このページは取引契約において定めるべき事項/取引条件として検討すべき事項として、どのようなものがあるかについて、整理しています。
当然ですが、取引の内容などによって定めるべき事項は異なりますので、ここでは多くの契約に共通する、重要な点について触れます。
1 取引契約に共通する、重要な定めについて
取引契約に共通する、重要な定めとしては以下のものがあります。
なお、取引が継続的に行われる場合には取引基本契約を締結することが多いですが、個別の契約ごとに契約を条項を定めることでも構いません。管理の手間が異なるだけです。ただし、どのような契約条件で取引を行っているかについては、明確であることが必要です。
⑴ 契約解除条項
民法は債務不履行に対する催告解除を定めています(民法541条)。つまり、契約に特約がないと、債務不履行が発生しないと解除ができないことになります。
しかし、債権を保全するという観点からは、取引相手に信用不安が発生した場合(例えば手形の不渡り)や、契約違反はないものの契約違反が発生する蓋然性が高い場合にも、解除ができるようにしておくべきです。
また、一定の事由が発生した場合には催告なく当然に解除されるようにしておくべき場合もあります。
⑵ 期限の利益喪失事由
民法は、①債務者が破産手続開始の決定を受けたとき、②債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき、③債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないときは期限の利益を失うと定めています(民法137条)。つまり、契約に特約がないと、これらの事由が発生しないと期限の利益を失わないことになります。
しかし、、取引相手に信用不安が発生した場合(例えば手形の不渡り)や、契約違反はないものの契約違反が発生する蓋然性が高い場合にも、期限の利益を失うようにしておくべきです。期限の利益を失わせることで、相殺ができるようになったり、相手方に対する訴訟提起ができるようになります。
なお、期限の利益喪失条項には、当然失期(一定の事由が発生した場合に当然に期限の利益が失われるというもの)と、請求失期(さらに、債権者からの請求が必要とするもの)があります。契約では事由に応じて両者を使い分けて定める場合が多いように思います。
⑶ 契約違反に対する、損害賠償の予定額や違約金(遅延損害金)の条項
取引違反に対する損害賠償をする場合、契約に特約がない場合、請求者が損害額を立証しなければなりません。取引上の損害額の立証は、容易ではないケースもあります。そこで、損害賠償の予定額を定めておくことがあります。これにより損害額の立証は不要となります。
また、契約違反をした場合の違約金条項を定めておくこともあります。違約金が発生することのプレシャーにより、取引相手方の契約違反を防止するという効果が見込めます。
なお、遅延損害金も違約金の一種です。金銭消費貸借上の債務不履行に対する遅延損害金は利息制限法の上限規制がかかりますが、取引契約であれば利息制限法は適用されませんが、あまりに高額な定めは無効とされる可能性もあります。
⑷ 裁判管轄に関する条項
割と見落としがちなのが裁判管轄です。何も定めていなければ、被告の本店(個人であれば住所地)となります(民事訴訟法4条)。通常債務不履行をされた側が、債務不履行をした側を訴えるので、債務不履行をした側に有利な裁判管轄となってしまいます。しかしそれでは不公平ですので、裁判管轄を定めておくことで、そのような不公平を解消することが可能です。
2 取引条件として検討すべき事項
⑴ 約定担保の設定
債務者から何らかの担保の提供を受けられるのであれば、担保設定を行うべきである。約定担保としては、①(根)抵当権、②質権、③譲渡担保、④所有権留保があります。このうち比較的簡単に設定ができるのは④所有権留保です。
所有権留保は、占有改定による引渡しが必要ですので(東京地判H22.9.8)、契約条項にはその旨も入れておくべきです。また所有権留保は担保対象物の所在が確認できないと実行が難しいため、担保対象物の所在を確認し、また定期的に担保対象物の所在を報告する義務を債務者側に負わせることも検討が必要です、
約定担保権の詳細は以下のリンク先の「2 約定担保権」をご参照下さい
⑵ 法定担保権の実行可能性の確保
法定担保権としては、主なものとして①留置権、②一般の先取特権、③動産売買先取特権があります。このうち③動産売買先取特権を実行するにあたっては、対象物の所在や転売先の情報などが必要となりますので、対象物の所在や転売先を確認し、また定期的にこれらを報告する義務を債務者側に負わせることも検討が必要です、
法定担保権の詳細は、以下のリンク先の「1 法定担保権」をご参照下さい
⑶ 連帯保証人
物的担保の提供を受ける以外に、連帯保証人を付けてもらう方法があります。会社代表者などが連帯保証するケースがあります。
個人の連帯保証は、近時の民法改正で制度内容が変更になっていますので注意が必要です。連帯保証に関する留意点は、以下のリンク先においてまとめておりますので、ご参照下さい。