取特権に基づく物上代位に基づく債権差押命令があることなどを理由に請求を争いました。第1審はXの請求を棄却しましたが、控訴審は概ねXの請求を認容したたため、Yらが上告しました。 本判決は「民法304条1項ただし書は、先取特権者が物上代位権を行使するには払渡し又は引渡しの前に差押えをすることを要する旨を規定しているところ、この規定は、抵当権とは異なり公示方法が存在しない動産売買の先取特権については、物上代位の目的債権の譲受人等の第三者の利益を保護する趣旨を含むものというべきである。そうすると、動産売買の先取特権者は、物上代位の目的債権が譲渡され、第三者に対する対抗要件が備えられた後においては、目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することはできないものと解するのが相当である。・・・甲社は、Xが本件転売代金債権を譲り受けて第三者に対する対抗要件を備えた後に、動産売買の先取特権に基づく物上代位権の行使として、本件転売代金債権を差し押さえたというのであるから、Yらは、Xに対し、本件転売代金債権について支払義務を負うものというべきである。」としました。 なお、抵当権の物上代位に関する最判H10.1.30は、賃料債権が譲渡され対抗要件が備えられた後でも、物上代位ができるとしています。 抵当権と先取特権では結論が異なっています。 |
最判S62.11.10 | 動産売買先取特権と集合動産譲渡担保権では、対抗力を具備している限り集合動産譲渡担保権が優先するとした判例
裁判例の詳細を見る 甲に対して動産売買にかかる売掛代金債権を有していたYが、動産売買先取特権に基づき甲が倉庫に保管していた当該動産につき競売申立をしたところ、Xが当該動産に対して集合譲渡担保を設定しているとして第三者異議の訴えを提起しました。第1審、控訴審ともXの請求を認容したため、Yが上告しました。 本判決は「構成部分の変動する集合動産であつても、その種類、所在場所及び量的範囲を指定するなどの方法によつて目的物の範囲が特定される場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的とすることができるものと解すべきであることは、当裁判所の判例とするところである(昭和53年(オ)第925号同54年2月15日第一小法廷判決・民集33巻1号51頁参照)。そして、債権者と債務者との間に、右のような集合物を目的とする譲渡担保権設定契約が締結され、債務者がその構成部分である動産の占有を取得したときは債権者が占有改定の方法によつてその占有権を取得する旨の合意に基づき、債務者が右集合物の構成部分として現に存在する動産の占有を取得した場合には、債権者は、当該集合物を目的とする譲渡担保権につき対抗要件を具備するに至つたものということができ、この対抗要件具備の効力は、その後構成部分が変動したとしても、集合物としての同一性が損なわれない限り、新たにその構成部分となつた動産を包含する集合物について及ぶものと解すべきである。したがつて、動産売買の先取特権の存在する動産が右譲渡担保権の目的である集合物の構成部分となつた場合においては、債権者は、右動産についても引渡を受けたものとして譲渡担保権を主張することができ、当該先取特権者が右先取特権に基づいて動産競売の申立をしたときは、特段の事情のない限り、民法333条所定の第三取得者に該当するものとして、訴えをもつて、右動産競売の不許を求めることができるものというべきである。」とし上告棄却した。 |
なお、動産売買先取特権者は、破産手続開始後であっても物上代位をすることができますが(最判S59.2.2)、そのためには差押えが必要と解されています(東京地判H11.2.26)。
5 他の担保権と競合した場合の優先順位
根拠 | 結論 |
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民法334条、民法330条 | 動産売買の先取特権と動産質権が競合する場合、動産質権が優先する。 |
最判S62.11.10 | 動産売買先取特権と集合動産譲渡担保権では、対抗力を具備している限り集合動産譲渡担保権が優先する。
裁判例の詳細を見る 甲に対して動産売買にかかる売掛代金債権を有していたYが、動産売買先取特権に基づき甲が倉庫に保管していた当該動産につき競売申立をしたところ、Xが当該動産に対して集合譲渡担保を設定しているとして第三者異議の訴えを提起しました。第1審、控訴審ともXの請求を認容したため、Yが上告しました。 本判決は「構成部分の変動する集合動産であつても、その種類、所在場所及び量的範囲を指定するなどの方法によつて目的物の範囲が特定される場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的とすることができるものと解すべきであることは、当裁判所の判例とするところである(昭和53年(オ)第925号同54年2月15日第一小法廷判決・民集33巻1号51頁参照)。そして、債権者と債務者との間に、右のような集合物を目的とする譲渡担保権設定契約が締結され、債務者がその構成部分である動産の占有を取得したときは債権者が占有改定の方法によつてその占有権を取得する旨の合意に基づき、債務者が右集合物の構成部分として現に存在する動産の占有を取得した場合には、債権者は、当該集合物を目的とする譲渡担保権につき対抗要件を具備するに至つたものということができ、この対抗要件具備の効力は、その後構成部分が変動したとしても、集合物としての同一性が損なわれない限り、新たにその構成部分となつた動産を包含する集合物について及ぶものと解すべきである。したがつて、動産売買の先取特権の存在する動産が右譲渡担保権の目的である集合物の構成部分となつた場合においては、債権者は、右動産についても引渡を受けたものとして譲渡担保権を主張することができ、当該先取特権者が右先取特権に基づいて動産競売の申立をしたときは、特段の事情のない限り、民法三三三条所定の第三取得者に該当するものとして、訴えをもつて、右動産競売の不許を求めることができるものというべきである。」とし上告棄却しました。 |
最判S62.4.2 | 他に競合する差押債権者等があるときは、強制執行の手続の配当要求の終期までに、担保権の存在を証する文書を提出して先取特権に基づく配当要求又はこれに準ずる先取特権行使の申出をしなければ、優先弁済を受けることができない。
裁判例の詳細を見る Xは、甲社に対する動産売買の先取特権の行使として甲社の乙社に対する転売債権を差し押えたところ、甲社の他の債権者Yも、当該転売債権につき差押えを行いました。執行裁判所が、XYの債権額に応じた案分弁済の配当表を作成したとことから、Xが優先権を主張して配当異議の訴えを提起したところ、第1審、控訴審ともXの請求を棄却したことから、Xが上告しました。 本判決は、「動産売買の先取特権に基づく物上代位権を有する債権者は、物上代位の目的たる債権を自ら強制執行によつて差押えた場合であつても、他に競合する差押債権者等があるときは、右強制執行の手続において、その配当要求の終期までに、担保権の存在を証する文書を提出して先取特権に基づく配当要求又はこれに準ずる先取特権行使の申出をしなければ、優先弁済を受けることができないと解するのが相当である。」として上告を棄却しました。 |
6 倒産時における取扱について
破産法 | 別除権として扱われます(破産法2条9項)。物上代位も行使可能と解する。 |
民事再生法 | 別除権として扱われます(民事再生法53条1項)。物上代位も行使可能と解する。 |
会社更生法 | 更生担保権となります(会社更生法2条10項)。 |